神戸大学在学中の20歳で起業し,就農。拡大成長の先にある新たな価値創出を理念に農業に取り組み,農場と食を近づける六次産業を推進。企業共生型の農福連携により障がい者雇用と地域経済の再生に取り組む。株式会社ベルク社外取締役。農林水産省ビジネスコンテストINACOME最優秀賞など多数受賞。2023年1月13日例会にも卓話者として登壇。
私は大学入学後,すぐに農業に進んだわけではなく,ラオスの農村部でのボランティア活動に参加するなどしていました。しかし,日本が経済発展を追い求め,寄付するだけでは,根本的な問題解決にはつながらないというモヤモヤした憂いがありました。そんな時,先輩から京都・亀岡での農業体験に誘われました。門跡寺院の故・梶妙壽門跡の「命の種を植えて育て,命をいただくことで私たちは生きている。だからこそ奪った命に対して責任を持った生き方をしなければならない」という説法に感銘を受け,農業こそが環境課題や貧困課題などを解決する糸口になると感じ,有機農業の世界に飛び込みました。
就農・起業して15年,決して順風満帆ではありませんでした。地域の就農者を増やしたい,若者が働きたいと思える農業にしたいとの思いで,さまざまな取り組みを進めましたが,担い手が減り続けるのを現場で痛感してきました。一方で,大きな変化もあります。2021年に農水省は,「’50年までに有機農業の面積比率を25%に拡大する」という目標を掲げました。持続可能な食料システムの実現が,世界共通の課題として議論されるようになってきました。しかし,「誰がやるのか」が最大の課題なのです。
有機農業は決して新しいものではなく,自然を敬い,命に感謝し,次の世代へ受け継ぐ,そうした日本人が持っていた価値観を見直すことが求められています。3年半前に「国連食料システムサミット」に出席した際,気概のある自治体が自ら宣言し,オーガニックビレッジを100市町村以上つくる構想について話しました。私は構想をまとめ,自治体を回って提案しましたが,当初は「有機農業を担う農家がいない」といった回答ばかりでした。
そんな中で,亀岡市の桂川孝裕市長と面談する機会があり,構想を説明しました。そして,「ぜひ亀岡で実現したい」とお話をいただき,亀岡市は2023年2月に全国で2番目となるオーガニックビレッジ宣言を行いました。亀岡駅前には14ヘクタールの農地があります。「サンガスタジアム」の建設予定地として市が取得した土地でしたが,調査を進める中で,国の天然記念物で絶滅危惧種の「アユモドキ」の生息が判明しました。京都駅から快速で19分とアクセスが良い駅前の農地を開発せずに未来に残し,オーガニックビレッジの象徴的な場所にすることにしたのです。
この耕作放棄地で稲作を始めるにあたり考えたのが酒米を植えることで,亀岡市と地域連携包括協定を締結しました。1ヘクタールで始めた初年度から高収量を実現し,有機酒米を使った日本酒づくりに共に取り組んでいる菊正宗酒造さんへ契約数量を納品できました。酒米は酒蔵との契約栽培のため,販路が安定しており,収穫量が多い場合は食用米として流通させる試みを行いました。酒米の栽培は日本の食料安全保障や食料レジリエンスの向上につながると思います。昨年は3倍の面積に広げ,京都・伏見の玉乃光さん,新潟・南魚沼の八海山さんも参画しました。今年は5.5ヘクタールまで拡張しています。
実はこの駅前の14ヘクタールの農地が,9月から11月に開催される「全国都市緑化フェア」の会場の1つになります。京都府北部の2市1町の主催で,初めて農地などを活用して開かれ,全体で75万人以上の誘客を見込んでいます。このフェアの跡地に「オーガニックビレッジパーク」を整備する協力協定を,1月に亀岡市と締結しました。
フェア終了後に原っぱとなるエリアを「Turtle Fields(タートル・フィールズ)」と名付け,季節ごとのマルシェやクラフト市,子どもたちが遊べる空間を作るほか,「SAKEBANK」で日本酒の魅力発信や価値向上につながる取り組みを展開したいと考えています。
約1ヘクタールある「畑エリア」はフェア終了後,野菜畑として活用する予定で,「企業共生型農福連携」の実践拠点にしたいと考えています。中山間地域には働きたい障害者はいるのに雇用がないという課題があり,一方で都市企業には障害者雇用の課題があります。そこで,企業の人的資本を地方農業につなぐ企業共生型農福連携を始めました。企業が障害者を直接雇用し,農場で働いてもらう仕組みで,私たちは就労と農業の両面をサポートしています。今後のアイデアとして,提携企業と組合をつくり,障害者が組合で働き,参画している企業の法定雇用に反映し,農業収益を組合が分配する仕組みを検討中です。1ヘクタールの畑があればできる共創モデルの先駆けとして,単なる障害者雇用ではなく,企業と地域が共に支える新しい農業の形にしたいと思います。
企業共生型農福連携の畑の麓に設ける次世代型農業エリアは,動物と農が共に生きる里山の原風景と命の循環を再現し,大学や企業と実証を行うリビングラボを構想しています。
亀岡オーガニックビレッジパークには年間200万人以上が訪れる計画で,2050年を超えても農村地域の持つ可能性を発信できる場所を目指すために,今年は最も大切な挑戦の年です。企業版ふるさと納税や寄付,SIB(ソーシャルインパクトボンド)などによる資金集めを亀岡市と協議しており,10億円規模を想定しています。企業版ふるさと納税は,地方創生事業を応援する企業に対し,寄付の最大約9割が税額控除等で軽減される仕組みです。今年の企業版ふるさと納税の寄付先の1つとして亀岡市をご検討頂ければ幸いです。
亀岡オーガニックビレッジパークの実現を通じて,都市と農村が支え合い,人と自然が共生し,未来世代へ受け継がれる地域モデルをつくりたいと考えています。3年半前に大阪RCで卓話をした当時は「夢」でしたが,現在,オーガニックビレッジ宣言をしている自治体は150を超えました。亀岡で成功事例をつくり,モデルを宣言地域へ横展開し,地方創生を通じた日本創生に尽力していきたいと思います。ぜひ,皆様とご一緒にこの挑戦を育てていければ幸いです。
(スライド・動画とともに)