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2026年5月15日(金)第5,005回 例会

上がるのは血圧か工事費か

西 田    修 氏

株式会社ユーデーコンサルタンツ
最高顧問
西 田    修 

1953年神⼾市⽣まれ。⼤阪⼤学⼯学部建築⼯学科卒業。2001年株式会社ユーデーコンサルタンツ代表取締役,’24年には同社最⾼顧問に就任。’14年〜’24年(⼀社)再開発コーディネーター協会理事を務める。’11年都市再開発⾼⼭賞,’19年国交⼤⾂表彰,’24年⻩綬褒章を受章。’10年〜’19年⼤阪産業⼤学建築環境デザイン学科講師を務める。

 1969年に施行された「都市再開発法」に基づく再開発事業の中で私はコーディネーターの仕事をしています。逆瀬川駅前の再開発にも関わりましたが,私の仕事は権利者が100人以上いるような地区で事業施行者となる再開発組合の代理人的なもので,地元のまとめや行政,デベロッパー,ゼネコンとの折衝です。重要なのは,参加組合員(デベロッパー)にできるだけ高く床を売り,工事費を安くすることですが,昨今は工事費が急騰しており,再開発事業がかなり難渋しています。
 現在,全国の約1,200地区で再開発事業が行われていますが,最近の「中野サンプラザ」のニュースをご存知かと思います。東京都中野区が再開発事業手法を使ってホールを建て替えようとしたところ,2021年に総事業費が1,800億円だったのが,24年1月に2,700億になり,同年9月には3,600億に膨らみ,事業が中断しました。中野区は今年末に改めて事業者を募集し,’30年度に事業に着手することになっています。実はこれがキーワードで,皆さん’30年まで着工を待っているのが今の状況だと思います。

工事費高騰,人手不足で中断相次ぐ

 工事費の高騰や人手不足により再開発の中止,見直しが続いています。’25年に起きた事例で最もショッキングだったのが,名鉄名古屋駅の再開発中断です。大手ゼネコン3社が「とてもできません」と事業を辞退した。リニア関係の名古屋駅改修を含む話でも,工事費の高騰で中断してしまうのが現状なのです。
 完成工事高(延べ床面積)の推移を見ると,オイルショック,バブル崩壊,リーマンショック,コロナ禍と来て,実は’25年は極端に落ちています。62年ぶりに1億㎡を割り込む公算が大きい。これは工事を取るのを抑えている状況を示しており,あるゼネコンは受注制限をしていると聞いています。
 私が関わっていた地方都市の再開発の総事業費が500億ぐらいの事例ですが,2022年に着工して今年ようやく竣工しました。’15年ごろ,事業協力者を募集しながら事業計画を作りました。’13年~’14年にアベノミクス始動,消費税8%があり,この頃から工事費が急騰しました。’22年に円安が進んで1ドル150円台に乗り,とどめを刺したのが’24年の時間外労働の規制でした。事業継続が危ぶまれましたが,再開発事業,都市計画事業で事業認可を取ったものについて,国が足りない分を全額補填する新しい制度により,事業に着工することができて,成功裏に終わろうとしています。
 直近の工事費の推移を見ると,’20年の第1四半期から’25年の第4四半期の間で170%上がっています。実は現在,私が関わっている地方都市の再開発事業は事業費1,000億円超でしたが,概算見積もりを取ったところ工事費が1.5倍になってしまい,中野サンプラザと同じように「’30年まで待ちましょう」と申し上げています。国交省の統計「新規の大型工事が受注できる時期」を見ると,’27年度が42%,’28年度が20%,’30年度以降が7%ということで,未着工・未完了の建設工事が非常に増えている状況がよく分かります。
 原因は何か。「時間外労働の規制」「円安」「材料が高い」などのほかに,「人手不足」が挙げられます。現在の人手不足はバブル期以来の水準です。就業者数,業者数,建設投資はいずれもバブル崩壊前後がピークでしたが,それに比べると就業者数は30%落ち,業者数と建設投資は20%落ちているのが現状です。もっと問題なのは「高齢化」です。建設就業者の現状を見ると,バブル期に着工した工事が増えたピークの1997年と比べて,29歳以下は1割以下,50歳以上は3割以上になっており,高齢化して若手労働者がいないことが分かります。

再開発事業とタワマン

 今の再開発事業には,ほとんどタワーマンションが計画されています。床負担力のあるタワーマンションが高く売れることで,高騰した工事費を吸収しているわけです。最近,財務省は国が補助を入れた事業で住宅事業者がすごい利益を出していると見ており,国交省から「あまり利益を乗せるな」という通達がデベロッパーに出たこともあり,厳しい判断を迫られています。しかし,どうしても大規模開発,再開発事業ではタワーマンションが必要なので,これからも建っていく。私どもがやっている再開発でも,住宅がメインの計画になっているので,この傾向はしばらく続くと思います。
 現在,九州の熊本ではTSMC,東広島市ではマイクロン・テクノロジー,北海道ではラピタスといった半導体工場の建設工事が続いており,1兆円ぐらいの発注もあるので,業者はそっちに行っている。そのあたりの工事が30年ごろに終わるのが,再開発コーディネーター会社のかすかな希望です。

燃え広がらない街づくり

 では今後4年,われわれは何をするのかというと,「防災街区整備事業」があります。20年ぐらい前にできた再開発事業の小型版で,要は「燃え広がらない街づくり」を目指す事業です。
 「防災街区整備事業」は全国に24カ所にあり,当社が13カ所をやっています。特に東京都内17カ所のうち10カ所は当社です。大型の再開発事業は,地権者の合意形成に時間がかかり,解体から着工まで4~5年かかり物価上昇のリスクを受けやすい。一方,規模の小さい防災街区整備事業の工期は2年以内なので,積極的に取り組んでいます。
 東京都は直下型地震について非常に敏感になっており,この防災街区整備事業を使って,周辺に延焼遮断帯をつくるという大きな課題を持っています。事業化のスピードが早いので,どんどん延焼遮断帯という壁ができています。大阪市もこれをやるべきだと思っています。中崎町や天満などの,いわゆる木造密集地区で火事が起こると延焼スピードが早いので,延焼遮断帯を作る必要があると言われています。大阪市には,ぜひ積極的に考えていただきたいと思っています。
(スライドとともに)