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2026年4月10日(金)第5,001回 例会

2019大阪G20から7年が経つ。世界は揺れている

山 本  条 太 氏

関西エアポート株式会社
顧問
山 本  条 太 

1982年外務省入省。国連代表部一等書記官,外務省条約課首席,在ロシア大使館一等書記官,外務省北米一課首席,内閣法制局参事官,慶應義塾大学教授,外務省領事局政策課長,内閣官房参事官,在パキスタン大使館公使,ヒューストン総領事,防衛省防衛政策局次長,内閣府PKO局長兼国家安全保障局審議官,駐フィンランド大使,関西担当大使,駐オマーン大使を経て,2025年4月から現職及び天理大学特命教授就任。

大阪G20と対話主義

 私はG20大阪サミットが開催された2019年から2年半,外務省関西担当大使を務めました。サミットに先立つ時代,世界は混乱の予兆に満ちていました。’14年のロシアのクリミア侵攻以来の欧州とロシアとの対立,’16年の英国のEU離脱を巡る国民投票や米大統領選のもたらした混乱。トランプ大統領の登場に伴う国際的な枠組みの動揺。アジアでは東シナ海や南シナ海を巡る対立,北朝鮮の核・ミサイル開発など,新たな脅威が広がった時期でした。
 情勢の不安定化を感じながらも,常に一つの希望を持つことができました。世界はかまびすしいけれども,対話を通じた問題解決の重要性は忘れられていないということです。クリミア侵攻以来,ヨーロッパはロシアに制裁を科し,ハイレベルの政治対話を停止しましたが,日本は一歩引いた対応にとどめ,日ロ首脳間の活発な対話を維持しました。中国脅威論が高まる中,安倍総理は中国との対話強化を粘り強く模索し,G20大阪サミットが,習近平氏の主席としての初の訪日機会を提供しました。G20大阪サミットは,首脳間の政治対話こそが対立を緩和し,問題解決への道筋を整えることができる,そういった希望をつないだ場だったのです。

コロナ禍,ウクライナ侵攻

 ところが,新型コロナによる数年にわたる移動と交流の断絶は,G20大阪サミットが醸し出した対話主義のチャンスを奪い,国際関係における利己主義,刹那的な独断,各国経済の停滞と社会不安は,自国ファーストの蔓延をもたらしました。コロナ禍の終息後も,時代は対話と協調とは逆の方向に進み,国際秩序への信頼は,かつてないほどに低下しています。
 います。’20年の米大統領選は,対話ではなく対立,協調ではなく分断,時として暴力という風潮を象徴する出来事になりました。選出されたバイデン大統領は「同盟の再構築」を唱えました。しかし,ウクライナのNATO加盟問題の進展はロシアを驚愕させ,’22年2月のウクライナ侵攻を誘発してしまいました。
 米国,欧州,日本は,ロシアの行動を重大な国際法違反と非難しました。しかし,事態が長期化する中で生じたのは,誰も和平の仲介どころかロシアとの対話さえ模索せず,武器と資金をウクライナにつぎ込み,ロシアと戦わせ続ける恐ろしい状況でした。
 私たちは,ウクライナ問題の解決を待ってから対ロシア関係の今後を考えるのではなく,現状で何ができるかを考える必要があります。まずは,日ロの外務・防衛閣僚協議(2プラス2)の枠組みのもとで専門家レベルの情報交換を再開し,不測の事態を防ぐなど,戦略的関係を早急に再構築する必要があります。
 中国との関係も,劇的な改善を近く期待できる状況にはありません。中国の外交防衛の実権は党にあるので,政府間対話には難しい面があります。むしろ政治家や学者など個人的な人間関係が重視され,それが日中関係の強みでもありました。日中の財界人,経済人が育んできた関係を通じた対話の維持強化なしに,今の困難な状況の打開はできません。

イラン攻撃,国際社会の責務

 トランプ第2次政権発足後間もなくの’25年6月,イスラエルと米国がイランを攻撃した際,事前の外交努力は一切行われませんでした。さらに今年2月のイスラエルと米国によるイラン空爆は,交渉による解決が期待される中で,突如とられた軍事行動でした。
 昨年春まで私は駐オマーン大使を務めていました。’25年6月のイラン攻撃は,オマーンが仲介した米国とイランとの交渉日程が公表された直後でした。しかし,オマーンのバドル外相はその後も粘り強く仲介を進め,米国とイランの交渉を今年3月2日に開催できるところまでこぎ着けました。しかし2月28日,イスラエルは再びイランを攻撃し,米国が後追いして交渉は頓挫。イランへの大規模空爆と最高指導者の殺害,イランによる報復攻撃,周辺国への被害拡大とホルムズ海峡情勢の悪化という事態が次々と生じました。
 交渉の妥結を嫌ったイスラエルの強硬論を米国が抑えられなかったこと,イラン側の対応が遅れがちだったこと,米国とイスラエルの諜報活動が予想外の成果を挙げ,作戦遂行に必要な材料がそろってしまったことが攻撃の背景にあったようです。
 今後のエスカレートを止めることができるかは,イランの判断次第です。イランにはまだ継戦能力があります。いったん沈静化したとして,戦闘が再燃するかは,イスラエルの出方次第です。トランプ政権がイスラエルにこれ以上引きずられないことを祈るばかりです。米国,イラン両国が信頼を寄せるオマーンの仲介努力を,日本をはじめ国際社会がどうバックアップするかが問われています。
 今後の事態が短期的にどう推移するかは不明ですが,中長期的な課題は自明です。イランと各国,特にイランとアラブ諸国,究極的にはイランとイスラエルとの安定的な関係なしに中東の平和と繁栄はありません。そのための湾岸・アラブ諸国の努力をより統一的,効率的にバックアップするのが域外国の責務です。
 安全保障環境の悪化が世界各地で叫ばれています。どの国に対する抑止力を高めるのか,仮想敵は誰なのか,冷静に内密にじっくり考えるべきです。これからの日本にとっては,場面,場面で力を合わせられる国をどう増やしていくかも重要です。米国とイランの仲介をしているオマーンを,どう後押しするのかを考える。ペルシャ湾にタンカーを通すには,どの国と,どう息を合わせるかを考える。その積み重ねの中で,日本も身の丈に合ったイニシアティブを求められていくと思います。
 来年,関西がホストする「ワールドマスターズゲームズ」には,世界各国から人が訪れます。関西には多くの国が立派な総領事館を置いています。文化であれ,日常のことであれ,接触を続け,静かにそれを拡充していく。G20サミットや万博を成功させた大阪なら,それができるでしょう。