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2026年3月6日(金)第4,997回 例会

ヘルシー・エイジングとアンチエイジング

堀    正 二 氏

会 員 堀    正 二 

1945年生まれ。’70年大阪大学医学部卒業。医博。’96年大阪大学医学部第一内科教授。2005年臓器別編成にて,循環器内科学初代教授。’08年大阪府立成人病センター総長。現在,大阪国際がんセンター名誉総長。
日本心不全学会理事長,国際心臓研究学会理事長,国立循環器病研究センター理事歴任。
大阪ハートクラブ代表理事・会長。大阪成人病予防協会会長。’04年当クラブ入会。’08年健康を守る会委員長等を歴任。’20年会長。

 エイジングというのは「老化期間の加齢現象」のことを言います。誕生して,成長して,成熟して,生殖機能を獲得します。その最終期から老化死で亡くなるまでの間を「老化期間」と定義しています。
 人の死に方には,老化死,病死,事故死,被食死があります。被食死は動物に食われて死ぬことで,今はほとんどない。病死は医療の発達で非常に減っており,相対的に老化死が増えているのが現状です。

代謝と寿命

 「ニシオンデンザメ」は400年も生きるとされ,特に寿命が長い動物です。低体温と巨大な図体,この2つのファクターが長寿のヒントになります。小さなネズミは一般に短命ですが,「ハダカデバネズミ」は30年生きます。熱帯草原の土の中にいて,ほとんど動かない。低酸素,低温の環境に耐えるようにできている。代謝が低いことが,長命の大きなファクターではないかと思います。
 米国のカトラー博士の「哺乳類の寿命と代謝量」という表によると,代謝回転が激しいネズミは最大寿命が非常に短い。一方,ゾウ,カバ,ウマなどは単位体重当たりの代謝量が低く,長生きする。中でもヒトが一番長生きする動物です。つまり,代謝量が低い方がよろしい,怠け者の方が長生きするのです。
 脈拍が速いと代謝量も高い。ならば脈拍が速いと早く死ぬのか?―。これ,きれいに早く死ぬんですよ。動物の心拍数と寿命を見ると,マウスやハムスターは1分間に500ぐらい脈を打ち,死ぬのが早い。一方,心拍数が少なく,代謝速度が遅いクジラ,ゾウ,ウマは長生きするのです。皆さんのほとんどが老化期間なのに,ちょこちょこ頑張ろうというのは,早く死にたいからそうしているのかなということになりませんか?(爆笑)。

120歳までに死ぬ

 では,私たちはいくつまで生きられるのか。スライドに「最大寿命は120歳」とありますが,どうして分かるのか。それは,世界で今まで正式な形で120歳以上生きた人がいないことや,「テロメア説」という仮説で説明できます。染色体の端にテロメア遺伝子というキャップのようなものがあり,細胞が1回分裂するごとに短くなる。人間の細胞は50~60回で分裂をやめ,テロメア遺伝子も短縮もしなくなる。その年齢がだいたい120歳なのです。
 2024年3月の日本経済新聞の記事で,1日に100錠を超えるサプリメントを飲むなど,年間200万ドルをつぎ込んで若返りに挑戦し,「老化を24%遅らせた」という米国の大富豪の男性を紹介していました。記事には,人類寿命250歳以上を目指す老化防止薬の研究や,最近,やせ薬として糖尿病の薬(GLP-1受容体の作動薬)が使われており,やせる一方で,自殺念慮や自傷行為などが150件報告されたという話も書かれていました。
 1日100錠のサプリメントを飲んで,若返るとは考えにくく,250歳まで生きるというチャレンジをアンチエイジングと言うのもあり得ない―ということで,私は逆説的に「ヘルシー・エイジング」という名前を付けたわけです。人間は120歳までに死ぬ。最後はヘルシーなエイジングで死ぬのが大事ですよ。
 老化がいかにして生じるかについて,今考えられているのが「エラー蓄積仮説(DNAコピーミス)」です。つまり,ゲノムに傷が入ると,個体の老化は幹細胞の老化から始まって,組織の老化になり,臓器の老化になり,個体の老化に発展していく。その原因は放射線,紫外線,有害化学物質などで,それらがDNAを損傷させる。修復,排除されなかった老化細胞が炎症の原因になって組織障害,臓器障害を引き起こす―と考えられています。
 最近,スタンフォード大学からおもしろい研究報告が出ました。一定期間で老化した物質の数を縦軸に,年齢を横軸に取ると,1回目のピークが44歳で,2回目が60歳でくるということです。44歳は皮膚,筋肉の老化,心臓血管病のリスク上昇,アルコール代謝の低下などが起こります。60歳代になると,免疫機能と腎臓機能が低下します。60歳は私たちが感じる老化の始まりですが,実は44歳からこんなことが起きているのです。

「ピンピンコロリ」が理想

 ここで総括します。「人類生物学からみた老化の対策」としては,1つ目に,最大寿命をこれ以上延ばすことを考えてはいけないということ。2つ目に,長生きした人のクローン人間を作ってはいけない。多様性を失うからです。3つ目に,フレイル(加齢による筋肉,筋力の減少による活力低下)の始まりをできるだけ遅くして,時期をできるだけ短くすること。最後まで若々しく生き,120歳を超えない範囲で亡くなる。「ピンピンコロリ」が理想のヘルシー・エイジングだと思います。
 これが一番おもしろい話。カロリー制限する方が長生きすることが,すべての動物実験で出ています。カロリーを30%カットすると,体重が5%減る,それがいいわけです。アメーバ,ミジンコ,グッピー,ラット,アカゲザル,日野原先生と並んでいますが,日野原先生以外は全部データがあります。日野原先生は1日800㌔カロリーだったと本に書いてありますが,本当か知りません。人間のデータはないのです。皆さん,きょうから30%摂食カットの実験できますか?せめて「腹8分目に医者いらず」で,ゆっくり食べて満足感を得て,それ以上は食べないことです。
 百寿者(センテナリアン)の特徴をお話しします。農村の長男,長女が比較的多く,学歴は高い傾向で,職業は農業が多いが,教員,会社経営なども。アルコールを飲む人はいるが,喫煙はしない。3食規則正しく摂り,食事内容に注意し,適宜な運動と休養,昼寝をする人が多く,睡眠は12時間以上。性格は意志が強く,好奇心に富み,仕事熱心,明るい,朗らか,親しみやすいといった側面もある。
 体質,これがおもしろい。体温が低く,血中インスリン値が低い。つまり,体温が高い人より,冷たい人の方が長生きします。男女差は,圧倒的に女性が長生きです。ただ,ADL(日常生活動作)は男性の方が良好です。
(スライドとともに)