府立茨木高校・中央大学法学部卒業。1979年三井物産産業機械部入社。大阪支店・英国三井物産・経営企画室・三井リース事業・食料・リテール本部・インド三井物産チェンナイ支店など勤務。2012年退職後,大阪市西淀川区長に就任,大阪府市副首都推進局企画担当部長・大阪府商工労働部長を務め’20年退職。’22年京都大学公共政策大学院専門職修士取得。’24年4月から社会構想大学院大学教授(非常勤)。
私は1979年に三井物産に入り,’82年~’89年は大阪支店に転勤し,インドの鍛造メーカーに鍛圧機械,工作機械を売っていました。当初は機械単体の輸出でしたが,鍛造技術も供与して付加価値ビジネスに転換しました。タタグループ元会長の故ラタン・タタ氏とムンバイで商談したこともありました。2008年~’10年はチェンナイ支店長として駐在し,インドの高度成長を踏まえ,南インドの3支店やスリランカ事務所の再編などに取り組みました。’17年~’20年は大阪府商工労働部長として,大阪の産業経済とインドをつなぐことに力を入れ,チェンナイがあるタミルナド州と大阪府の経済・人材交流促進に関する覚書(MOU)を推進しました。コロナ禍の影響で締結は退任後の’24年になりました。
インドの国と産業の基盤は,英国統治(東インド会社・植民地政策)が作りました。藩王国,カースト制,地域の有力地主らを活用した間接統治で,藩ごとに分断させて反乱勢力にならないようにしたのは,徳川幕藩体制とよく似ています。やがて英国の産業革命はインドにもたらされ,1853年にアジア初の鉄道が敷かれるなど,1947年の独立まで英国の資本と財閥がインドの産業・経済を牽引しました。
「多様性の中での統一」という理念を掲げた初代首相ネルー氏は,独立当初500以上あったといわれる藩王国を統廃合しながら温存し,連邦制のもとで間接統治も継承しました。つまり1600年に始まった東インド会社・植民地政策からの統治システムを独立後もうまく活用してきており,現在は28州になっています。ネルー首相には,資本主義のもとで植民地政策をやられたとの思いがあったのでしょう。インドは戦後から1990年代初めまで旧ソ連を手本にした社会主義混合経済をとったため伸び悩み,中国との差がついてしまいました。
’90年代にインドは経済開放,自由化政策に転換。湾岸戦争と原油高で通貨危機が起きた際,日本がインドに3億ドルを供与したことで,日印関係はさらに強固になり,2011年の「日印包括的経済連携協定(CEPA)」,’19年の「日印特別戦略的グローバル・パートナーシップ」につながっていきました。
私はインドは州単位で動いていると紹介してきました。これまでは州政府の権限が非常に強く,IASという上級行政官僚が地方に降りて行き,うまく動かしてきました。
一方,モディ首相は現在,中央集権的な政権運営を強化しています。その代表がGST(消費税)の導入で,従来は州ごとに違いましたが,2017年に統一しました。ジャム・カシミール州を解体し,2つの直轄自治領に再編したほか,主要な官僚を直接任用するなど,官邸主導で政策を打っています。ただ,モディ首相が所属する政党が先般の選挙で議席を減らしたので,現在3期目のモディ首相が政権をどこまで維持できるかがインドの不安要素の一つではあります。
名目GDPについては,もうすぐインドが第4位の日本を追い越し,3位のドイツも抜くとみられています。ただ,1人当たりでは2,711ドルで,まだまだ少ない。中国が1万3,000ドルなので,差はあります。インドは7%の経済成長が見込まれ,3位はもうすぐだと思います。インドには,独立100周年の’47年までに,GDPを30兆ドルに近づける目標があります。現在,米国が29兆ドル,中国が18兆ドルで,米中が伸び悩み,インドが伸びれば,1位,2位,3位の争いになると思います。
成長するインドに関する2つの潜在リスクとして,「貿易収支の推移」と「対ドル為替レートの推移」に注目していただきたい。
インドの貿易収支は,自由経済の成長のもとで石油や付加価値製品・部材の輸入が急激に増えたことで’00年以降,傾向として貿易赤字が膨らんでおり,現状,単年度で3,000億ドルに近づく赤字基調になっています。
貿易赤字の拡大とともに為替が弱ってきており,通貨安を解消できるかも注視しています。現在,原油,電子機器,金,銀の輸入量が非常に増えています。ドル需要が旺盛で,どんどんドルを買って,ルピーを売ってしまうので通貨安に陥っている。こうした状況がインドの株式市場からの海外資本引き上げにもつながり,’25年は180億ドル以上の海外投資資金が流出しています。
インド経済は成長していますが,実は自転車操業というか,通貨の蓄え,資本ストックが十分ではない。そこで海外直接投資の呼び込みと輸出拡大政策の強化が鍵を握るということで,モディ首相は「メイク・イン・インディア」を掲げています。インド国内で製品を作り,輸出を振興するため,外資を呼び込む「生産連動型優遇策(PLI)」を導入し,データでは,’25年末で816件,約2.4兆ルピーの補助を出すなど,ものづくりの分野に力を入れています。インドの産業別付加価値生産額で見ると,製造業は約14%ですが,これを25%に引き上げる政府目標を掲げ,EV,半導体,精密機械など,ものづくりにしっかり取り組もうとしています。
果たしてインドは超大国になるのか―。キーワードは「貿易赤字の解消,そのための政策と実践」で,’30年ごろまでにその兆しが見えるかどうかが焦点だと私は思います。
一般社団法人関西日印協会は,関西圏の中小企業やスタートアップ企業のインド進出を実務レベルで支援することを目的に’24年12月に設立されました。会員専門企業によるコンソーシアムを作り,会員企業のニーズがインド市場に広がるチャンスを伴走型で創出しています。現在,法人会員57社,個人会員17名で,月例産業経済セミナーやインド視察ツアー,文化セミナー「チャイの会」などを行っており,情報提供だけでなく,会員メンバーの役に立つ協会のサービス機能強化に向け,サポート態勢づくりに取り組んでいます。皆さまのご加入をお待ちしています。
(スライドとともに)