1967年奈良市生まれ。大阪大学文学部卒業後,産経新聞大阪本社入社。奈良支局,文化部,社会部を経て上海・復旦大学漢語研修班に業務留学後,香港支局長,中国総局特派員として北京に駐在。2008年秋に帰国後,政治部で麻生政権首相番などを経験。’09年末に早期退職後は,中国,中華圏を専門とするフリージャーナリストとして執筆,出版,講演,テレビ,ラジオなどに出演。
高市政権誕生後の日中関係はどうなるのか?―ということですが,結論から先に言いますと,良くはなりません。悪くなると思っています。その覚悟でいてください。
2012年の習近平政権誕生以降,日中関係は良くなったことがありません。悪くなってきています。理由は,中国にとって日本は「仲良くしてはいけない国」だからです。過去に日本と仲良くしようとした中国の政治家と言えば,胡耀邦,趙紫陽,胡錦濤,李克強ですが,みんな最後は不遇でした。中国の政治家で日本通,日本重視の政治家は必ず失脚する,不幸になるジンクスがあるのです。
胡錦濤政権は対日重視政策に動いたことがありましたが,失敗しました。尖閣諸島周辺での中国漁船衝突事件,尖閣諸島の国有化という中国のメンツをつぶす問題が起きて胡錦濤氏は事実上失脚し,’10年~’12年は反日運動が燃え上がりました。
日本に反感を持っており,日本を重視すると失敗するジンクスをよく分かっていた習近平国家主席は’12年の政権誕生当初から日本に厳しい姿勢を取り,日本人をスパイとして拘束するなどしています。そういう状況で高市政権が誕生しましたが,一瞬だけ習近平政権とうまくいくかと思ったことがありました。それは昨年10月31日にAPEC場外で行われた日中首脳会談です。このときは珍しく中国側が融和シグナルを出しましたが,高市首相は台湾問題,新疆ウイグル人権問題,香港問題,南シナ海の問題,レアアースの問題などに懸念を表明し,習氏の考えを問いただしました。習氏の高市首相に対する印象は最悪だったと思います。そして11月7日には台湾有事を巡る「存立危機事態」発言もあり,「高市許すまじ」の習氏は,何とかして高市政権をつぶしたい考えです。
発言を受けて習近平政権は,日本大使を呼び出し,中国人の訪日自粛を呼びかけ,水産品の輸入再開手続きを中止し,年明けには,軍民両用物資の対日輸出規制強化を発表しました。リストには日本に輸出している農産物以外のほとんどのものが含まれており,本気でやると中国経済も相当な痛手を負います。レアアースや半導体,電気自動車などの部品は,日本も中国の産業にかなり貢献しており,日本が対抗すれば,つぶし合いになります。中国にとって自殺行為になりそうな判断をしたのは,商務省が習氏の怒りを忖度したからです。発言撤回では収まらない。高市政権を交代させるという圧力がかかり,軍民両用物資,レアアース・カードを切ったのです。
軍事的圧力もありました。宮古海峡封鎖演習をやり,対領空侵犯措置で緊急発進した自衛隊機に対し,中国軍機がロックオン(火器管制レーダーを照射)しました。パイロットのうっかりや暴走ではなく,習氏の指示と言われています。日本の世論が「高市首相のせいで戦争に巻き込まれる」となり,支持率を下げて政権を転覆させるのが目的で,認知戦,情報戦的な方法で圧力をかけているのです。
日中関係を決めているのは,実は米中関係なのです。米中関係が悪いときは少しだけ日中関係を良くする。一方,米中関係が安定しているときは,アメリカ追随外交の日本はアメリカのやり方に従うという暗黙のルールというか,対日外交観が中国にはあります。
「日本は北京ダックのように,3つのおいしい利用法がある」と,中国の外交官や官僚からよく言われます。つまり①歴史認識を攻撃することで,中国共産党の統治の正しさを証明することに利用できる②尖閣(釣魚島)は中国の不可分の領土だと主張することで,中国人の愛国心,団結心を強め,求心力を高められる③日本には非常に親中的な人たちがおり,経済援助,投資,技術などを惜しげもなくくれる―この3つで日本はとても利用価値のある国だというのです。
中国と日本の間に「対等の外交」はなかったと中国の官僚は言います。2000年代初めごろまでは,日本側はまず歴史への反省に言及し,中国に配慮するのが日中外交・民間交流の基本スタイルでした。それが徐々に変わり,安倍政権2期目以降,ずいぶん対等な外交になりました。高市政権は,歴史の反省や謝罪なしの対等な外交姿勢を示し,台湾やウイグルの問題など政治的に敏感な話を会談で持ち出しました。自民党政治は伝統として,中国側の機嫌が悪くなることを言わない忖度外交をずっとやってきましたが,高市首相は確信的に放棄した。中国側としては,高市政権を絶対に変えなければならないわけで,昨年の米中首脳会談で貿易戦争がいったん休戦状態になっているタイミングだからこそ,年明け早々に日本をターゲットにした軍民両用物資の禁輸に踏み切ったのです。
2027年の中国共産党大会で習近平氏が4期目を継続するとなると,歴史認識や領土問題で日本を悪者にして求心力を高めようとするとみられます。台湾問題に関しても非常にアグレッシブ,能動的になると思います。中国は沖縄のことを「琉球」と公式に新聞で使うようになり,「沖縄の帰属」問題を武器にし始めました。尖閣問題,東シナ海の資源権益をめぐる対立が先鋭化するなど,日中関係は悪化しています。
私は今の国際社会の空気は「戦前」と言ってもいいと思っています。平和から米中大戦になる前のグレーゾーンの状態です。グレーゾーンにおける「ハイブリッド戦」の一つとされるのが,ベネズエラ作戦だとも言われています。つまり,戦争に勝つためには資源の囲い込みが必要で,世界一の埋蔵量があるベネズエラをアメリカの支配下に置きたい。戦争には至らない状況で,経済や情報戦など,いろいろな方法による疑似戦争があり,それで決着すれば本格的な戦争には至らない。決着がつかず,対立状態が先鋭化すると,本当の戦争になるかもしれない。そういう状況の中で,日本はどうやって生き延びていくかを考える時代になったと思います。
(スライドとともに)