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2025年9月12日(金)第4,977回 例会

J.フロントリテイリングのガバナンス改革と経営人材の育成について

山 本  良 一 君(百貨店)

会 員 山 本  良 一  (百貨店)

1951年生まれ,神奈川県出身。
’73年に明治大学卒業後,(株)大丸に入社。
2003年代表取締役社長に就任。’10年(株)大丸松坂屋百貨店代表取締役社長,’13年にJ.フロントリテイリング(株)代表取締役社長,’20年に取締役兼取締役会議長を務め,’24年取締役を退任。’03年当クラブ入会。’05年雑誌委員長。

 J.フロントリテイリングは,2007年に百貨店の大丸と松坂屋が経営統合してできた持株会社です。当時,大丸松坂屋ホールディングスにしようかという話もありましたが,従来の百貨店ビジネスモデルの枠にとらわれず,業態の幅を広げてリテーラーの先頭に立とうとの強い思いから命名しました。よく「脱百貨店」と言われますが,銀座の松坂屋の跡地に「GINZA SIX」を再開発するなど,デベロッパー事業に力を入れており,クレジットカード事業,商社,建装事業も営んでいます。

企業の持続的成長への取り組み

 コーポレートガバナンスは,2014年に日本版スチュワードシップ・コードが策定され,政府の成長戦略が論じられる中で,企業の持続的成長を実現する取り組みとして注目されました。日本の機関投資家は長年,「物言わぬ株主」でしたが,スチュワードシップ・コードによって建設的な対話を通じて投資先企業の持続的成長を促すことが求められるようになりました。<br> 私がガバナンス改革に取り組んだ理由は,J.フロントを持続的に成長させたいという強い思いでした。大丸の社長時代に現場の改革をやり切った自負がありましたが,このままで会社は成長していくだろうかとも感じました。2013年にJ.フロントの社長になりましたが,当時の取締役会は,2003年に大丸の社長になったときの取締役会と何一つ変わっていなかった。これではいかんと感じ,ガバナンス改革をきっかけに取締役会を徹底的に戦略を論議する場に変え,持続的な成長を実現しようと考えました。もう1つは,ESGの取り組みで企業が評価される時代になったことです。世界中で環境問題に敏感な若者が社会の中心になり,企業が社会課題に取り組むことが当たり前になっていくと考えました。欧米の投資家が企業のESGの取り組みを聞いて投資判断することも肌身で感じました。この2つの理由で2015年に専門部署を作り,トップダウンでガバナンス改革を進めました。

改革の4テーマ

 当社のガバナンス改革のテーマは①取締役会改革②指名委員会等設置会社への移行③指名委員会における改革④経営人財の育成―この4つです。最初に取り組んだ取締役会改革では,第三者機関を使って取締役会の実効性評価をしました。報告や説明が長く,論議する時間は全体の2割程度,質問に答えるのは社長だけ。とても活性化された取締役会とは言えず,戦略を論議して決定する場に変えることを目指しました。論議の時間を捻出するため,議題と報告事項を大幅に削減し,生煮えの段階から議題を提出して複数回論議するスタイルに変えました。実効性の高い戦略論議ができるようになり,論議する時間は現状では6割,7割になりました。
 一方で,企業が成長し,企業価値が上がったかというと,残念ながらそう簡単ではありません。戦略原案を作り,実行する執行サイドを強化しないと企業は成長しないことを実感しました。投資家が人的資本の投資について開示を求めるのは,この点に注目をしているからです。しっかり人に投資して,リターンを出してくれというのが今の投資家のスタンスだと思います。
 次に指名委員会等設置会社への移行についてお話しします。指名委員会等設置会社は,委員会が社長の選任・解任を決定できる大変厳しい制度設計で,現在,東証プライム市場では4.9%にすぎません。当社の指名委員会は社外取締役3名と社内の非執行取締役1名で構成され,委員長は社外取締役です。ポイントは,現任の社長が指名委員会に入っていないこと。社長の選任・解任を議論するのに,現任の社長が入っていては議論できないということです。社外取締役が,社長や役員を適正に選ぶ仕組みづくりが必要となり,経営人財評価を強化しました。これは「アプレイザル」と呼ばれています。経営人財評価は第三者機関に依頼して,執行役候補に対して3時間から4時間の面談をして,戦略思考や胆力,改革志向などを採点します。5点満点で平均点が3.2以上なければ執行役員には選ばない。社長候補者は4点以上なければ選ばない。このアプレイザルは社外取締役にも共有しています。指名委員会はアプレイザル,人財評価をもとに論議し,候補者を絞り込みます。さらに異動させて経験を積ませるなど,何年もかけて検討し,毎年,候補者の洗い替えをします。

5年後,10年後の経営人財を育てる

 次に経営人財の育成です。日本の企業で役員候補にお金と時間をかけて教育する企業は極めて少ないのですが,大量に採用し,育ってきた人財から有能な人を経営者に選ぶ時代は終わったと思います。「リーダーは育つものではなく育てるもの」と考え,早い段階で選抜し,課題を与えて経験を積ませなければならない。私は2017年に「Jフロント塾」を立ち上げ,役員候補を鍛える経営塾,部長級を目指すマネージメント塾,マネージャーを目指すリーダー塾を用意して,選抜チームを作って上に上げていくことをやっています。
 一方で,J.フロントがさらなる成長を目指すには,従来の百貨店の枠を超えた事業ポートフォリオに変革しなければならない。しかし,百貨店を中心に自前主義,生え抜き主義でやってきたので,人財の活用が難しくなっていました。われわれはリテールのプロですが,デベロッパー事業を進める人財がいなければ,戦略が絵に描いた餅に終わってしまう。ギャップを埋める取り組みとして,キャリア採用を拡大しなければならないと思います。当社の持ち株会社は約200名ですが,4割は外部採用になりました。昔は100%百貨店出身者でしたが,陣容も変わってきました。事業ポートフォリオの変革には,人財のリスキリングも重要ですし,働きがいを高めるため,従業員と会社の関係が変わっていくことを腹落ちさせるエンゲージメントがますます重要になります。5年後,10年後の経営戦略を支える人財を育てるために,どう人的資本に投資していくのか,社内,社外にしっかりと説明することが経営者に求められています。
(スライドとともに)