大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2025年7月11日(金)第4,970回 例会

2025万博・大屋根リング・この先の建築

藤 本  壮 介 氏

(株)藤本壮介建築設計事務所 代表取締役
建築家
藤 本  壮 介 

1971年北海道生まれ。東京大学工学部建築学科卒業後,2000年藤本壮介建築設計事務所を設立。’14年フランス・モンペリエ国際設計競技最優秀賞など受賞経験多数。’25年大阪・関西万博の会場デザインプロデューサーを務める。主な作品にHouse of Music(’21年),白井屋ホテル(’20年),L’Arbre Blanc( ’19年)など。

 万博の会場デザインプロデューサーを2020年春に打診いただき,開幕まで頑張ってきました。批判もあり,大変でしたが,大阪の皆さんの後押しがあって,やり切ることができました。開幕後は非常に評判も良く,やって本当に良かったと思っています。今日は,どういうことを考えて万博会場を作っていったのか,お話しをさせていただきます。

分断ではなく,多様性のつながり

 なぜ夢洲で万博をやるのか,いろんな議論がありました。奈良時代に遣隋使や遣唐使の船が行き来した大阪湾のこの海域は,日本の国際交流を1,000年以上昔から象徴する場所なので,21世紀になって万博が行われるのはすごく縁があるな,そう思いながら,プロジェクトに取りかかりました。
 とは言え,コロナが始まった時期だったので,万博をやる意義に疑問が呈されていました。私自身,そこを納得しないと会場設計もできないし,万博を成功に導けないと思いました。当時はトランプ大統領の1期目で「分断」がすごく言われていました。国際的にも,国内的にも世の中がバラバラになり始めていましたが,そんな時代だからこそ,たくさんの国が集まり,6カ月間過ごすことに価値がある,分断が叫ばれる中で世界が一つにつながるイベントには意義があると思いました。
 世界が集まる場所をどう作り,どう発信するのかを考えたとき,分断ではなく,多様性がつながる場所を作ろう。多様でありながら世界が何かを共有するというメッセージを作ろうと思い,最終的にリングが出てきました。リングは丸なので,世界のどんな国,どんな文化の人にも,つながり,調和,循環というポジティブなメッセージになるのです。
 今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。いのちと多様性のつながりはどう関係するのか。万博のシニアアドバイザーで,ゴリラの研究で有名な京都大学の山極壽一先生は「多様な種,生き物が関係し合い,つながり合ってはじめて,いのちは成り立つ」とおっしゃっていました。いろんな種類のいのちがあり,生態系の中で食物連鎖があって調和し,循環してはじめて,いのちは全体で生きていける。多様性のつながりは,国と国の話,文化と文化の話ですが,実は地球規模で見ると,いのちそのものの話でもあるのです。それを一目で,世界中の人が現地で感じ取ることができ,現地に行けない人にも「世界の国々が集まって,一緒に未来をつくろうとしている」という希望を感じてもらえる-そんな会場デザインができないかと考え,丸いリングが生まれたのです。
 夢洲は埋め立ての島で真っ平なので,現地に立つと,護岸が高くて海が見えなかった。これはもったいないと思い,リングを持ち上げて,上を展望スペースにしようと考えました。日陰が作れて,雨も防げる。上からパビリオンを見下ろし,展望台にもなる。一石何鳥にもなるということで,だんだんリングのアイデアが具体化していきました。

あえて木造に

 リングは木造ですが,実は木造大型建築が世界的にここ7,8年ぐらい注目されています。理由はサステナビリティです。建設で出る二酸化炭素(CO₂)の削減に各国が取り組んでいます。樹木は大きくなる過程でCO₂を吸収する。建材に使っても,植林するので,また30年ぐらいで育つ。自然の力で森が循環する中で,半永久的に建築材料が供給される。自然のサイクルに人間の経済活動のサイクルを合わせて,持続可能な未来を作れる,ということで大型木造が注目されているのです。
 日本も負けていられません。世界一の1,000年以上の木造の伝統があり,森林資源も豊かです。大型木造をもっと世界に発信するために,あえて大きなリングを木造にしました。
 リングの構造でよく清水寺の話をしますが,柱に開いた穴に梁(はり)を差し込んで,くさびで止めています。木のくさびは清水寺ぐらいまでは使えますが,リングの大きさや現代の建築基準法には合致しません。いかに伝統的な工法をアップデートできるかをゼネコンさんと考え,金属のくさびで強度を出しました。

一つの空

 まだ工事が始まっていないときに現地に行くと,ただの平らな土地が壮観でした。空が大きく,ここに何を建ててもこの空にはかなわない。であれば,空を主役にできないかと考えました。リングの上は外側がちょっと立ち上がっています。これで空が丸く切り取られ,一つの空が目の前に現れる体験を作れたら,空が主役になる。空は地球を包み,どの国の町や村で見上げても,空はつながっています。「多様性がつながる」と,この「一つの空」はリンクします。リングは上のエッジまで上がれますが,夕日を見ようとそこに人が並びます。1周2㎞,直径(外径)が670mぐらいなので,はるか彼方ですが,すごく遠くにいる知らない人たちと同じ場所で,同じ空を共有している。その感じに私はものすごく感激しました。
 リングの一番高いところに行くと,世界の多様性を象徴するパビリオンがリングの下でつながり合い,その上に空が見える。小さな地球が目の前にある,そんな感覚,感動が生まれます。多様な世界がつながり合って一緒に未来を考える「希望」をこれからの世代に感じ取ってもらいたい。地球に比べると本当に小さい全周2㎞のリングに今,世界の多くの国が集まっているのは奇跡的だと思います。そこで世界に出会うことが,われわれの未来,子どもたち,若い人たちがつくる未来につながることを願っています。
 ぜひ,万博会場に何度も足を運び,ポジティブな空気を味わっていただきたい。このリングを会期後どうするのか。実物を見ると「いや,これはすごいよな」となりますので,何とか残せないかなと個人的には思います。まずは記憶に残し,どう活用していくのか。皆さんと一緒に考えていければと思います。
(スライド・動画とともに)