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2025年5月30日(金)第4,965回 例会

経営トップの皆さまにも知っていただきたい女性のヘルスケア

倉 智  博 久 氏

地方独立行政法人 大阪府立病院機構
大阪母子医療センター
総長
倉 智  博 久 

1949年 生まれ
 ’76年 大阪大学医学部卒業
 ’84年 米国国立衛生研究所留学(2年間)
 ’88年 大阪府立病院産婦人科
 ’99年 大阪大学医学部産婦人科助教授
2000年 山形大学医学部産婦人科教授
 ’14年 大阪府立母子保健総合医療センター病院長
 ’16年 大阪母子医療センター総長

 女性の活躍がない社会は考えられませんが,昨年の経産省の試算によると,女性の月経に伴う健康問題や更年期症状による社会経済的損失は非常に大きく2.5兆円だそうです。つまり女性にフルに活躍していただくには,この問題の理解が大事です。

ホルモン変動から来る月経随伴症状

 女性には生涯,ホルモンの変動の大きな波があります。最も重要な女性ホルモンはエストロゲンです。女性は卵巣機能が高く保たれる18歳ごろから,月経でこのホルモンが毎月大きく変動し,月経随伴症状が見られます。また,45歳ごろから10年かけて卵巣機能が低下すると,更年期症状が見られます。卵巣機能が長く低下した状態が続くと老年期の障害である骨粗鬆症(こつそしょうしょう)が問題になります。
 月経は新しい周期が始まると,卵が入った卵胞が排卵に向けて発育し,エストロゲンが分泌されます。排卵後は黄体が形成され黄体ホルモンが分泌されます。受精卵が着床する子宮内膜はエストロゲンにより分厚くなり,黄体ホルモンにより受精卵が潜り込みやすくなります。妊娠せずに黄体が退化してホルモンが血液中で減少すると,子宮内膜が剥げ落ちて出血するのが月経です。
 女子スポーツのトップクラスの選手に月経周期とコンディションのアンケートをしたところ,排卵後,次の月経の前までの黄体期に調子が悪い方が最も多いそうです。これは9割以上が自覚しており,選手の多くはピルを使って周期とコンディションを合わせています。月経時期や黄体期の終わりに調子が悪いという症状は月経随伴症状と呼びます。それには月経困難症(生理痛)と月経前症候群(PMS)があり,女性の74%がこの症状を抱えています。社会経済的損失は年間7,000億円近くあり,その大部分は労働損失です。
 女性のライフスタイルの変化もあります。妊娠から授乳までの2年間は月経が止まるため,子どもが多かったころ,女性は何度も無月経の期間がありました。最近の女性はお産の回数が相当減ったため,月経の回数が3倍となり,同じ苦痛でも意味が全く違っています。
 月経前症候群は月経前に症状が出て,月経が始まると数日で消失します。イライラや怒りっぽくなる精神症状や胸の張りやむくみが出る身体症状があります。また月経困難症は腰痛や頭痛など痛みが中心ですが,女子高校生の7人に1人は治療の対象になるほど強い症状があります。
 生理痛が強い方の半数には子宮内膜症があります。これは内膜組織が子宮以外に存在する病気で,卵巣の中にできると月経の血液が溜まり大きく腫れます。腹膜,子宮の表面にできると出血があり,卵管が癒着すると不妊の原因にもなります。この病気は女性が希望の職場で働き続け,キャリアを積むことに対する大きな阻害因子となります。
 月経随伴症状にはピル,経口避妊薬が強い味方です。ピルはエストロゲンと黄体ホルモンを含むので,服用中は血液中のホルモンの濃度を安定させて,薬をやめると出血が起こるという周期を人工的に作れます。この薬は症状に伴う仕事効率の低下,社会活動の低下,対人関係の障害を強く抑制できるため,女子社員に経口避妊薬を経済的にサポートする会社が増えています。

更年期以降に起きる症状や骨粗鬆症

 更年期とは45歳ぐらいからホルモンの大きな変動を伴って,卵巣の機能が消失するまでの約10年間のことです。ほてり,発汗などの症状が女性に見られます。ホルモンの欠乏が2,30年続くと骨粗鬆症やアルツハイマー病が閉経後の女性に多く見られます。日本人女性の6人に1人は治療が必要です。雑誌ネイチャーの記事には更年期症状がキャリアに大きな影響を与え,特に管理職として重要な時期であり,日本では大きな社会経済的損失につながっていると指摘されていました。また,管理する方にとっても症状は一時的だという理解が大事だとありました。この症状には生活習慣の改善が一定の効果があり,漢方薬も重要な治療法ですし,ホルモンの欠乏を補う療法は95%の方が大幅に改善します。
 更に骨は女性ホルモンとの関連が深く,閉経前後に骨量が大きく減少します。一定量骨量が低下すると骨粗鬆症と診断されます。75歳の半数にこの症状の診断がつきます。これが結びつく課題は介護です。女性は平均寿命が長いのですが健康寿命は変わらないため,要介護期間は女性が平均12年を超え,男性より3.5年長いのです。女性の要介護の原因となる疾患の第2位が骨折・転倒となっており,その原因となるのが骨粗鬆症です。

小児と周産期の大阪の中核病院として

 大阪母子医療センターは「母と子,そして家族が笑顔になれるよう」な診療が基本理念です。沿革としては1981年に産科と新生児科の診療を中心に開院しました。10年後に小児業務が充実して「子ども病院」の体裁になりました。現在は,総合周産期母子医療センターと小児救命救急センター,小児中核病院であり,小児と周産期に関する大阪府の中核的な施設です。
 ニューズウィーク誌のランキングでは小児科部門で世界125位です。国内では東大病院,東京都立小児医療センターに続き5位です。全国の子ども病院としては,病床数・分娩数で東京の国立成育医療研究センターに次いで大きな規模です。子ども病院の特徴は,診療に多大な人手を要するため,経営的には事業収入に対する給与費比率が高く,一般の公立病院が53%のところ,子ども病院は平均74%を超えます。また医療収入が10億円とすると平均3.5億円が補助金です。病院は設立から44年たちますが,建て替えが資材の高騰でなかなか進まず困っております。
(スライドとともに)