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2025年2月28日(金)第4,954回 例会

グローバルな課題と日本経済の今後

中 尾  武 彦 氏

国際経済戦略センター理事長
元アジア開発銀行総裁,元財務官
中 尾  武 彦 

1956年3月生まれ,兵庫県出身。’78年に東京大学経済学部を卒業後,大蔵省に入省。泉大津税務署長,主税局,国際通貨基金(IMF)出向,国際局国際機構課長,主計局主計官,在米国大使館公使,国際局長などを経て,2011年財務官。’13年退官。’13年より’20年までアジア開発銀行(ADB)総裁。
現在,国際経済戦略センター理事長,住友商事顧問,第一生命取締役。東京大学と政策研究大学院大学で客員教授。

 今日は地政学の話から始めますが,最大の問題はトランプ政権です。私は米カリフォルニア大学バークリー校を経て,国際通貨基金で3年間,米大使館の公使として2年間の財務担当などでアメリカと関わっていました。また,G7は課長補佐から財務官までずっと関わりました。アジア開発銀行では,中国に16回出張しました。実務では財務官の時にドル買い介入で米次官と電話でやり合いましたし,G7では日本の利害を守るために14人以上いた電話会談の議論に声を上げて入り,論理的に短時間で言うやり方が身につきました。

トランプ政権の過激な人事や関税政策

 トランプ政権の政策は素早く,過激です。高官人事は過激で,経験が少ない人も選んでいます。ヘグセス国防長官はコメンテーター経験者ですが軍事専門家ではなく,ベッセント財務長官はヘッジファンド出身でビジネスのほうが詳しく,バンス副大統領は貧困地域の薬害や自殺について書いた人です。ルビオ国務長官は伝統的な共和党員で上院議員の経験があり,よく考える人だそうですが,対中強硬派です。
 関税政策では中国に60%,65%かけると言っていますし,メキシコとカナダには違法な移民や薬物を止めない限り関税を上げると言っています。関税で所得税の減税分を補いたいのと,国内の製造業を復活させたいそうです。ただ戦後,世界では貿易障壁を低くする多角的貿易が当たり前になったので,関税で鉄鋼や自動車産業が復活するかわかりませんし逆に,サプライチェーンが崩れるかもしれません。
 関税主義者は貿易赤字を嫌っていますが,ドルが基軸通貨なので余分に輸入できているという得な部分もあるはずです。アメリカは投資銀行や石油,プラットフォームが非常に強く,日本がいくらインバウンドで稼いでもクラウドやクレジットカードのサービスで流れ出しています。そう考えるとドルに替わる基軸通貨はあまりなさそうです。

アメリカの対外政策や金融政策

 対外政策も過激です。ウクライナはアメリカが支援しなければ手を上げるしかなく,ロシアも収めざるを得ないかもしれません。トランプは休戦に持ち込みたいようですが,ヨーロッパはロシアが昔のソ連の領土に手を伸ばさないよう,簡単にはディールしたくありません。バンス氏はヨーロッパがアメリカのNATOの軍事支援にただ乗りしていると非難しました。ロシアは経済力が落ちて影響も限られているため,プーチンの領土拡張もヨーロッパの国境問題だと思っている可能性があります。日本も核の傘に保護されて経済成長したのでただ乗りだと思っているでしょう。ただトランプは中国をライバル視しているので,自由にさせないために日本の軍事的な意義やソフトパワーを大事にするでしょう。
 またトランプはグリーンランドを売れとか,カナダに51番目の州になれとか,外交儀礼に反することもお構いなしです。気候変動のパリ協定は無視しますし,WHOも機能していません。750万人の不法移民の送還も徹底してやろうとしています。でも150万人減っただけでも農業や製造業が立ち行かなくなるそうなので,そう簡単ではないでしょう。
 経済政策では法人税の下げすぎを抑える最小限の課税についての国際的な取り決めに加わりません。リーマン後にできた貸し付け規制はやめ,AIなどハイテク規制もやめます。プラットフォームに対して独占禁止法で厳しくするのもやめます。反グリーン,反DE&IでありLGBTなどで権利を主張されるのも大嫌いです。開発途上国の支援をするUSAID(米国際開発局)を解体し,IRS(米内国歳入庁)の人員を削減しようとしています。
 トランプがいろんなことをすごい勢いでやっているのは,当選2回目で信任されたと思っているからでしょう。これは権力分立や市民的な礼儀,多角的貿易などを否定する「革命」だと言う人もいます。イーロン・マスクの狙いは規制緩和による利益であり,反リベラル,反政府でもあります。好きにさせてくれない政府や官僚に敵意を持っていますが,経済安全保障や社会保障など政府に必要な機能は増えているので,なくなると困るのではないでしょうか。
 ただこれが今後続くかというと,民主党は反対していますし,州政府も反対するかもしれません。移民制限と減税や関税でインフレがおき,金利や為替で市場がぶれる可能性もあります。2年後の中間選挙まで見ないと,アメリカが本当に変質したかはわかりません。

中国や日本の経済の課題

 中国は不動産神話が弾け,人口の少子化が進んでいます。また再分配機能が未発達で,農村から来た工場労働者は子どもの教育の資格がなく,社会が不安定になるかもしれません。また党の力が強くなり,政府の規制が拡大しています。ただ,中国経済は1人当たり日本の4分の1ぐらいなので成長の余地はあります。研究者の絶対数は多く,優秀な人も多くいます。
 産業政策は以前自動車産業の保護で日本が随分批判されましたが,今や世界中で採られ始めています。パンデミック,経済安全保障,中国の台頭などが原因だと思います。
 日本の経済低迷の理由は,人口ピラミッドが逆三角形で介護や医療にお金がかかっているところです。ただポテンシャルはあります。日本はお互いにトラストを持ち,新幹線も時間どおり走ります。その価値を高めるには女性や外国の方の活躍やグリーン経済を進めるといいでしょう。また,財政にはもう少し規律が必要です。日銀の徹底した金融緩和で,債券市場が歪んだのは期間が長すぎました。
(スライドとともに)