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2024年10月4日(金)第4,938回 例会

多文化共生の現場から外国にルーツのある児童生徒対応の経験

Le Ngoc Quynh NHU 氏

当クラブ受入れ
2024学年度 米山奨学生
Le Ngoc Quynh NHU 

1997年生まれ。ホーチミン市師範大学日本語学部卒業。文部科学省日本語・日本文化研修生として国立和歌山大学に一年間留学後,ベトナム国家大学ホーチミン市工科大学日本語専門の職員を経て,現在,大阪教育大学大学院国際協働教育コースに在学。
2660地区米山記念奨学生して2024年4月から当クラブ受入れ。

 皆様,こんにちは。NHU(ニュー)と申します。去年4月に日本に来て,2024年より米山奨学生になっております。多文化共生の現場での外国にルーツのある児童生徒への対応は,私が一番,研究しているテーマです。
 出身はホーチミン市です。好きな言葉は「明日は晴れるでしょう」です。私の国の雨期は2週間連続で降るので,気分が落ち込むのですが,この言葉で思考ルーティーンがポジティブになります。日本語学習のきっかけは,お父さんが日本のニュースをめちゃくちゃ読んでいて,「日本人のいいところを見習ったら」と言ってくれたことでした。
 私は2019年に文科省のEDU-Port事業で大阪教育大学の通訳をしたことで,この大学を目指して,去年,入学しました。また去年の4月から府内の小・中学校で母語支援や通訳,翻訳を有償ボランティアで楽しくやっています。

言語の多様化で日本語指導が困難に

 在留外国人数が平成23年度から令和4年度までで一番増えたのはベトナムです。労働者が増えると家族も呼び寄せるので,日本語指導が必要な人の数が増えます。それにより使用言語の多様化が進み,特定の言語に対応できる方が不足しています。私は,住んでいる八尾市の教育委員会の派遣で小・中学校に行っていますが,保護者は担任の先生の話が理解できないので通訳者に懇談会への出席を求めます。また日本語指導の制度は,人数が少ない,または教員が足りない学校には設置されていません。子供たちは不登校になったり,言葉が通じないからつまらなくなったりします。担任の先生は手が届かないので,子供にメンタルケアが必要でも,何を思っているかわからず,学習支援が難しい。
 支援が困難な点は二つあります。一つは言葉と文化背景の壁です。小学校の給食は日本ではお箸ですが,ベトナムではスプーンです。先生がそれに気づかないと,何を言えばいいかわからなくて食べないのです。もう一つは保護者とのコミュニケーションです。日本ではけんかをしたら連絡しますが,ベトナムでは保護者まで連絡するのは,大きな事件・事故だけ。いじめられたとか,落ち込んだとかで「保護者にすぐ連絡して」と言われるのですが,どう通訳していいかわからないし,保護者も急に電話されるのは苦手です。

勉強のしかたが違うと母語支援は難しい

 小・中学校での母語支援の一つは「入り込み授業」です。例えば算数や道徳,生活,社会は,私が一緒に授業に入ります。わからないところは,高学年ではベトナム語を書いて,低学年はベトナム語が読めないので書かずに説明をします。もう一つは「取り出し授業」で,国語が多いです。低学年は身の回りの話が多く,自分も理解できますが,高学年や中学1,2 年生は,最初から学ばないとわからない。そういう時は学級の先生か日本語指導の先生の通訳だけをします。教科書の内容は私がベトナムで習ったことと全然違うためです。
 もう一つ難しい授業は道徳です。日本では読み物の感想を書いたりしますが,ベトナムでは人格や性格の説明だけで,読み物は自分で考えます。子供は日本語もそんなにできていないのに日本の考え方で考えるのは難しいです。
 母語支援員の役割で一番大事なのは,子供を安心させることです。外国がルーツの子は,日本に来たくて来たわけではないので,生活は不安がいっぱいです。同じ日本語学習者である母語支援員が,「大丈夫。ゆっくり一緒にやりましょう」と安心させることが大事です。もう一つは勤務時間外にまで電話対応があることです。通訳者が子供に一番関わっているとして,保護者に対応を求められます。
 支援の中で気づいたことは,一つはメンタルケアです。私の国のカウンセリング室は,匿名ではないので友達にばれてしまいます。また児童・生徒と教員,保護者をつなぐことです。他の学級の日本の子と,日本語が通じない子とで,休憩の時間に,私が通訳をしながら一緒に遊びます。勉強のやり方は,算数が難しく,ベトナムで3,4 年生までやっていた子に,どちらのやり方で教えるか,すごく悩みます。ベトナムの中学校の勉強を全部終わった子には,まず日本の背景知識を与えてから日本語を指導します。

保健室登校も研究のテーマに

 子供たちは体調が悪くなっても言ってくれないので,そんな時,私はとりあえず保健室へ連れていきます。そんな学校の保健室と養護教諭の関係も私の研究テーマです。
 「保健室登校」とは不登校の子でも学校に行かなければいけない時に,保健室に入ることで養護教諭がケアします。ベトナムでは保健室にいるのは看護師です。簡単な手当てはしますが子供とはコミュニケーションしません。日本では保健室の外でもあいさつしてくれます。手で体を触れながら,あいさつしながら,何げない会話をしながら,「ながら話」で子供の問題や痛みを判断して,信頼関係を作ります。
 最後に日本でのカルチャーショックを紹介します。まず電車の中です。ベトナムでは普通におしゃべりしますが,日本はだめ。また満員電車は,もうちょっとで死ぬのではないかと思ったことがありました。エスカレーターはまるでマリオのゲームみたいに10mで右,次の10mで左。学校の階段も学校によって違います。
 まとめです。ダイバーシティーとインクルージョンの社会に進みつつあるなか,外国にルーツのある児童・生徒にも目を向けてください。彼らは,いろんなものの懸け橋や世界平和を保つ手段の一つになるのかなと思っています。
(スライドとともに)