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2024年7月26日(金)第4,931回 例会

働く人から選ばれる会社になるための処方箋

本 間    薫 氏

三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)
コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット
シニアマネージャー
本 間    薫 

筑波大学第三学群国際関係学類卒業。早稲田大学大学院アジア太平洋研究科(国際関係学専攻)修了。早稲田大学大学院商学研究科(ビジネススクール)修了。総合商社グループ人事機能会社を経て,2018年より現職。専門領域は,組織人事戦略立案,人事諸制度構築・運用支援,サクセッションマネジメント,グローバルタレントマネジメント,ピープルアナリティクス,人材育成全般。

 三菱UFJリサーチ&コンサルティングの本間薫と申します。本日のテーマは「働く人から選ばれる会社になるための処方箋」です。内容は会社の健康診断をして,サステナブルな企業経営と,働く人の人生・生活の質の向上に努めていただくための話です。

人材の量と質が定義できているか

 この診断では『人材の量と質』『従業員エンゲージメント』『労務費』の三つの視点を,①外部環境と自社への影響,②自社の内部環境,③は①②を踏まえた取り組みの検討,の三つのステップでチェックします。
 まず『人材の量と質』についてです。外部環境の人材の量には「労働人口の減少,人材構成比の変化」が影響します。人材の質では「市場変化,技術革新への対応」が事業戦略として求められます。内部環境の人材の量は,人材構成比の変化に伴い人材獲得の競争が高まるため,指標は採用数や充足率,離職率などとなります。人材の質は「必要人材(能力・スキル)の変化」について,事業戦略が大きく変わるとコア人材に求める能力や質が変わります。それを定義できているか,組織風土が新しいことを手がける上で大丈夫か,をチェックします。
 人材の量について,厚労省のデータでは,65歳以上の人口は割合,人数とも高まっています。このためシニア人材の活用は戦略上非常に大事です。また人材の質について,世界各国で労働者の能力不足による雇用の充足が課題と答えた経営者の割合は,日本が圧倒的に1位でした。81%の経営者が課題意識を持っています。能力・質のミスマッチは職種では技術系,営業,財務経理など世界で共通しています。また課題も各国似ていて,一番多いのは専攻分野です。大事なのはどういった人材を採用するか,定義を明確にすることです。
 この量と質を確保するには,経営戦略に連動した人材戦略に落とし込む必要があります。その一つには「あるべき人材ポートフォリオ」として必要人材を明確にする人材像,機能,職種の定義が必要です。新たな事業ポートフォリオを実現する上で,人材の変化を描き,高い機能,専門性を持った人材を明確にした上で,募集や育成が求められます。
 コンコルディア・フィナンシャルグループは,人材の量を定義されました。この会社では「ソリューション営業人材」を今後を支えるコア人材として,その割合を増やしたいと考えています。構造改革で総人員をスリム化しつつ,事務方をリスキリングして人材を育て,2027年には営業人員割合を60%に増強するというところまで量と質で落とし込んでいます。
 もう一つ,「あるべき組織」を実現するための組織風土改革の事例は,株式会社イムラです。イムラでは変化を嫌う風土を脱却して,新しいことを手掛けるには,社員が自分の仕事を自分事として捉えてほしいと考えました。そのために社外から役員を招聘され,全員参加の「挨拶と5S活動」を実施しました。そして経営理念を浸透するために研修施設をつくり,その結果,従来とは異なる分野で,新規ビジネスなど自発的な発言が出たそうです。

従業員の意識の変化を把握する

 次に『従業員エンゲージメント』の外部環境としては「生活スタイルや労働価値観の変化」が待ったなしです。また内部環境では「従業員の意識の変化」の定量的な把握が大事です。
 新入社員の働く目的で一番多いのは「楽しい生活をしたい」です。「経済的に豊かになる」も上がっています。大分下がっているのは「自分の能力を試す」です。仕事はチャレンジだと思っていないようです。「社会に役立つ」は少し上がっていて,やりがいを感じて働きたいようです。
 内部環境では,エンゲージメントの数値を把握してください。ワークエンゲージメントという「活力」,「熱意」,「没頭」という切り口がそろった状態についての概念があります。それが高くなれば労働生産性も上がります。新入社員の定着率,離職率も同じように相関性が非常に高いです。そのような指標を調査・分析してジャストフィットな人事施策を講じるのが効率的な投資です。
 旭化成グループは「成長行動指標」をKPIに置いています。上司部下関係・職場環境,活力,成長につながる行動,の三つが従業員にフィットしていることを見つけ,モニタリングと改善に取り組まれています。

生産性の高い働き方にシフトする

 最後に『労務費』です。外部環境では物価高に伴い賃上げ要請が来ています。内部環境では持続的,構造的な賃上げへの対応が求められます。それを確認する指標は労働生産性,労働分配率,給与水準,報酬体系です。対策としては,生産性の高い働き方にシフトすることが全てです。従業員がパフォーマンスを上げられるようにする,年功序列から脱却する,専門性を高めて働きがいを感じられるように工夫する,などがあります。
 物価指数が上がり,多少のベースアップでも給料があがった感が得られません。若者の退職理由の1番は労働環境・条件です。楽しく働く,というような価値観を含めた改善が大事です。
 まとめると,まず内部環境の健康診断,ヘルスチェックの切り口をいくつか持っていただきたい。また『エンゲージメント』はモニタリング,『労務費』は労働生産性などの指標をチェックしてください。
(スライドとともに)