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2024年6月7日(金)第4,924回 例会

これからの暮らしと産業未来

喜 多  俊 之 氏

株式会社喜多俊之デザイン研究所
インダストリアルデザイナー
喜 多  俊 之 

1942年大阪市生まれ。’69年イタリア・ミラノに制作活動の場を広げる。’75年JID賞,’90年デルタ・デ・オロ賞,2011年ADIコンパッソ・ドーロ賞など国内外で多数の賞を受賞。’17年イタリアにおいて「功労勲章コンメンダトーレ」受勲。’18年「知財功労賞」において特許庁長官表彰で知財活用企業(意匠)受賞。

 デザインは戦略の塊です。私が担当するときは,その企業について徹底的にリサーチします。例えば,イタリアの高級家具ブランドのカッシーナから依頼があったとしますと,今,カッシーナはどういう状態で,世界のどの位置にいるのかなどを調べます。

海外におけるデザイン

 特にヨーロッパの場合は,デザインは社内ではやりません。社外にいる人に声をかけて,この商品だったら誰に頼むと決めます。その人でないとできないことを調べます。当然,設備投資もしないといけないし,その企業にとって重要なことです。デザインは,企業戦略の中心的存在と捉えられています。
 1968年に,ミラノ発,フランス,ドイツ,北欧というデザインのツアーがありました。その頃,日本では大阪がデザインの中心でした。積極的に視察に参加していたところ,イタリアのミラノと大阪が姉妹都市としてご縁ができました。
 ミラノ家具の国際見本市には大体毎年30万人が訪れます。今年は36万人ぐらい訪れました。ミラノはこの国際見本市がヒットしたものですから,市内のショールーム全部で「ミラノサローネ」という名前を掲げてPRしました。もう一つは,ある雑誌社が市内を全部ショールームにしました。
 ミラノの最近の一般家庭の主婦たちはインテリアに非常に関心が高い。家の広さに関わらず,住まいを大事にします。家族も含めて自分の人生の舞台だと思っています。私が行った1960年代の最後にそんな機運が立ち上がり,日本も10年したらこうなるんだろうと思いました。ミラノ市にはメディアが20~30ほどありまして,情報が冊子になって,一般の主婦に流れるんです。シンガポール,タイ,韓国,中国では主婦の愛読書になっています。主婦はこれを見ないと近所付き合いができないんです。ミラノの人は,インテリアに非常に関心が高く,ヒット商品が生まれる源になっています。
 ミラノの場合は産業経済の最前線として「デザイン・ミュージアム」というのがありまして,私も審査員になっています。年に一度,この1年で最もヒットした製品に黄金の「コンパッソ・ドーロ賞」が与えられます。社会に貢献し,かつヒットした商品が選ばれます。私はこの賞を’80年にもらい,勲章もいただきました。

デザインをめぐる潮流の変化

 ミラノと大阪は姉妹都市になってもう半世紀近くになると思うのですが,今回の万博のイタリアパビリオンは立派なものになります。私は大使になっています。イタリアではデザインに関するイニシアティブも経営者が持っていて,各社の考え方みたいなものをデザイナーと交流する中で自分から発信しています。そういう意味では,デザインとは国のいわゆる「新技術」と一緒ではないでしょうか。
 この頃,アジアが急速に変わりつつあると感じています。中国はデザインの国の顔を見せ始めておりまして,2009年に広東省から,「美的集団」という電機メーカー開発のビルを私の事務所にするから2ヵ月に5日でいいから来てもらいたいということで,引き受けました。手掛けた第1号商品は家庭用の湯沸かし器です。これは爆発的に売れました。
 韓国ソウルの世界一のデザインセンター「東大門デザインプラザ」は,東京の新国立競技場のコンペで賞を取ったザハ・ハディットさんが設計しました。今,ソウル観光の一大名所はここです。産業関係の会議,新製品見本市などは全部ここでやっています。ソウルを中心に各都市はデザイン一色で,大掛かりにやっています。

デザインに灯る職人の技

 日本の伝統工芸について語っておきますと,兵庫県の丹波篠山市に住む友達から家を潰すけど要らないかと言われたので,修繕し,ショップにして日本の伝統工芸品を並べました。私も各地方都市の輪島塗とか,美濃和紙とか,有田焼を手掛けていましたのでショールームとして活用して,2階はアトリエにしました。そこに各地から職人を集めて関係者が座談会をする場を設けました。月に1日だけ,3年やりましたかね。
 私は1984年に輪島から輪島塗を出したんです。今,家庭でハレの場がなくなって,使われなくなって漆は衰退しました。何とかしたいと思いまして,私がパリのポンピドーセンターで展覧会をすることになって,記念に一番いい漆で茶室を造って展示しました。今,製品になっています。過去の職人たちが親方に負けない作品を作ろうと心を込めて作っています。そういったものは,些細な部分から全く違う,独特の趣を醸します。
 デザインとは,形や色が重要だと思われていますが,実用品なんです。使えること,そしてそれに適した価格が大事です。技術とか,その時代の様子とか,暮らしの様子とか,誰にとか,それぞれの要素とのバランスが大事なんです。一番バランスがいいのはどこかを探す仕事でもあるんです。技術と経営戦略など社会の一つの現象として,デザインを前に進めようという風潮が続いてほしいと思っています。日本は技術とデザインの国でもあるということを願っております。
(スライドとともに)