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2024年5月24日(金)第4,922回 例会

大阪税関と税務大学校とで実践したマネージメント

濵 田  敏 彰 氏

岩手保健医療大学 理事
元大阪税関長・元税務大学校長
濵 田  敏 彰 

1955年大阪市福島区生まれ,東京日本橋育ち。東京大学法学部卒業後,’79年に大蔵省(現財務省)入省。大牟田税務署長,ジェトロコペンハーゲン事務所長,経済産業省紙業生活文化用品課長,大阪税関長,消防庁審議官などを歴任し,2015年税務大学校長を締めに退官。財務省退官後,社外取締役,顧問,また雑誌「プレジデント」の「浜ちゃん総研」や,雑誌「美楽」の経済コラムを連載するなど多面的に活躍。

大阪税関での取り組み

 大阪税関は日本で第二の税関です。横浜,神戸の税関が有名ですが,今,日本のトップは東京税関で,二番目が大阪税関です。なぜ東京がトップかと言うと,成田という日本最大の貿易港を持っているからです。取扱金額は,ダントツで成田空港が一番ですから,東京税関がトップです。大阪も関空を持っていますし,輸入貨物が多く,第二の税関になっています。ただ非常にいびつな形になっていて,大阪,京都,和歌山,奈良,滋賀にとどまらず,福井,石川,富山も管轄しています。広範囲を任されているので,運営が難しいのです。
 税務大学校というのは,国家公務員で採用された税務職員に対して必要な研修と税務の課税理論などの研究を行う機関で,本校のほか全国に12カ所の地方研修所があり,職員が330人,学生数は総勢で年間約1万人が学ぶ場所です。私は財務省経験の中で,関税局に勤務したのはこの大阪税関だけですし,税務関係は主税局や国税庁を含めて,大牟田税務署と消費税導入のときの国税で広報担当をしたぐらいで,税金のことは何も知らない状態でした。
 税関で経験したことで印象に残ったのは,2007年に着任し,その翌年でしたが洞爺湖サミットが行われたときです。’01年の9.11の衝撃が残っており,貨物のチェックを厳しくせよと依頼がありました。ところが部下が,「大阪税関の場合,関西空港は名古屋,羽田,成田と違って,基本的に人のチェックはできるけど,貨物のチェックができない」と報告してきました。理由を尋ねると,レントゲン装置がない,とのこと。レントゲン車を屋内に乗り入れろ,と提案すると,排気ガスなどの影響で職員の健康状態が悪化するから関空会社が反対するという。ただ,我々は国民の財産と安全を守るのが職務だと説くと,動いてくれました。税関の仕事は国民の財産と安全を守るためという原理原則で考えなきゃいかんだろうということです。何事も,原理原則に立ち返ることが大事だと思っています。
 大阪税関は,輸入量は東京に次いで多く,中でも繊維製品が多いのです。当然,知財案件だから偽物の割合も高いはずなのですが当時の大阪税関は,最下位の函館税関や長崎税関と摘発数を競っていました。どう考えてもおかしいので,職員に検査方法をたずねると,分厚い書類ケースを持って「(チェック項目を)覚えています」と言うので,これは検査漏れがあると感じて,偽物が多い有名ブランド品は,隔週ごとにブランドを変えて,集中的に摘発数の高いものからチェックする方式に変えました。さらに,要点項目を絞った大阪税関独自のマニュアルを作り,翌四半期には知財摘発率が全国トップになりました。

なさねば成らぬ,を徹底する

 職員に何度も伝えたのは,上杉鷹山の「なせば成るなさねば成らぬ何事も成さぬは人のなさぬなりけり」という言葉です。濵田はいつも同じことを言うと部下は思っていたでしょうね。
 ただ,「思い込み」と「まじめほど面倒」というのは役人の世界では共通しています。前例でこうなっていると決まってくると,割と動かない人たちが多い。だけど,役人は本当にまじめにやっている。まじめにやっているんだけど,なかなか動かない人が多い。そこをどういうふうにこじ開けるか,切り開いていくかというのが難しい部分だと思います。
 現場がそういう伝統や慣習で縛られているので,現役は動けない。その固さをうまく切りかえられる人をOBで見つければ,あとはそのOBが,自分は力がなくても同期の関係などを使って,トップに話をするし,その結果,権限を持っている人に話が回っていくという流れが生じます。みなさんで霞ヶ関を活性化していってもらえるといいなと思います。
 この国は変化の時です。いい意味で,まじめな霞ヶ関をうまく使ってもらえればいいんじゃないかなと思います。
 色々とお役に立てればなと思いますので,よろしくお願いいたします。
(スライドとともに)