1990年横浜市立大学文理学部卒業,同年株式会社紀伊國屋書店入社。湘南営業部,東京営業本部にて,大学,官公庁,企業などの法人営業に従事。2014年より学術情報部長として,和洋書,データベース,外国雑誌仕入業務のマネジメントを担当。’18年首都圏西営業部長。’23年より関西営業本部長として関西及び北陸を担当。
本日は「教育と読書のちから~書店もともに~」というタイトルでお話をします。大阪の皆様は,紀伊國屋書店と聞いて梅田本店を思い浮かべたのではないかと思います。2019年に梅田本店は50周年を迎えることができました。本や読書をめぐるお話をさせていただきます。
簡単な弊社の全体像をご紹介します。1927年創業で,2027年にお陰様で100周年を迎えます。創業者は田辺茂一,創業地がそのまま今の新宿本店の場所です。紀伊國屋の名前の由来は,田辺家の先祖の出身地が紀州和歌山だったところからきています。創業当時の従業員はわずか5名,現在5,000名ですので1,000倍となりました。売上は連結決算で1,300億円ほどの規模となっております。
紀伊國屋書店は3つの柱で成り立っています。1つ目は国内の店舗。現在69店舗ございます。2つ目は法人外商部門の営業総本部,現在28の営業所と大学に82のブックセンターを設けております。3つ目は海外事業となります。11ヵ国に42店舗と9つの営業所・事業所を設けています。国内では,店と営業の売上比率がほぼ半々,海外の売上比率は全体の20%まで至っております。また,大阪府の店舗数ですが,実は東京に次ぐ2番目でございまして,東京が11店舗,大阪が10店舗です。売上のほうも,東京がわずかに上回りますが,大阪はほぼ拮抗しております。
海外店最初の出店は1969年のサンフランシスコ店です。実は梅田本店の開店と同じです。当時としては画期的な,日本の書店の海外進出でした。海外事業は近年,伸張しています。円安の影響もありますが,世界全体で英語を話す人口が増えていることが理由の一つです。かつては駐在員のために日本語の本を販売していましたが,現在は英語書籍のシェアが高まっています。日本のマンガ・アニメといったコンテンツが急成長していることも理由の一つです。
外商営業総本部の主なお客様は,大学を中心として7割以上が教育機関です。大学以外も幅広く政府機関,東京図書館,官公庁,企業の研究所の図書室,病院にある医師のための図書室にも幅広くお伺いしております。
営業部門には外商のほかに書籍・雑誌・電子資料また教育研究のための設備や備品,図書館のシステムやサービス支援などを行う専門部署がございます。
書籍の市場は残念ながら確かに縮小しています。市場規模はピーク時の6割まで低下。出版社数も,書店数も,特に書店数は半減に近く,皆さんも実感されているのではないでしょうか。紙の書籍はまだ健闘しているようですが紙の雑誌は約3分の1まで縮小しており,雑誌はネットサービスに置き換わりつつあります。電子書籍はどうかと申しますと,2014年から’22年までの4倍強に伸張しています。ただ,一般的に読まれている電子書籍の内訳では電子コミック(漫画)の増加によるものが大きいといえます。
外商が日々お伺いしている教育現場ではどうでしょうか。大学図書館の状況ですが,紙の書籍が大幅に減っている印象があるかもしれませんが,今のところ国内の大学でいうと,主に海外の学術雑誌が電子化されたものが大部分を占めています。電子書籍は少しずつ導入は進んでいるのですが,ほぼ横ばいです。コロナ禍で爆発的に増えると想定したのですが,若干増えたものの大きな変化はありません。
次に「読書離れ」と言われる状況についてお話しします。大学では危機感を持っています。教科書が読めない学生が増えている,大学4年間で一度も図書館や書店を使わない学生がいる,という話に衝撃を受けました。
全国学校図書館協議会が毎年行っている学校読書調査の最新版のデータを見ると小・中・高の1ヵ月の平均読書冊数は,1993年からの統計で実はかなり増えています。高校生は微増です。小学生はよく本を読んでいるのですが,全体としては’93年に比べ読まない率が下がっており,中学生はかなり定期的に不読の率が下がっていて,本を読む率が高まっていることが読み取れます。
データ上では「読書離れは進んでいない」と思えるのですが,実は本を読む子どもたちも,その冊数が増えているのは,学校の「朝の読書運動」が大きな理由の一つと考えられます。小学校・中学校とも8割の学校で,朝の時間に読書しています。ただ,高校は4割強にとどまっています。
大学生の読書について,全国大学生協が行っている「学生生活実態調査」のデータで小・中・高では1日の読書時間は増えていますが,大学生では11年の間に読書時間ゼロの割合が10%増えているという結果となっています。弊社の全店での客層データも確認したのですが,明らかに30歳以上が多くなっています。やはり若い方が書店に足を運んでいない状況です。
私たち紀伊國屋書店の使命としては,まず,「本と,多様な文化・学術情報を身近にする場所や機会を提供し,社会の課題の解決,学問や芸術の発展,豊かな日常生活の実現を支援する」としています。ネット上では情報が溢れ,最近では生成AIなどで簡単に問いへの答えが得られる状況です。読書のちからは考えるちからに結びつきます。考え,選び取るちからを読書によって養うためのお手伝いを続けたいと思っています。教育や社会の土台を支えるインフラの一つでありたいと願っています。これからも教育と本と,そこから生まれる読書のちからとともにある書店であり続けたいと願っています。
(スライドとともに)