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2023年12月1日(金)第4,902回 例会

「支援」ではなく「互助」「応援」児童虐待防止に向けて「いのち まんなか」社会のつくり方

辻    由起子 氏

こども家庭庁 参与 辻    由起子 

こども家庭庁参与・大阪府子ども家庭サポーター・社会福祉士。18歳で結婚,19歳で娘を出産,23歳でシングルマザーに。仕事,育児,家事をこなしながら,通信教育で大学を2回卒業。娘は中学校で不登校の経験を持つ。リスクだらけの子育て経験と,小・中学校の相談員の経験から全ての人が子育てを楽しめる社会を目指して現在活動中。
活動内容はマスコミに多数取り上げられている。現在,クッシング症候群の治療中の為,マスク着用中。

「子育て」で苦しくなる日本の構造

 自己紹介をします。大阪の茨木市で生まれました。祖父は明治生まれで民生委員をしていました。父は小学校の校長で退職しました。私は,18歳で結婚し,19歳で出産しました。世間体を気にする家だったので勘当されてしまいました。
 当時,虐待する人の気持ちなんて全くわかりませんでした。わが子を愛せないとか,わが子を虐待するとか,「人としてどうよ」と思っていました。でも,私の元夫は働かない。暴力を振るう。代わりに私が働く。実家を頼りたくても勘当されたので頼れない。
 子どもを育てるためにお金が必要だから働くと,「子どもがかわいそう」と責められる。誰かを頼ろうとしたら,「母親なら責任を持て」と叱られる。何とかしたくて,働きながら,子育てしながら,大学の通信課程で,教育と社会福祉を学びました。卒論のテーマは,「母親が抱える育児不安について」です。
 ある人の給料明細を紹介します。国立大学を出て,大手企業に勤めています。28万9,000円。税金と社会保険料が6万6,000円引かれて,手取りが22万3,000円です。少子化って言うでしょう,これが少子化の理由です。国の調査で出ています。「何で子どもを産まないのですか」。教育・子育てにお金がかかり過ぎるからです。この10年間,圧倒的な1位。「毎年,給料は上がってるのに,ずっと手取りは一緒。よく見たら税金が上がってる」。おそらくずっと続きます。だから子育てもできない。一人暮らしが精一杯です。
 この30年間,賃金はほとんど上がってないのに物価が上がっている。高齢者が多くなると,当然年金・保険・医療にかかるお金がどんどん上がっていきます。少子高齢化が進むと税金を納める子どもがいなくなる。全世代共倒れです。税金を納める人がいないのにどうやって社会を回すのでしょうか。
 経済的貧困は心の貧困に直結します。10~30代の死因No.1は自殺です。私は2014年から国で政策提言をさせていただいています。大臣,副大臣が変わるたびにお会いして,「どういう方向性で政策を立てようか」と相談を受けます。旧来の家族構成だったら支え合いで何とかなった。でも,現代は核家族が増えました。子どもを保育所に預ける必要がある家庭が増えれば,さらに負担が増大し,少子化が進みます。悪循環です。
 母子世帯のひとり親に働かせたら,子どもはほったらかしになる。先進国は国で支えているのに,日本は自己責任です。シングルマザーの就労率が86.6%。先進国でこんな国は日本だけです。養育費を受け取ったことがない母子世帯は57%もある。子どもは女性だけでは産めないですよね。なんて貧しい国になったのか。

自己責任ではなく,互助で繋がる社会を

 今日のテーマのタイトルに「児童虐待」を入れました。2020年に「児童虐待防止法」が改正されて,「体罰禁止」という言葉が入りました。
 そして今,日本で一番多い児童虐待は,「子どもの目の前でDV(家庭内暴力)を見せる」行為です。「心理的虐待」と言います。日本の児童虐待の約6割は心理的虐待です。
 体罰が法律で禁止されたので,「愛の鞭」を称して殴ると,今は児童虐待にあたります。パートナーとの喧嘩を子どもに見せることを「面前DV」と言います。子どもは叩かれるより両親が暴言を言い合っている姿を見るほうが,脳にダメージを与えることがわかっています。これは,医学的にも証明されています。
 子育て中の親にとって大切なのは,「育児不安」,「育児困難」を抱えたときに周りがサポートできるかどうか,つまり社会の問題です。誰かを切り捨てて終われば,自分が困った時に「自己責任」と切り捨てられます。
 親か子どものどちらかが倒れたら仕事を休まなければいけません。非正規雇用で有給がないと死活問題です。新型コロナウイルスによる親子感染ドミノが増えました。非正規雇用で数週間仕事ができなくなれば手取りが8万円とかになり,家賃払ったら終わりです。生活できません。
 最後に,今,一番課題だと感じている問題です。立派なマンションに住んで,子どもは私立の学校に通っている。だけど「ド貧困」。そんな家庭が増えています。コロナ融資の返済が始まっています。私立に通っている子どもに今さら学校変えてなんて言えない。大学進学をあきらめてなんて言えない。一見,立派な家庭なのに「少しでいいので食べ物を分けてもらえないですか」と相談されることがあります。
 子どもや家庭を自己責任と放置すると,どんな未来が待っているか。夜の街に出るしかない。すぐに稼げるから。最終的に売るものが自分の体しかなくなります。
 「自立」というのは,お金が中心に据えられていると思います。でも,お金の自立は後からです。まずは精神的自立。心と心がつながっている人と一緒にいるから,自分の能力が発揮できる職業的自立につながる。経済的自立や身辺の自立は後からついてくるものです。本当の自立はつぶれる前に「助けて」と言える力,専門用語で「受援力(じゅえんりょく)」といいます。力の付け方は簡単です。自分を傷つける人とは距離を置いて,大切にしてくれる人のところに自分で行くということです。人生で困らない人なんていません。だから支援じゃないです。困ったときはお互い様。人と人が当たり前に助け合う社会にしたいです。
(スライドとともに)