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2023年11月24日(金)第4,901回 例会

中国経済は「日本化」するのか?

福 本  智 之 氏

大阪経済大学 教授 福 本  智 之 

1989年京都大学法学部卒業,日本銀行入行。2000年在中国大使館一等書記官。’10年日本銀行国際局総務課長,’11年国際局参事役,’12年北京事務所長,’15年北九州支店長,’17年国際局審議役(アジア担当総括),’20年国際局長を歴任。’21年日本銀行退職を経て,同年より現職。東京財団政策研究所研究員。株式会社経営共創基盤シニア・フェロー。

 最近,中国や日本の方から「中国経済は『日本化』するのか?」ということをよく聞かれるので,この演題にさせていただきました。短期的に経済がどうなるのかという話と,中長期でどうなるのかということについて話したいと思います。

コロナの影響が残る中国市場

 今年6月ぐらいから,中国のエコノミストや友人から,「中国は日本のようにバブルが崩壊するのか」と質問されることが多くなりました。原因は,長引く中国の不動産不況です。バブルが崩壊し金融危機が来るのではないかという心配が出てきています。それともう一つは物価が弱いということです。CPI(消費者物価指数)もずっと下がってきて10月は-0.2で緩やかにデフレになったら日本の二の舞になるのではないかという懸念です。
 私はベースラインのシナリオでは日本化しないと思っていますがリスクはあります。それも政府の対応次第です。
 では,どうなるとバブル崩壊を招き,金融危機が生じ,低成長につながるのかを解説します。
 中国は,去年の12月6日にゼロコロナの方針をいきなり解除しましたが,1ヵ月ぐらいで中国全土の8割ぐらいが感染しました。今年は集団免疫ができたから「V字回復だ」という期待感がありましたが,実際は違いました。中国も1兆元の特別国債を10月末に出すと決めました。このあたりで,政府もやる気になったかという期待感も多少は出ています。でもまだ消費は強くありません。要するに抑圧されていたわけです。この3年間,特に対面型サービスの消費ができなかった。ゼロコロナが終わり経済再開となれば,今までためていたものが出てくると思っていましたが意外と消費が弱い。
 では,何で消費が弱いのかというと一番典型的なのは個人預金の増加だと思います。
 2019年から2021年の個人預金は大体10兆元。日本円だと200兆円くらいで年間では増加していました。ところが2022年は,上海のロックダウンとか,ゼロコロナ方針を貫き活動が制限されたので,個人預金が伸びて17.8兆元も増え,強制貯蓄ができてしまった。今年は経済が再開し,自由に消費してもいいとなれば,強制されていた貯蓄が取り崩されて消費が改善するとみていましたが,今年の1~10月で14兆元も増え,昨年よりも若干預金は増えています。今後も上がる期待がないというのが要因の1つです。

リスクシナリオに傾く中国

 もう1つは,長引く不況の中で個人の可処分所得の伸びがコロナ前から3ポイント程鈍化しています。
 将来の所得の伸びに対する期待も落ちており,消費が下がっています。根本的には所得が増えるという期待が戻るか住宅市場が安定しないと消費は戻ってこないと思います。中でも不動産を何とかしなければ中国経済の弱い状態は続くと思います。
 今の中国経済の弱さの最大の原因は不動産だと思っています。政府が民営企業を統制している習近平政権の方針はある程度影響しているとは思いますが,その影響でマイナスになるという見方には賛成しません。
 不動産は,今年の2~3月に1回前年並みぐらいまで販売が戻っています。このまま安定化すればと思っていましたが一瞬だけで次第に悪くなっています。根本的な原因は,供給側の問題だと思います。中国の住宅市場というのは,9割が予約販売です。お金を払っても,2年以上経過しないと引き渡されません。恒大集団はモデルルームだけみせて売っていました。ところが,今年10月に出したIMF(国際通貨基金)の試算では,実質債務超過のデベロッパーが資産比率にして3割近くに上ると指摘しています。2年間ずっと引き渡されないうちにデベロッパーに倒産されてしまうと引き渡しも受けられないため,怖くて買えません。この状況を放置したまま需要喚起をしても意味がありません。中国政府は供給サイドへ改善の手をどこかで打つと思います。
 ただ,中国では25歳~34歳が1軒目の住宅購入年齢の主力ですが,この人口が減り始めていて,2030年までに7,000万人ぐらいに減ります。もう住宅需要自体はピークアウトしているので住宅市場というのはこれから緩やかに減速していくと思います。ただソフトランディングさせることが大事で,これをハードランディングさせると当然銀行システムやシャドーバンキング,地方債務の問題に飛び移りますのでどう切り抜けるかが最大の肝だと思います。
 ただ,中国は日本と比べると,まだ若い経済です。多分1990年代の日本ほど成熟していないので成長に余力があるでしょう。政府のコントロール意欲が強い点は中国にとってプラスになると思います。
 最後に中長期的な見通しを申し上げます。中国政府が暗に想定しているのは,15年間でGDPを倍増させるというものです。私はその時,確率的には2割ぐらいだろうと思っています。ただ一方で,大幅に減速する「リスクシナリオ」も2割ぐらいの確率でありうるでしょう。「基本シナリオ」はその間ぐらいで,この15年間で平均4.1%くらいの成長じゃないかと思っていましたが,今は「リスクシナリオ」がベースになったと感じています。
 でも,失速するのかというとそうではなくて,IMFがこの10月に出した見通し,それから11月に若干修正した見通しを見ますと,IMFの見通しと私の見解がほぼ一致します。IMFも実は2年前ぐらいまではもっと高い見通しを出していたのですが,彼らも不動産不況で下げました。
 不動産は数年かけてソフトランディングさせるとしても,やはり前みたいな勢いで成長を牽引できないとなると,それがやっぱり0.5~1%ずつぐらい成長を下押ししていくだろうというのが一番大きいです。
(スライドとともに)