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2023年10月27日(金)第4,899回 例会

台湾有事はなにゆえ日本有事なのか—台湾での在外研究を終えて—

村 上  政 俊 氏

皇學館大学 准教授 村 上  政 俊 

1983年生まれ。灘中学校・高等学校,東京大学法学部卒業。外務省入省。北京,ロンドンでの大使館外交官補等を経て退官。衆議院議員,中央大学大学院客員教授等を経て現職。中曽根平和研究所客員研究員を兼任。著書に『トランプ政権の分析』,『フィンランドの覚悟』等。博士。専門は国際政治,安全保障。これまで米国,台湾,フィンランドで在外研究。

台湾有事について話をさせていただきたいと思います。今年の8~9月の1ヵ月半ほどあちらの政府系のシンクタンクにいましたので,皆様にその経験と研究成果を共有したいと思います。

「利益線」から紐解く台湾

 京都大学の高坂正堯教授の著書「海洋国家日本の構想」の中で海洋国家としての我が国がクローズアップされています。日本は海外との貿易によって成り立つ国であり,日本にとって海上交通は簡単で最も安価な交通手段であると紹介しています。このことから,台湾がなぜ日本にとって重要なのかといったことを紐解いていきます。
 日本に至るシーレーンですが,中東から石油を,あるいはLNGを東南アジアやオーストラリアから輸入する。このシーレーンの一番重要な部分が,台湾付近を通っているということです。「海洋国家日本の構想」から,このシーレーンに我が国が貿易,エネルギー面で依存していることに気付くとその重要性がわかると思います。
 世界的な日本の専門家として知られるマイケル・J・グリーン氏は「安倍晋三と日本の大戦略―21世紀の『利益線』構想」で使った「利益線」という言葉に,台湾の重要性と安倍外交を読み解くヒントがあると指摘しています。
 この「利益線」という言葉は,山縣有朋総理が第一回帝国議会1890(明治23)年の施政方針演説の中で自国の領土「主権線」の外側に「利益線」を設定し守っていくという意味で使用しました。山縣は主に朝鮮半島にこの考え方を用いましたが,これを現代にも応用できるのではないかとグリーン氏は説いています。
 「安倍は山縣と同じ言葉を使ったわけではないが,先手を打つことを意図した新しい外交・防衛政策は,21世紀にふさわしい『利益線』を定めようとしたという点で,山縣と同じだと言える」と,グリーン氏は述べていました。
 この先は私の考えですが,この「利益線」というものの内側に台湾があるとすると,日本の利益に密着している区域と捉えることができます。もし中国が台湾を手に入れた場合,一つは先ほどのシーレーンが寸断されてしまうでしょう。台湾に人民解放軍が駐留すれば中国が太平洋にアクセスすることが容易になります。
 台湾の東岸というのはすぐに深い海になっており,潜水艦基地をつくるのに適しています。台湾の東岸に人民解放軍が潜水艦の基地を設置すると太平洋を徘徊するようになるのは容易に想像できます。
 ほかに心配されることは,尖閣,沖縄の脆弱性が高まるということです。もし台湾が落ちれば次は沖縄だと容易に想像できます。
 この5年か10年以内に沖縄本島以西の宮古島,それから石垣,与那国,この3つの島に新たに陸上自衛隊の駐屯地を設けました。この沖縄本島より西側というのは従来,非常に手薄な防衛の空白地帯でしたので,駐屯地をつくって空白を埋めています。
 台湾有事において在日米軍基地を使用するということは,日米安保条約の中で予定されています。簡単に申しますと,この台湾海峡の平和と安定,日本及び在日米軍基地は深く密接に関わっているということです。

高まる台湾有事への不安

 近年,台湾有事への懸念が高まっているというのは皆さんもご承知のとおりで,当時の太平洋軍司令官が「6年以内」と述べたり,安倍総理も「台湾有事は日本有事」と述べたりしています。現在の蔡英文・台湾総統は,CNNのインタビューの中で台湾にいる米軍の存在を認めたことがありました。訓練用の人員ですので大規模な軍事オペレーションを実施することはできませんが,米軍が台湾にいることがオープンなものになりつつあります。
 今年の広島G7サミットでも,台湾海峡の平和と安定がうたわれていますが,日本がイニシアチブをとる形で同盟国やヨーロッパ,オーストラリアといった国々に積極的に発信し,抑止力を高めようという意図があります。
 台湾有事をめぐる論点は様々ありますが,一つはやはり台湾本島への侵攻がありうるのかということと,いくつかの離島が中国側の侵攻の対象になるのかということです。わが国の対応として,一つは平和安全法制が整えられて集団的自衛権が行使できるようになっていますが,どんな事態を想定するのかということも大きな論点になると思います。それから邦人保護です。台湾にいる邦人を退避させるだけではなくて,日本に期待されるのは第三国の人たちの退避です。米軍も退避のオペレーションを行うと思いますが,米軍だけでは対応できない場合,台湾に一番近い日本に救出を依頼してくることも考えられます。

日米台間の連携強化を

 今後,日米と中国の対立は激化していくでしょう。中国の内部は現在非常に不安定化しています。経済も急速に減速しており,習近平の独裁が非常に強化されています。来年の1月には台湾の総統選挙があり,11月にはアメリカの大統領選挙があります。日本でも総選挙があるかもしれません。台湾有事の可能性は高まっていくとみています。
 日本はどうしたらいいのか。一つはやはり日米の同盟関係を強化していくことと,もう一つは日米台での軍事協力が必要になると思います。例えば日本の側からすると,台湾とフィリピンの間にあるバシー海峡の情報を提供してもらえれば,中国の空母の動きも把握することができるでしょうし,有事の際には台湾空軍の戦闘機を日本の沖縄の滑走路に避難させるということを念頭に,例えば下地島(沖縄県宮古島市)でも滑走路の調査や強化が急がれていますので,日本とアメリカ,台湾の間での軍事協力を進めていく必要があると思います。
(スライドとともに)