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2023年9月15日(金)第4,893回 例会

「テート美術館展 光 —ターナー,印象派から現代へ」の魅力

國 井    綾 氏

大阪中之島美術館
学芸課主任学芸員
國 井    綾 

1983年東京生まれ。國學院大学大学院文学研究科前期課程修了。文化庁文化財部美術学芸課,芦屋市立美術博物館での勤務を経て,2017年大阪新美術館(現 大阪中之島美術館)建築室に着任,戦後美術を担当。これまで担当した展覧会に「ゲンビnew era for creations:現代美術懇談会の軌跡1952-1957」(2013年,芦屋市立美術博物館),「すべて未知の世界へ− GUTAI 分化と統合」(2022年,大阪中之島美術館)ほか。

 10月26日から大阪中之島美術館で開かれる「テート美術館展」をご案内します。出品作品はテート美術館のコレクションで形成されています。この美術館は,砂糖で財を成したサー・ヘンリー・テートがコレクションをナショナルギャラリーに寄贈しようとしましたが,スペースがなく,国が,それなら新しい美術館を建てようとなり,造られました。

18世紀末から現代まで117点

 今回の展覧会は,テート美術館コレクションから「光」をテーマに作品を選定いたしました。18世紀末から現代まで117点を,それぞれテーマに沿って紹介しています。
 ジョージ・リッチモンドはロイヤルアカデミーという非常に権威のある学校で学びました。創世記の場面を描いた「光の創造」は,左側に夜,左上に星を,右側には大きな光がつくり出した昼が描かれています。天地創造の4日目の様子を描いた作品です。
 ウィリアム・ブレイクはロマン主義の作家ですが,絵を描くだけではなく詩の才能もあった上,「幻を見ることができる」という不思議な人で,独自の解釈で詩をつくったりしていました。「善の天使と悪の天使」は,「あらゆるものは相対するものがないと発展しない」との考え方から,善い天使も悪い天使も両方いることでいろいろなことが進歩していく,ということを,絵で表現しました。
 ロマン主義は,フランス革命と産業革命によって近代世界が形成される過程で生まれました。美術の世界でも伝統からの脱却が求められました。それまでの美術は古代ギリシャ美術が理想でした。その古典主義に反するものとしてロマン主義が生まれました。伝統よりも個人の感性を重視するということで,ウィリアム・ブレイクのような独特の作品が描かれたりしました。

光の画家,ターナー

 展覧会のタイトルに採用されたジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーの作品も出品される予定です。この人はイギリスでおそらく最も有名な画家ではないでしょうか。
 ロイヤルアカデミーで学びましたが,あっという間にスターになり,史上最年少でロイヤルアカデミーの会員になりました。ロマン主義の作家で風景画を主に描いていました。ただ,風景画といっても,きれいな花を描いたり,美しい自然を描いたりするというより,自然の猛威を描くタイプでした。そうしたものを描くことで,人間の無力さを強調するようなものが多かった。光を象徴的に描く作家であり,光の画家として知られています。
 晩年の作品には最低限の色で風景を捉えるようなものがあります。「陽光の中に立つ天使」は,天使を描いた癒やされる作品のようにも思えます。しかし,会場でじっくり見ないと分からないのですが,アダムとエバが,殺された息子の亡き骸を目にして悲嘆に暮れる様子も描かれています。
 こうした晩年の作品は当時あまり理解されませんでした。ほぼ評価を得られず,冷やかしと嘲笑の中にさらされました。絵の精度がないと言われたこともありましたが,その際は「私はその場所の雰囲気を描くことが作風だ」と話したそうです。
 ジョゼフ・ライト・オブ・ダービーは,キアロスクーロという明暗法で光と闇を非常にうまく描き分けることで著名でした。この人は産業革命を作品にしっかり残したとして「最先端技術に非常に関心を持っていた」と説明されたりもしますが,実は関心があったのは,光と闇を描き分けることでした。「噴火するヴェスヴィオ山とナポリ湾の島々を臨む眺め」では,火が噴いているさまと,手前の真っ暗な部分を上手に描き分けています。
 ターナーの終生のライバルとして知られたのがジョン・コンスタブルです。ターナーとは1歳差。ともにイギリスを代表する作家ですが,非常に対照的で,ターナーのほぼ抽象化したような作品とは違いました。ロンドンの「ハリッジ灯台」を描いた作品は,光を浴びて立体的に見られる雲を非常に巧みに描き出しています。

光の世界に取り込まれる

 印象派の作品も多数出品します。印象派は「筆触分割」といい,絵の具をトントントンと置いていって全体の色をつくり出す独特の手法を採用しています。戸外制作も印象派の特徴です。当時はアトリエの中で全部仕上げるのがスタンダードでしたが,絵の具を外に持ち出して最後の仕上げまで外でやってしまうのです。
 マネ,モネ,ルノワール,シスレー,セザンヌらが知られていますが,今回出品するのは,フランスの川沿いに植えられた木を描いたモネの「エプト川のポプラ並木」,筆触分割の方法で描かれたシスレーの「ビィの古い船着き場へ至る小道」などです。
 これら以外にもたくさんの作家の作品が出品されます。
 デンマークの作家,ヴィルヘルム・ハマスホイの「室内」は,静寂な雰囲気の漂う絵です。バウハウスという総合的な芸術学校の人々の作品もあります。モホイ=ナジ・ラースローやヨーゼフ・アルバースで,バウハウスで教鞭をとっていたので,この方たちの生徒の作品も展示します。
 ゲルハルト・リヒターは,絵の具をキャンバスに置き,スキージという板のようなものでギーっと引っ張って作品を描きます。この人も自分の関心はすべて光の表現にあると述べているので,今回出品しています。
 光そのものを作品に取り込んでいる現代の作品も紹介しています。ダン・フレイヴィンは,蛍光灯をそのまま使ったモニュメントのような作品を出品します。オラファー・エリアソンの作品は,球体が半透明のガラスで,光が四方八方にミラーボールのように反射し,光の世界に取り込まれるようです。
 体感できるものがあったり,モチーフが非常に面白いものがあったりと,多くの作品がありますので,ぜひ皆様お越しください。
(スライドとともに)