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2023年8月25日(金)第4,890回 例会

台湾有事の可能性と日本の役割

田 中  靖 人 氏

産経新聞東京本社
編集局外信部編集委員
田 中  靖 人 

1998年慶應義塾大学卒業。2000年同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同年,産経新聞社入社。編集局地方部,整理部,政治部,外信部を経て’14年6月から’20年4月,台北支局長。同年4月から外信部。’21年10月から現職。著書『政策過程分析の最前線』『アメリカ太平洋軍の研究』(いずれも共著)

 台湾にどのようなイメージをお持ちでしょうか。タピオカティーかもしれませんが,半導体のイメージもあるかと思います。台湾で製作している半導体が使えなくなった場合どうなるか。ヘインズ米国家情報長官は,年間1兆ドルくらいの損害が出ると言っています。日本で使っている半導体も台湾製が多い。台湾有事が起きると全世界に影響があるということです。ただ,台湾有事は今日明日起こるものではありません。また,今年来年起こるものでもないと私は考えています。

台湾有事はいつ起きるのか

 台湾有事は2021年,デービッドソン米インド太平洋軍司令官が「6年以内(2027年)に台湾侵攻が起こり得る」と議会で証言し,注目されるようになりました。今年2月には,バーンズ米中央情報局(CIA)長官が,習近平国家主席が軍に対して「’27年までに侵攻できるよう準備を指示した,」と発言しました。ただ,バーンズ氏は同時に「これは侵攻を決定したわけではない」とも言っています。
 では台湾侵攻の時期はいつか。’27年,’35年,’49年というのが専門家の間で言われています。’27年は人民解放軍の「建軍100年奮闘目標」を実現するとしている年です。ただ,これは中身がよくわからない。’35年は「国防と軍隊の近代化を実現する」との目標を設定しています。’49年は「中華民族の偉大な復興を遂げる」としています。
 中国軍は1990年代以降,非常に強大になってきています。潜水艦,水上艦艇,新しい戦闘機の数がどんどん増えています。問題なのはミサイルの数で,日本は圧倒的に足りない。さらにミサイルの射程は,中国がミサイルを打って,日本が打ち返しても届かない。圧倒的な差があるというのが現状です。
 次に「台湾有事のシナリオ」です。第一には「海空域の封鎖」があります。次に何が起きるかと言うと,サイバー攻撃でインフラをだめにしたり,特殊部隊を送り込んで政治や軍のトップを殺害したりすることが起こり得るでしょう。次はミサイル攻撃・航空作戦で,最後に台湾本島への上陸作戦です。
 上陸作戦は簡単ではありません。台湾海峡は波と風がとても強い。上陸作戦を行うためにふさわしい,波が穏やかで風も穏やかな期間は,年間数週間ぐらいしかないと言われています。また,中国側には台湾侵攻用の陸上兵力が約40万人いて,船と飛行機で運ばないとけませんが,その上陸の能力が不足しています。一方,台湾側では陸軍が15万人ぐらいおり,退役した人の強化を始めています。

習近平国家主席の思惑は

 習氏は2012年に総書記になり,異例の3期目に入っています。彼は台湾問題で「武力行使の放棄を決して約束しない」と言っています。中国の軍隊は中央軍事委員会による集団指導ですが,実際は習氏一人で指揮をしています。
 では,どういうときに習氏は侵攻を決断するでしょうか。一般的に言われているのは,経済が悪化した場合,その出口を見つけるために侵攻するのではないか,ということです。ただ,これは考えにくい。理由は,中国共産党の統治の正当性です。
 中国共産党はこれまで経済発展を統治の正当性にしてきました。戦争をすると経済はもっと悪くなる。共産党統治の正当性を揺るがすことになり,それをできるだろうか。習氏にとって台湾統一は失敗できません。失敗すれば共産党は崩壊する。ですので,経済が悪くなったからといって,すぐに冒険できるようなものではないと思います。
 もう一つ,支配力が弱まったときに戦争をするのではないか,という議論があります。香港の場合,民主化デモがどんどん起きて,混乱し,中国の支配力が弱まってきた。そして「これはまずい」と思って強硬手段に出ました。その例によると,台湾が中国から離れていくと判断すれば,手を出してくる可能性はあると思います。
 注意しなければいけないのは,中国が「認知戦」を仕掛けてくるということです。
 「三戦」(心理戦,世論戦,法律戦)をご存じでしょうか。相手の心理に働きかける,世論に働きかける,国際機関で台湾に武力侵攻するのは合法的だと法律的に正当化する。中国はこれを任務に位置づけています。「戦争をしたら絶対中国が勝つ。だから台湾統一に抵抗するな」といったことを,認知戦として働きかけています。それをまるまる信用してはいけないわけです。

有事に備えてすべきことは

 バイデン米大統領はこれまで4回,中国が台湾に攻め込んだ場合は軍事関与すると言っています。ここまで言えば,中国も,台湾有事には米が介入してくると思うでしょう。
 台湾有事では日本有事になる可能性が極めて高い。例えば米軍が介入する時には「在日米軍基地を使用させてくれ」となり,これにノーとは言えないでしょう。さらに在日米軍基地から出撃するわけなので,中国がそこにミサイルを撃ち込んでくれば,日本有事です。台湾有事は起こさないことが大事なのです。
 台湾の在留邦人は2万人ぐらいおり,戦争が始まる前に避難させないといけない。先島諸島にも住民がいますので,どうやって逃がすのか,今からやっておかなければいけない。
 台湾側とも防衛情報を交換していくことが望ましいのですが,今の政府は非常に及び腰で,していません。
 台湾有事は,われわれが準備をすれば避けられます。習氏が’27年までに準備をしろと言っているのは,それまでは戦えないと思っているということです。ただ,それはもう4年後です。そこに向けてわれわれは,備えていかないといけない。防衛力や,邦人退避計画を強化していかなければいけないのです。
(スライドとともに)