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2023年6月23日(金)第4,883回 例会

箱根駅伝全国化のゆくえ

近 藤  雄 二 氏

読売新聞東京本社
編集局運動部編集委員
近 藤  雄 二 

1968年生まれ,早稲田大学人間科学部卒業。’91年読売新聞社入社。盛岡支局を経て運動部,ロンドン支局駐在,現在運動部編集委員。主に五輪種目を担当し,夏季五輪5大会取材。早大在学時に箱根駅伝3度の出場。

 本日はこんな素晴らしい会の皆さんの前で箱根駅伝のことを話せるということで,私は駅伝大好き男で話し過ぎる傾向がありますので,ブレーキをかけながらいこうと思います。
 早稲田時代に箱根駅伝に3度出場しました。その証拠で,2年生で山下りの6区を走った時の写真です。6区は一番,体にダメージを与える区間。下りを短距離みたいなスピードで駆け下りるので,走り終わったらもう足がカチカチになっているんです。10日間ぐらいは足が曲げられない。実家の和式トイレは使えず,足を引きずり引きずりして近所の親戚宅の洋式で用を足した思い出があります。

原点の金栗四三の「思い」に回帰

 箱根駅伝が全国化する。「全国化」とは何だという感じですが,100回大会の記念に,東京・立川市で10月14日に行われる予選会に全国から参加でき,突破すれば箱根駅伝に出場することができます。なぜ今,全国化なのか。100回の節目であることが一つですが,節目でなぜ全国化なのか。上田誠仁・関東学連(関東学生陸上競技連盟)駅伝対策委員長は「原点に立ち返る思いを込めた」とおっしゃっています。原点とは何か。箱根駅伝は,NHKの大河ドラマ「いだてん」の主人公になった金栗四三さんがつくりましたが,その金栗さんの思いが原点にあるのです。
 金栗さんは1912年のストックホルムオリンピックに日本人初のオリンピアンとして出場しましたが,途中棄権してしまいました。自分が屈辱を味わった五輪で勝てるランナーの育成のためにその後の人生をささげ,「日本マラソンの父」と言われています。強化,普及活動の一つが箱根駅伝だったのです。
 金栗さんは途中棄権した翌朝に日記をしたためているのですが,恥をすすぐために今後,自分も粉骨砕身し,マラソンの普及活動も頑張るぞという決意が表れています。日本から世界に通じるランナーを育成するために箱根駅伝をつくったのです。’20年の創設当時,日本陸連はなく,日本に陸上をやろうという組織は関東学連しかありませんでした。日本から五輪で勝てる選手を育成しようという思いが元々,箱根駅伝にはあった。今回,予選会をオープンにすることでその原点に立ち返ろうというのが関東学連の意図のようです。

立命館が出場に名乗り

 昨年春に発表され,素晴らしいと思ったのですが,全国の反応は今一つ。理由を端的にまとめると,「昨年言われて今年出ろとは,そりゃあ1年じゃ難しいよ」と。確かに今回だけですので,全国化を続けるのなら大学も力を入れることができるが,今年だけだと出れるわけないという反応が多かったです。昨年の全日本大学駅伝には関東から15校が出て,16位でようやく(関東以外の)関西学院が入りました。出雲全日本大学選抜駅伝は関東から10校が出ましたが,9位まで関東が占め,関学が頑張って10位に入っています。
 昨年の冬ごろはどこも出てくれないのではないかと心配する関係者もいましたが,今年の春に立命館が出ると言ってくれました。ホームページに彼らの宣言が出ていますが,スローガンとして「歴史を変える」。その中で,4つの目標の1つに箱根駅伝100回大会出場を掲げています。予選会ではなく100回大会に出る,だから予選会を突破するぞ,と。オープン化したことによって学生が火をつけられ,前向きな思いになっているというのはすごく素晴らしいことだと思います。そういう大学が出てきたことだけでも,オープン化した意義があったと個人的に感じています。
 箱根駅伝の価値を3つ挙げます。まず,箱根駅伝は世界最古の駅伝で,国際組織の世界陸連が「ヘリテージプラーク(遺産の飾り額)」,陸上競技会の世界遺産に認定しました。日本では6件しか登録されておらず,価値ある大会だと世界からお墨付をもらっています。また,日本テレビが生中継で全国放送を始めたのが’87年で,お正月の国民的行事として定着してきたのではないかと思います。今年の復路の平均視聴率は関東が28.4%,関西は16.2%でした。さらに前回の東京五輪では,トラックの長距離とマラソンの代表10人が全員,箱根駅伝の出身者でした。これまで延べ100人以上の選手を五輪に送り込んでおり,まさに日本長距離界の人材育成の根幹を担うような大会になってきたと思います。
 全国化を永続的にやるメリット・デメリットですが,メリットは,いろんなところで今まで埋もれていた選手を発掘するといったことが進んでいくんじゃないかと思います。家庭の事情で上京できない選手にも夢を与えることができるのではないかなと。もう一つ,地方の大学の活性化。少子化で学生の取り合いが厳しい中,地方の大学が箱根駅伝を目指すことによってプレゼンスを上げることができるメリットもあるのかなと思います。
 デメリットは今,日本学生陸上競技連合が主催する全日本大学駅伝が大学日本一を決める駅伝となっており,箱根駅伝が全国化すると,どちらが日本一の大会かという話で地位が微妙になります。箱根駅伝の全国化が進みづらい原因でもあります。また,全国で箱根駅伝を目指して強化が長距離の方に偏ってしまうと,中距離が低下するのではないかという恐れも指摘されています。出場のハードルが高くなるデメリットも考えられます。

まずは一石を投じる

 関東学連はとりあえず一回,全国化をやってみようと今回,一石を投じました。どれだけの大学が出場し,どんな結果を残して,というのを見た上で関東学連と日本学連が検討を始める土壌が整うのかどうか。そういったところにも注目していきたいと思います。大阪の皆さんにも,そうした点にも注目しながらこの大会を見ていただきたい。関東のローカル大会ですが,優しく見守っていただきながら何かご意見があればいつでもお寄せいただければと思います。
(スライドとともに)