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2023年4月28日(金)第4,877回 例会

地域の魅力を発信する朝ドラ「舞い上がれ!」の舞台裏

熊 野  律 時 氏

NHK大阪放送局
チーフ・プロデューサー
熊 野  律 時 

1974年大阪生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2000年NHK入局。’04年よりドラマ制作に従事。特集ドラマ「夕凪の町桜の国2018」演出。終戦ドラマ「しかたなかったと言うてはいかんのです」,連続テレビ小説「舞いあがれ!」の制作統括を担当。

 先月まで放送しておりました朝ドラ『舞い上がれ!』の全体の企画から,台本づくり,全体の撮影,もろもろの設計も含めて担当しておりました。朝ドラというのは,地域の魅力を発信していくという役割がある番組だと思っておりまして,今回,特に大阪では「東大阪」の皆さんに取材から撮影など非常にご協力いただいてドラマを制作してまいりました。

「ものづくり」を主人公の原点に

 空を目指すヒロインが,「モノづくりと空を飛ぶ」ということを仲間と共に実現していくという話です。企画の段階で,脚本家の桑原亮子さんと「空を目指すヒロインにしたいね」というような話から始まっておりました。飛行機はいろんな部品によって作られている,技術とか情熱の結晶が空を飛ばしているんだというような話になりまして,やっぱり町工場が日本一密集している東大阪で誇りと技術を持つ方たちの暮らすこのまちで育ったヒロインがいいんじゃないかということになったわけです。
 東大阪の方に取材に伺いまして,何10社もの社長さん,職人の方からたくさんお話を聞きました。ネジを作る町工場の社長さんが日夜,もっと質の高いネジを,もっと効率よく作るにはどうしたらいいか考えて,必ずポケットのどこからかネジが出てくる,お風呂の中であっと思いついて,すぐ図面を書いて,工場に持って行って職人たちと一緒に,あーだこーだ言いながらやるという時間がすごく楽しいんだというエピソードもお伺いして,生涯をかけて情熱と技術を注ぎ込んでいる人たちを朝ドラという半年間続くドラマの中で描き,全国の方に知っていただける機会になるんじゃないかなと思いました。
 こうしたネジ工場でのロケは,実際の工場の一角をお借りして,そこで撮影していくというようなご協力もいただきました。実際に稼働している機械を使って,ネジが作られていく過程も含めて紹介させていただき,町工場のモノづくりをヒロインの原点として描いてきました。この「岩倉」というネジ工場の社長さんを高橋克典さんが演じたんですが,この人物像も,町工場の何人もの社長さんを凝縮して表現したということです。すごくエネルギッシュで前向きな方たちを,ヒロインのお父さんというキャラクターに詰め込んでいきました。視聴者にもとてもすてきなお父さんだと思っていただくことができました。

誇り持つ登場人物に反響

 町工場のモノづくりとか製造業の話というのを,細かくプロセス含めて描くというのは,半年かけて放送する朝ドラだからこそできる。そこはできるだけわかりやすい形で,いろんな人がいろんな思いを持って関わって一つ一つのネジができているということを表現していったというところです。思いのほか強く反響をいただいたのが,製品の最後の「検品,梱包,箱詰め」をしているパートのおばちゃんたちというのが出てくるんですけれども,この3人の方が,リーマンショックで経営が苦しくなってリストラせざるを得ないという展開がありました。取材で「そういう場合,誰が最初に切られるんですか」という話をしたときに,「まあ,やっぱりパートの方からになりますよね」というようなお話を伺って,ただ,そのパートのおばちゃんたちというのが,やっぱり長くこの町工場の現場を支えてくれている大事な人たちなんだということもまた同時に教えていただいたんです。
 ネジ工場の実際のところでも,検品と梱包のおばちゃんたちが,非常に長く勤めていて,その検品作業自体にすごく誇りを持っていらっしゃる。そこで聞いた言葉として,「この私達のやっている検品,梱包というのは最後のとりでなんだ」と。それがすごく印象的で,ドラマの中でも,リストラでこのおばちゃんたちが去っていくんですけれども,その時に「そういう誇りを持って自分たちはやってきた。この会社,いいネジ作ってきたからつぶさんといてや」と言って,強い反響をいただきまして,すごく端的に,モノづくりに取り組む思いが現れて,見ている方に届いたところなのかなと感じました。
 ドラマとしては頑張って工場を立て直し,3人のパートのおばちゃんを呼び返して再び一緒に働くという展開にしました。「ああ,本当に戻ってきてくれてよかったね」と,すごく強い反響をいただけたのがよかったなと思いました。

地域の再発見・活性化も役割

 取材の中で,バブル崩壊,リーマンショック,コロナ禍,シビアな中で,いろんな生き抜くためのチャレンジをする方たちがたくさんいらっしゃるというお話を聞いたので,ドラマの中でそれを描くことで,この長い年月にわたってモノづくりの町として頑張ってきた東大阪の魅力が現れるのではないかなと思って,ちょっとつらい展開,そこから立ち上がるというお話として作っていきました。「空飛ぶ車」が最後に出てきました。ヒロインがチャレンジ,東大阪の皆が協力することで,数年後の世界で,モノづくりの技術が結集して皆で作ったものが本当に空を飛ぶというところまで描きました。地域の話をこの朝ドラというドラマの中で描いていけるということ,これすごくNHKとしても大事な部分だなというふうに思っています。公共放送として地域の活性化とか,地域の魅力をもう一回再発見していくという役割があると思いますので,その土地に暮らす方たちの思いとか,苦労も喜びも含めて描き,新しく希望のある未来につなげていけると思って制作しております。ドラマへの信頼を積み重ねていって,多くの人たちに喜んでいただける番組作りができたらなと思っております。
(スライド・動画とともに)