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2023年4月21日(金)第4,876回 例会

金融都市「大坂」の魅力

高 槻  泰 郎 氏

神戸大学経済経営研究所 准教授
日本学術会議 連携会員
日本学術会議 若手アカデミー
高 槻  泰 郎 

1979年東京生まれ。2010年慶應義塾大学総合政策学部卒。’05年大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。’10年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了(博士(経済学))。’10年東京大学大学院経済学研究科・助教。’11年神戸大学経済経営研究所・講師。’13年1月より現職。

 江戸時代の金融取引はかなり洗練されたものでした。大阪万博も近いですし,国際社会に「大阪って,こういう街ですよ」ということを紹介する機会に,大阪はそもそも商業の町だという話になると思うのですが,そこにこの話を織り交ぜていただけたらなという願いも込めて,きょうは3つのポイント「キャッシュレス決済」「デリバティブ取引」「リレーションシップバンキング」についてご紹介したいと思います。

江戸期のキャッシュレス大国

 江戸時代,大坂はキャッシュレス大国だったのです。江戸時代後半,19世紀初頭に,鴻池善右衛門という大坂の有名な商家で働いていた草間伊助という人が残した記録に,こういうことが書いてあります。「正銀の貯えもこれあるべきはず,もちろんの儀なれども,皆手許に置き候ものはすくなく,多分聞き合わせたしかなる両替方へ入置,家業売買のやりくり,日用金銭の類までも,『取引通い』又は『手形』をもって互に取りやり致し候こと」と書いてあります。キャッシュでの蓄えは皆持っているけども,キャッシュで手許に持っている人は少ない。多くは,信頼のおける両替屋さんに預けて家業売買のやりくり,BtoBでの決済,それから日常生活における支出,こういったものは「手形」とか「通い帳」でやるんだと言っているんです。明治に入ってからの調査でも,それを裏付けることができます。1882年に行われた調査によると,米穀商「百中の九十九までは手形にして正金取引は僅少」―全部手形でやっていると言っています。キャッシュレスに関しては日本では突出していた地域だったということになります。

デリバティブ取引で「宝の市」

 2つ目に「堂島米市場」の話をします。堂島米市場というのは1732年に認可されるんですけども,その後,たくさんの解説本が出版されます。一番有名なのが,「米穀売買出世車」,「八木(はちぼく)虎之巻」,「商家秘録」。何が書いてあるのか。「ルール解説」「用語解説」「投資の心得とか戦術」,どうやって相場は予想するかというのが書いてある。
 これらの本に共通することがそれは「デリバティブ取引」というものを念頭に置いています。簡単に言うと,誰でも取引できる,素人でも明日から取引ができる,そういう気軽にできる取引が「帳合米(ちょうあいまい)」というデリバティブ取引なんです。
 「米穀売買出世車」,これが一番古い本です。1748年に大坂で刊行されまして,用語集から始まります。「帳合米(ちょうあいまい)とは何ですか」とか,「さや」とか,相場固有の言葉使いとかを解説してくれています。「相場の上がり下がりを見極めたならば,万両の金を得るのもあっという間なんだ」ということが書いてあるんです。かなり読者をあおっている。このデリバティブ取引というのは,「米蔵なんかも用意する必要ないよ」と,「利に当たればはかりなき富を得ること実に宝の市だ」と言っている。一方でもちろん,危ないよということを強調する本も出ています。これは「八木虎之巻」という本ですけど「他人をうらやんで売るな。他人をうらやんで買わない。それから価格の天井で売ることに固執しない。一番安い底で買うことに固執しない。これが大事だ」と言っています。これは今でも通ずるんじゃないかなと思います。投資戦術というか心得みたいなのが,これらの本にたくさん出てきています。こういう投資に関する知恵というか戦術も,大坂商人の財産だと思うんです。

「関係性」重視の貸付戦略

 最後,「貸付戦略」の話をします。これは幕末の長者番付なんですが,トップは金融で,かつ大名にお金を貸している人たちです。「大名貸し」というのは,イメージとしては危ないと思っておられる方も多いと思うんです。実際に踏み倒しまくった大名もいます,倒産した商家もたくさんあります。何が違うんでしょうか。それを知る手がかりが津和野藩という藩にありました。この藩,和紙とかろうそくを藩を挙げて製造して大坂に持っていって売って何とか藩財政を回していたのですが,その津和野藩のメインバンクが(大坂の)加島屋さんだったんです。津和野藩と加島屋さんの契約を見てみると,おもしろいことがわかります。紙とろうそくを売る,この代金は全部加島屋が預かります。加島屋は当然津和野藩に貸していたお金の元利はここから引き去ります。かつ,加島屋は津和野藩に貸していたお金の元金はここから引き去ります。かつ,津和野藩がお金が必要だから支払いたいというときは,全部加島屋が支出する。藩の財政に完全に食い込んでいるんです。その代わりですけど,津和野藩から預かっているお金は6%で運用してあげますよという条件を出しています。これで貸し倒れるはずがないんですね。一部の商家は,こういう契約を結んで確実に債権回収をしていたということが最近わかってきています。
 こうやってガチガチに関係性を築いて貸すというのが戦略でしたし,この契約を結ぶ前に津和野藩は次年度の収支計画まで提出しています。つまり加島屋久右衛門は,津和野藩の事業性を評価して,「これだったらいける」と踏んだから貸しているんです。こうやって事前に審査して貸す。これが大坂豪商たちの戦略だったということになります。
 「キャッシュレス決済」,「デリバティブ取引」,そして「リレーションシップバンキング」(深い関係性を築いて貸す)。この3つはすべて大坂商人が先駆けて生み出したものですし,世界で最初と言えるものもある。江戸時代なのにすごかったという話じゃなくて,今目線で見てもやっぱり学ぶべき点は多いと思います。こういったところを,大阪の魅力として伝えていきたいと思っています。
(スライドとともに)