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2023年4月14日(金)第4,875回 例会

北朝鮮へ行って来た話

薩 摩  和 男 君(ホテル・旅館・料理店)

会 員 薩 摩  和 男  (ホテル・旅館・料理店)

1951年大阪生まれ
東京大学法学部卒業後,吉兆湯木貞一氏の指示で臨済宗妙心寺派の禅院にて修行,その後京都吉兆で料理修行。1992年美々卯社長,2023年3月会長に就任。’03年大阪ロータリークラブ入会,’12年幹事,’21年地区財務委員長等。

 板門店を北側から撮った写真です。どういう経路でここへ至ったのか,この後お話ししていきます。板門店は韓国との国境にあり,3つの建物が並んでいます。真ん中の建物の中央に机が置いてあり,その真ん中に線が引いてあって,それが国境だそうです。

再建された寺の法要で北朝鮮へ

 そもそもどうして北朝鮮に行くことになったのか。しばらく前に大正大学の発掘チームが北朝鮮側の協力の下,板門店近くのケソン(開城)付近を発掘し,「霊通寺」という寺の跡を発見しました。それが(朝鮮半島での)天台宗の開祖,義天(1055-1101)が開いた寺と分かりました。そこで,私の数十年来の知り合いで日本の天台宗の役員を務める武本さんという人物が,(当時の最高指導者の)金正日宛てに手紙を書いた。「友好の印として寺を復活するプロジェクトを立ち上げたいので協力してくれないか」と。まさか返事が来るとは思ってなかったらしいのですが,数ヵ月後に返事が来て大騒ぎになりました。それがきっかけで寺ができた。2005年に完成して落慶法要で行き,’16年にも金閣寺の有馬管長を筆頭にチームを作って法要に行くということで誘われ,「ぜひ」と加わらせてもらいました。
 関空をたつ時,見送りの後に控えていたのが荷物チェックで,出国時に検査されたのは初めて。著作権に関係するものを持っていかれては困るみたいなことでした。北朝鮮に入るにはまず北京に行き,現地の北朝鮮大使館でビザを発給してもらう。それを持って北朝鮮に出発します。飛行機は高麗航空で,「ツポレフTu-204」というソ連の機体でした。シートはかなり毛羽立ち,年季が入っている。機内食のハンバーグは怪しげなんで食べなかったのですが,有名らしいです。スイッチのネジもさび,ほこりが積もっていて,「この飛行機,大丈夫かな」と思いながら乗っていました。まことに荒っぽい操縦でした。
 約3時間の飛行で平壌へ着くと,途端に軍服姿の人が見回っていました。荷物をチェックされ,私はGPSの付いたランニング用の時計を没収されました。持っていた本も全て。空港からまず平壌市内の万寿台に行き,金日成の銅像に花束を手向けました。来た人はここで花束を捧げることになっている。
 ホテルのフロントはまあまあきれいで,部屋も一応清潔そうでした。部屋に入って最初にやったのは鏡をコンコンと。裏に人がいてないか確認しましたが,そういう鏡ではありませんでした。売店があり,お菓子など日本のものが中国経由で流れてきている。外国人が円やユーロで決済することが前提です。

板門店は緊張感ある場所

 次の日,板門店へ。趣味のランニングはかないませんでしたが,自由に街の写真を撮らせてもらえたので,私が説明するよりも写真をご覧になって感じ取ってもらえたら,どういう国かよく分かると思います。朝の通勤時,車はほとんど見受けられません。平壌から南へ向かうのですが,道はひたすら真っすぐ。ガードレールなし,街路灯なし,車線のラインなし,対向車は来ず,同じ方向に行く車もありませんでした。いよいよ板門店のエリアに到着です。板門店に続く通路は今や象徴的な施設になっていますが,いざという時に支柱の部分を爆破するとドンと落下し,交通を遮断するために造られたものです。
 通路を奥に行くと,休戦協定を結ぶ時にいろいろ議論をした建物があります。進んでいくと,今度は米軍との間で休戦協定を調印したスペースなんだそうで,記念館的な形でいろんなものが展示してありました。衛兵交代のシーンもありました。まことに緊張感あふれる場所であったのは事実です。
 ケソンの霊通寺では,お坊さんが出迎えてくれました。お坊さんといっても国家公務員。北朝鮮では宗教は禁止され,一番上にいるのが金正恩で,それを超えるキリストやブッダといった存在は認められていません。
 夜はカラオケバーがあり,歌のうまいお姉さん,ダンスのうまいお姉さんがいて,北朝鮮側のスタッフは,昼間はなかなかコワモテなのですが,お酒が少し入ると気持ちが緩んでいろんなことを話してくれました。女性にホテルに来る前はどこにいたのか尋ねたら,ドバイで,外貨を稼ぐために北朝鮮が運営するレストランのような場所で働いていた,と。命令でこっちに来たそうです。酔っ払った通訳の金さんに,「北朝鮮は何で突っ張るの」と聞いたら,「中国,ロシアという油断のならない国に挟まれ,目の前の韓国には米軍が駐留している。我々は本当に取り囲まれている。一生懸命背伸びをして突っ張らざるを得ない」と。まさにその通りだなと思います。
 ここから先,街の風景の写真をたくさん出しますのでご覧ください。金日成の生まれた家を再現した施設や科学技術センターといった名称の建物などにも行きました。「主体思想塔」にも案内されました。かつて金日成の国家運営をもてはやすような雰囲気があった時代の名残りです。その思想塔の上から写真を撮りましたが,人が歩いていない,生活感がない。高層の建物も,中に人がいるのかは疑問だなと思いながら帰ってきました。

戦線維持の能力のない国

 結論として4つ感じました。この国は戦線を維持するロジスティクスの能力は全くない。自給自足経済の国です。できるのは,核を一発打ち込むだけ。もしそれをしたら,米国からミサイルが飛んできて平壌は火の海になることを彼らはよく知っており,決してそんな無謀なことはしないと思います。それから,個人というものが確立されていません。全体主義の中でずっと来ており,神といった存在がないので,南北を統一したら何とかなるという話ではないと思います。また,優秀なテクノクラートは,表には出てこないが存在すると思います。そういう人たちが金正恩の後の国をどう運営するかが一つのキーポイントと考えています。
(スライド・動画とともに)