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2023年2月17日(金)第4,868回 例会

若い世代のやる気の引き出し方

正 頭  英 和 氏

立命館小学校
教 諭
正 頭  英 和 

大阪府出身,関西外国語大学卒業。外国語教育学修士。京都市公立中学校,立命館中学校・高等学校を経て現職。Global Teacher Prize 2019において,世界150ヵ国以上,3万人のエントリーの中から,日本人小学校教員初のトップ10に選出され,「世界の優秀な教員10人」になる。主な著書『世界トップティーチャーが教える子どもの未来が変わる英語の教科書(講談社)』。

 大阪RCの長い歴史の中で小学校の先生は初登壇とうかがっています。皆様も小学校時代に戻った気分で話をお聞きいただければ。

「世界の優秀な教員10人」に

 先生の仕事はイメージできると思うのですが,副業で教材や授業を作っています。私が「グローバル・ティーチャー賞」で世界のトップ10に選ばれた一つの理由に,授業の中でゲームを使ったということがあります。ゲームをそのまま持ち込んでも遊んでしまうだけなので,どうしたらうまく教育の中に取り入れていけるか,そのプロデュースもしています。他にも,企業と一緒に授業を作り,無償で提供しています。無償というのが大事で,教材を1円で売っても払うための手続きが大変なので先生は買わない。また,都会で学ぶ子と地方で学ぶ子には格差があり,無償で,インターネットでダウンロードできるようにして地域間格差の解消にも頑張っています。
 グローバル・ティーチャー賞は2016年にできた,比較的年の浅い賞ですが,第1回のゲストはローマ法王。’19年の僕の時はハリウッドスターのヒュー・ジャックマン氏がゲストでした。日本では知名度がない賞ですが,世界では割と知名度があり,’19年の時にはマレーシアのマハティール首相が授業を見たいと言ってくださり,立命館小学校に来ていだたいた。僕が賞に選ばれた時に世界200ヵ国から取材がありましたが,取材が全くなかった国が2つあります。日本と韓国。共通点は何かというと,学力。学力って何なんだということなんです。これだけ時代が変わったと言われるのに,学力の定義は変わっていないのかということを考えてみたい。
 この120年間で街並みは何もかもが変わったが,学校の教室は驚くほど変わっていない。学校の環境が変わらないと,基本的に先生の教え方が変わらないんです。最近,本当に考えることが嫌いな若者が増えてきたと思います。考えることが好きな大人と嫌いな大人の分岐点はどこにあるのか。何となく10歳から17歳だと思っています。世界が大きく分断された分岐点が2007年。スマートフォンが誕生し,インターネットがポケットの中に入るようになった。僕たちの時代の学力は,突き詰めれば暗記と計算でしたが,特に暗記は大したことじゃなくなった。インターネットで検索すると一瞬で分かっちゃうから。今,令和の時代に注目されているのが,「体験」という教育です。おそらく次の世代になっても遠足,修学旅行はなくならない。学校の中では学べない体験がそこにあるからです。

体験をどんどんさせる

 子どもの何かに挑戦する力はやる気が全て。そう思っているのですが,学校教育の最大の敵はYouTubeです。子どものモチベーションというのは足が早く,簡単に腐ります。昔はエンターテインメントがなかったから,例えば次の日曜にカブトムシを取りに行くといったことが最高のエンターテインメントだった。ところが,今の子どもは他で気を紛らわすことができる。最たるものがYouTube。悪いことでなく,自然なことなんです。
 6年生の男子に聞くと,2割ぐらいの子はやってみたいことが「ある」と言います。8割ぐらいは「ない」と。やる気はあるんです。でも,やってみたいことはない。自分で何かやってみたいことを生み出せない。ここで,注目したのは2割の子。何でやってみたいと思ったかを聞くと,必ず過去の体験にひもづけて,体験をベースにして自分でやってみたいことを生み出していると分かりました。
 なので,僕が小学校でやっているのは圧倒的に体験教育です。体験をどんどん子どもたちにさせ,その中で自分がやってみたいことを生み出す。令和の時代で,あまり意味ないよという言葉が「やってみよう」という言葉。20代後半ぐらい以下の人にどう聞こえているかというと,「頑張れ」と聞こえています。抽象論で指示されている感じなので,「やってみよう」で人は動かない。では,どういう言葉掛けをすれば,人は動くのか。子どもたちが行動する時の欲求は大きく分けて3つ。「調べてみたいと思った時」,「作ってみたいと思った時」,「試してみたいと思った時」。この3つの感情が生まれた時に動き始めます。あと,これは関西だからなのか,東京の子どもにも該当するのか分からないのであえて書いていませんが,謎の4つ目として,「商売をしてみたい」という欲求も一定数あります。
 調べてみたい,作ってみたい,試してみたいといったようなことを体験として提供していくと,子どもたちの選択肢は広がる。「だったら,こうしてみよう」,「こうしたらこうなるんじゃないの」といったふうに,はまった経験,体験がいろんな子どもたちの選択肢を広げてくれる。「AがだめならBでいいじゃん」,「Bがだめならこんな方法もある」ということを自分で考えられるようになると,これはあくまで仮説ですが,社会人の自殺が減るんじゃないのかなと思っています。

大人が変われば子どもが変わる

 今の時代の学力が何を指しているか。これは間違いなく表現力です。僕らは表現力を付けるために授業をしています。表現力の土台になるものは思考力。人は考える力以上に表現することはできません。その土台は感じる力,思考力を育てているのは感受性です。この感受性を育てているのは,やっぱり「体験」なんですね。なので,とりあえずやらせてみるというのは,すごくすごく価値のあることなんです。ただ,今の時代,「やってごらん」ではだめなので声掛けを変えていく必要はあるのですが,いろんな体験をさせてあげることが重要です。お子さん,お孫さんとコミュニケーションをとる時に,いろんな体験を提供してあげるようなふれ合い方をすると,子どもの将来にとっても,すごく有益なものになっていくんじゃないかなと考えています。
 「大人が変われば子どもが変わる」が教育の本質。これは今も昔も全然変わらないことなのかなと思っています。
(スライドとともに)