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2023年2月3日(金)第4,866回 例会

難民問題の現状と私たちにできること

芳 島  昭 一 氏

特定非営利活動法人 国連UNHCR協会
広報啓発事業/難民高等教育プログラム担当
芳 島  昭 一 

関西外国語大学英米語学科卒業。民間企業営業マンを経て,在フィジー日本国大使館,青年海外協力隊,外務省国際協力局政策課,国際NGOプロジェクト・マネージャー,各種JICAプロジェクト事務所などで国際協力事業に従事。
2017年2月に国連UNHCR協会に「国連難民支援プロジェクト」関西エリアマネージャーとして入職し,同法人担当を経て,現在は広報啓発事業/難民高等教育プログラム担当。

 ウクライナの緊急事態がそろそろ1年となり,この瞬間も国内外に避難を強いられている方々がたくさんいます。国境を越えて近隣国に逃れた人は1,700万人以上。うち約886万人がポーランドに逃げました。さらに国内でとどまって避難生活を送っている人が591万4,000人。ウクライナ国内に一時的に戻った難民も相当数おり,一旦戻って家族の無事を確認し,また国外に逃れるといった感じで実際には出たり入ったりしています。今現在,国外にいる人は1,500万人と言われます。

1,700万人以上が越境したウクライナ

 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)はウクライナ難民のために何をしているか。例えば,緊急シェルターの提供です。国内避難民は元々,住んでいた家が爆破されて住めない。国境を越えた方々も外国に逃げているわけだから家なんかない。そうした人たちのためのシェルターを提供しています。それから現金給付支援。以前はこちらで物を買い,これを使ってくださいという形が多かったのですが,やはり服でも食べ物でも好みがあり,現金を支給し好きなもの,必要なものを購入してもらっています。心理的な負担を抱えている人にプロのスタッフによる心理的サポートも行っていますし,人々が逃げる途中,ポイントポイントに設置した「ブルードット」で,「この国ではこんな支援やサービスが受けられる」といった情報提供もしています。
 UNHCRの特使として長らく難民支援の必要性を訴えてきた女優のアンジェリーナ・ジョリーさんは「ウクライナの1人目の人が国境を越えて難民となったその瞬間,既に8,000万人以上がこの地球上に難民として存在していた。その人たちのことも忘れないで」と難民の平等な権利を訴えました。ウクライナ以前に,シリア,アフガニスタン,ミャンマーなどでもたくさん難民が発生し,彼らは今も難民で,支援を必要としています。

難民は, 普通の人々

 難民は,私たちと変わらない普通の人々です。なぜ普通の人たちが難民になってしまうのか。戦争,そして迫害です。それと,大規模な自然災害が起こった時にも故郷を追われることがあります。自然災害では,日本ならば日本政府が存在し助けてくれる,決して見殺しにはしません。しかし,紛争地だと国が助けてくれず,国際社会からの支援がないと生きていけないという違いがあります。
 覚えておいてほしいのは,難民になりたいと思ってなった人はいないということ。皆,決して外国に行きたいと思って行ったわけじゃない,行かざるを得なかった。生き延びるために。難民の方は皆,おっしゃいます。まさか難民になるとは思わなかった,と。難民問題は悪化し続けています。ミャンマーのイスラム系少数民族のロヒンギャは,国内での暴力行為によって隣国のバングラデシュへ避難しました。2017年8月下旬から推定130万人。大半が女性と子どもです。このロヒンギャ難民も世界で見るとごく一部。全人類の80人に1人が強制移動に直面しています。
 国境を越えた人々を「難民」,国内で避難生活を送る人々を「国内避難民」と言いますが,国内避難民の方が圧倒的に多い。世界の強制移動の数は’21年時点で,10年連続増加し,全体数が4,000万人以下だった’11年の2倍以上です。昨年もウクライナを含め世界中でいろんな問題があり,国内避難民は1億人を超えました。日本人かつ女性で初めてUNHCRのトップを務めたのが緒方貞子さん。緒方さんがトップになった時,国際社会は国境を越えた難民しか支援できなかった。国内避難民はその国の政府が責任を持って助けるべきというのが国際社会の考え方で,国連は助けることができなかったのです。しかし,緒方さんがトップになってから,それはおかしいと国際社会に訴えかけ,国内避難民も助けられるようになった。多くの命が助かり,緒方さんは今も世界的に尊敬されています。
 UNHCRの活動は3つの段階に分かれます。まず緊急支援の段階があります。国境を越えた先の政府と交渉して難民キャンプを作らせてもらう。ほぼ何も持っていない人たちに水と食料,家となるテントを援助させてもらう。次に中長期支援。一度難民になると平均で約20年,避難生活が続く。普通の生活に戻るまでに時間を要します。その間,子どもには教育,大人には職業訓練などを提供します。医療や心理サポートも継続的に行います。さらに恒久的な解決に向けてですが,仮に元の国に戻れてもゼロからの生活再建が必要で,ある程度復興までのお手伝いもします。戻れない場合には,第三国定住の形で受け入れてくれる国を探すといった支援も行っています。

支援は「知る」ことから

 難民は援助がないと生きられない人,弱々しい存在みたいにお伝えしてしまったかもしれませんが,そうではありません。アインシュタインやフレディ・マーキュリー,オルブライト・元米国務長官も難民でした。皆さんと同じ可能性を秘めた一人の人間なのです。そうした難民のために何ができるか。まず知ることが何より大事です。知ったことを家族や友人に広める,「実は難民ってこんな人たちなんだ」と伝えていただく。伝えることで支援の輪が広がる。そして,募金に協力する。自分が難民だったらと考えてみる。その時に皆さんならどうしたい,どうしてほしいか。それが難民の人々がしてほしいことです。
 募金は,例えば,栄養補助食品が1個50円。50円で命が救えます。「国連難民サポーター」は月1回の引き落としによる支援です。チャリティー募金もものすごく力になりますが,継続的な支援ならば年間でいくら寄付が集まるかが分かるので計画的な支援が可能になります。皆さんからいただいた寄付は世界の難民支援の現場をモニタリングしているジュネーブの本部に送り,現場が必要とする支援に使わせていただきます。
(スライドとともに)