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2023年1月20日(金)第4,864回 例会

新型コロナのこれまでとこれから

忽 那  賢 志 氏

大阪大学医学部附属病院
感染症内科 診療科長
忽 那  賢 志 

2004年3月山口大学医学部卒業。’08年奈良県立医科大学附属病院 感染症センター。’10年市立奈良病院 感染症科医長。’12年国立国際医療研究センター 国際感染症センター,’18年同 国際感染症対策室医長。’21年7月大阪大学大学院医学系研究科 感染制御学 教授。附属病院感染制御部 部長。感染症総合教育研究拠点(CiDER)人材育成部門 副部門長。’22年7月大阪大学医学部附属病院 感染症内科 診療科長。

 感染症とはそもそも,人に病原体が感染した時に人と病原体との間に起こる反応をいいます。感染症が起こるには,宿主という人がいて,そして病原体,感染経路という3つの要素が必要です。他の疾患との最大の違いは,やはり人にうつっていくこと。感染症は「伝播」が非常に特徴的な疾患群なのです。

感染症が拡大しやすい時代

 人類の歴史を見ると,感染症は,ずっと戦い続けてきた相手でもあります。新型コロナの出現前のこの20年ぐらい,新しく出現する,あるいは過去にあった感染症が再び現れる「新興再興感染症」が増えていました。2002年から中国で流行した「SARS(重症急性呼吸器症候群)」は,これまでになかった特徴として,あっという間に世界中に感染者が拡大しました。現代の感染症は飛行機などを介して世界中に広がる。人が移動する距離や量が圧倒的に増えているのが原因で,私たちは感染症が拡大しやすい時代に生きているのです。
 新興再興感染症の出現要因ですが,例えば温暖化で蚊の活動期間が長くなったり活動範囲が広がったり,それによってデング熱が流行しやすくなって’14年には日本でもアウトブレイクが起こりました。新型コロナは「100年に一度の流行」といわれますが,次のパンデミックは100年後でなく,もっと早く来る可能性があり,今回の経験を基に感染症に強い社会を作っていく必要があると思います。
 新型コロナの感染経路は主に3つ。1つは接触感染で,ウイルスが付着したものや感染した人に触れることで自分の手などにウイルスが付着し,その手で自分の粘膜,目鼻口などを触ると感染します。接触感染を防ぐにはこまめな手洗いが重要で,洗い残しがないようにすることが大事です。2つ目は飛沫感染。せきやくしゃみで相手の粘膜に入って感染が成立する。今,私たちは,せきやくしゃみをしてないのにマスクを着けています。これは新型コロナ以降の新しい感染対策の考え方です。新型コロナはインフルエンザと違い,発症する前後に最も感染力が強いといわれ,症状がない人も周りに広げないように対策が必要です。もう1つは唾液。つばの中にウイルスがたくさん含まれ,これもインフルエンザと違う特徴です。「ユニバーサルマスキング」といいますが,特に屋内ではマスクを着けましょうというのが推奨されています。

オミクロンの拡大で流行は下火に

 世界的に感染者数が一番多かったのは,ちょうど昨年の今ごろ。オミクロンという変異株が広がった時期に一致しています。その後,世界的には減少傾向にあります。一方で日本は,第8波といわれる現在の流行は幸いピークを越えたように見えますが,海外と比べるとまだまだ感染者数が多い。この大きな要因として,オミクロンに感染した人の割合の違いがあります。日本人のN抗体(新型コロナウイルス抗体)を調べると,献血した人の4人に1人が陽性。つまり4人に1人がコロナに感染したことがあるということです。ほとんどがこの1年間に感染していることから,オミクロンに感染した人ばかりです。このオミクロンに感染した人が増えると,国内では流行が広がりにくくなると考えられます。
 英国ではオミクロンが広がった時期に感染者が増え,それ以降は減少しています。英国のN抗体の陽性率は8割。加えて,ワクチン接種率が9割ぐらいあり,「ハイブリッド免疫」と呼ばれる非常に強い免疫を持つ人が増え,流行が広がりにくい状況になっているといわれます。ただ,人口100万人当たりのコロナによる死亡者数は,英国が日本より8倍ぐらい多い。日本の状況が海外より劣っているのではなく,今まで日本国内でしっかりと対策が行われて流行の規模が大きくならなかったので死者数も少なく,オミクロンという比較的重症化しにくい変異株が広がってから感染者数が増えているので,そこまで大きな影響にならずに済んでいる。ただ,第8波では1日500人が亡くなっており,流行の規模を小さくしないと被害が増えてしまうところが,難しいかじ取りが必要なところかと思います。

5類移行後もしっかり対策を

 現在,新型コロナは感染症法の中で「2類相当」という,2類と同じような扱いから少しずつ基準を緩めてきていますが,それを5類相当にしようという議論がなされています。5類になると,一番大きな混乱が起こり得るのは,患者が発生した時に保健所や入院フォローアップセンターといった入院の調整をするところがなくなること。搬送先が見つからない人が増えないよう,事前にしっかりと自治体ごとに調整しておく必要があります。
 今,コロナにかかる費用は全て公費で賄われていますが,5類になると保険診療になります。公費負担でなくなると,お金がかかるから検査や治療を受けたくないという人が出て,重症化の増加につながり得ます。やはりワクチンは公費にして接種率を高める方が公衆衛生的にはいい。また今,感染した人は最短7日間の自宅療養となっていますが,法的な根拠がなくなるので企業などはそれぞれの裁量に任されることになる。各企業や自治体で一定のルールが必要になると思います。
 今後もいろんな変異株が出て流行が繰り返される可能性がありますが,感染したことがある人,ワクチンを打った人は次の変異株に対しても重症化しにくいことが経験則で分かっています。WHOが考える基本シナリオは,新しい変異株が出て大規模な流行が起こっても,インパクトとしては段々,小さくなっていくだろうと。ただし,重症度の高い変異株が出てくることもあり得るので,それも考慮しつつ緩和を進めた方がいいとの見解です。
 流行から3年。日本は海外と比べると被害を少なくすることができています。5類になって一気に感染者が増えないよう,ある程度流行が起きた時期にはしっかりと感染対策を行いながら社会を回していくことが必要になっていくと思います。
(スライドとともに)