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2022年12月23日(金)第4,861回 例会

最近の内外経済情勢と関西経済―日本復活の鍵は関西が握っている―

高 口  博 英 氏(中央銀行)

会 員 高 口  博 英  (中央銀行)

1965年生まれ。神奈川県出身。’88年東京大学法学部卒業後,日本銀行入行。’93年ペンシルバニア大学 ウォートン・スクール卒業(MBA)。2009年政策委員会室参事役。’10年政策委員会室経営企画課長。’11年岡山支店長。
’13年システム情報局参事役。’14年企画局審議役。’16年総務人事局審議役(人事運用担当)。
’18年金融機構局長。’21年より現職。’21年 当クラブ入会。

 世界経済は「パンデミックと戦争」という歴史的な2つの大きな出来事により,転換期を迎えていると考えています。ポイントは,これまでの低成長,低インフレ,低金利から,高インフレ,高金利に世界的に見れば局面が変化しつつある。コロナが勃発し,世界経済は落ち込みを経験したわけですが,各国における財政金融政策やワクチン接種により,需要が急速に回復。一方でこうした急速な需要の回復に供給や物流が追いつかず,世界的に物の需給がひっ迫をしまして,資源高を中心にインフレ圧力が高まりました。海外の中央銀行は急速に利上げで対応。この1年間,急速に円安が進んだわけです。同時に,中長期的にも見ても,ウクライナ情勢も相まった米中対立の激化などから,経済効率性を重視して進んできたグローバル化が,今大きく変容を迫られている。脱炭素化に伴うコストの上昇も加わり,中長期的にインフレ圧力が持続しやすい。一方で急速に進むデジタル化が生産性の向上や,賃金の上昇を通じて防波堤になると考えています。非常に大きな構造変化が起こりつつある。

期待される「戻りの力」

 国際通貨基金が出している直近の見通しで,世界経済は減速をしていく,特に先進国については一時的に景気後退が起こり得ると示唆されています。
 米欧はコロナの影響で一旦大きく下振れた後,コロナ前の水準を回復しております。一方で日本はコロナ前の水準を回復できておりません。日本においては消費者,そして政府も感染拡大に対する警戒をより慎重に見極め,消費の回復が他国に比べて大きく遅れています。ただこの後海外に比べてコロナからの戻りの力をより強く発揮できるとも言えます。米国ではホームメイドインフレが顕在化,アメリカの中央銀行(FRB)が急速に金利を引き上げて物価を安定化させようとしています。欧州はアメリカよりもさらに厳しい。スタグフレーション的な状況と見ています。日本は消費者物価はかなり上がっています。直近でも3%台後半まで上がっており,かなり高い水準です。短期的にはもう少し上がることを見ていまして,恐らく4%台に。エネルギー価格は欧米と共通で,物の値段が上がっています。
 このような状況で,欧米の中央銀行は急速に利上げをしております。日本は政策金利は据え置きをしております。これは日本経済がまだコロナ禍からの回復途上であることから,当面は粘り強く金融緩和を継続する必要があるという考え方に立っています。日本銀行が10月に公表した経済物価見通しでは,23年度の成長は,G7先進国の中で恐らく日本が一番高いというように見ています。国際通貨基金も同じような見方でありますので,日本は回復が遅れた分,その戻りの力が今年度から来年度にかけてかなり働くことを示唆しています。
 ここで,関西の経済についても少しポイントを絞って動向をお話しさせていただきたいと思います。まず輸出。中国向けのデジタル関連などの輸出がかなり堅調で,全国を上回ってきた。設備投資は関西は全国よりもかなり堅調で,将来を見据えた成長投資に対する投資意欲が関西企業は非常に強い。個人消費もコロナ禍からの戻りがかなりはっきり出てきております。例えば百貨店の売上高はコロナ前の水準を超えています。外食も回復してきている。来年の関西経済を展望しますと,設備投資,そして個人消費を中心に回復を続けていく可能性が高い,このように見ております。

伸びる4分野 関西に追い風

 これから世界で何が起こるか。デジタル化・脱炭素化・ライフサイエンス・インバウンド,です。私は日本復活の鍵は関西が握っていると感じております。関西経済の成長は東京以外の地域経済の成長も含め,日本経済に大きなインプリケーションを持つと思います。
 より実質的な理由があります。冒頭に申し上げたように,グローバルに大きな構造変化が起こりつつあるもとで,世界及び日本の成長分野で関西は世界的にも大変優れた大学,企業,観光資源が集積されています。2025年には大阪関西万博が予定されており,これらを世界に発信する絶好の機会となる可能性があります。関西が中小企業も含めて世界と直接つながる大きなチャンスとなり,急速に進むグローバルサプライチェーンの見直しの大きな受け皿になる機会も増えていくと思います。今大きな追い風が吹いている。

海外とのつながりに可能性

 この点,実は先日アメリカのトップのコンサルティングファームのグローバルチェアの方が来てくださいまして,少し意見交換をしました。私が非常に印象的だった点が2つあります。1つは脱炭素化の関係で,そのコンサルティングファームでは,2050年に向けてイノベーションが必要で,その非常に大きな担い手になるのは日本企業であり,関西企業にも非常に優れた企業があって大変期待していると。もう一つはデジタル。GAFAには,もはやソフトウェアだけでは成長は維持できない。その意味で,非常に優れたハードウェアの技術を持っている日本企業の力を借りたい,提携したい,M&Aで買いたい,このような声が強まっているというように聞きました。この声は関西の経営者の方からも同じような認識が寄せられています。海外と直接つながることは大きな可能性があると感じています。
 日本銀行の政策運営は,今非常に舵取りが難しい局面に差しかかりつつあります。日本銀行が目指すのは日本経済が成長し,企業が収益を上げ,賃金も上がり,緩やかな物価上昇が起こっても,国民の皆様の生活水準が維持され,向上する前向きな経済の好循環を実現することです。最大限努力をしますのでよろしくお願いしたいと思います。
(スライドとともに)