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2022年12月16日(金)第4,860回 例会

倫理としてのCSR から戦略としてのESG へ。

河 口  真理子 氏

立教大学 特任教授
不二製油グループ本社(株) CEO補佐
河 口  真理子 

立教大学特任教授,不二製油グループ本社CEO補佐。一橋大学大学院修士課程修了(環境経済専攻)。20年以上大和総研にてサステナビリティの諸課題について,企業の立場(CSR),投資家の立場(ESG投資),生活者の立場(絵然る消費)の分野で調査研究,提言活動に携わる。
中央環境審議会臨時委員,WWFジャパン理事なども務める。著書は「SDGsで『変わる経済』と『新たな暮らし』」)他。

 私は投資家と企業を結ぶというお仕事をしてまいりまして,企業さん向けにはCSRの話をずっとしてまいりましたし,投資家さんにはCSRを評価する,今ではESG投資と言いますけれども,当時はSRI(社会的責任投資)を紹介するというお仕事をやってまいりました。さらに消費者が買わなければ結局業績につながらず,投資家は評価できないということで,生活者の立場で消費から変えていくという調査研究をしております。

「価値」の大変革が始まった

 2015年から「価値」の大変革が現れ始めました。企業価値と言うと,皆さん安易に時価総額とか,国の価値だとGDPとか持ってきて,それだけですかということですよね。計算できないものがあったわけですが,忘れていた。生産,消費,利益を拡大していけば,皆さんの満足度も大きくなるであろうという前提だったんですけど,有害化学物質,農薬の問題,気候変動問題,水質の問題,生物多様性の破壊とかいろいろと問題が生じた。非財務的な価値を捨ててきてしまったので,それがたまってきたということなんです。これはまずいと。非財務的な価値は計算できないから後回しにしていたのが逆襲してきた。
 非財務的な価値というものをもう一回自分たちの経済の中に入れ込む活動の一つが’15年のパリ協定の気候変動に関する枠組みのルールづくりですし,’15年から始まったSDGsではないかなと思っています。気候変動の話ですとか,生物多様性とか,人権というものを投資の評価の中に入れ,企業行動の中に価値として認めていこうという動きが起きているんです。今の岸田政権でも,「新しい資本主義」とか,ステークホルダー資本主義とか,価値でなかったものをいかに価値として評価できる社会をつくるかと。
 アメリカはご存じのとおり株主資本主義社会,企業の目的は,一義的に株主のためと定義をしていました。2019年に大きく変えているんです。企業というのは以下のステークフォルダーにコミットする。まずお客様(顧客),それから従業員に投資をする,サプライヤーと公正な取引をする,事業を行う地域社会をサポートする,地域の人々と環境を尊重し,サステナブルなビジネスを行う,そして株主に長期的な企業価値を提供する。最もその株主資本主義が進んでいるアメリカでこんな問題提起をしているわけです。
 投資家もこの認識を共有するようになってきています。日本でも動きが出ておりまして,一つは,「日本版スチュワードシップ・コード」というのが’14年にできています。これは大手の投資家さん向けに企業の成長を促すように長期的に関わって対話をしなさいと。’15年には東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」という上場企業に向けたルールを作っているんですが,「機関投資家はサステナビリティに関しての話題を経営者と対話をしなければいけない」ということを言っているという状況にあります。

背景に地球環境の悪化

 われわれを取り巻く「地球環境」の状況というのがかなり悪化している。自然災害が急増していまして,非常に危機的ではないかなと。気候変動だけではなくて,「水」の問題というのも非常に重要になる。世界的に見ると水不足で,多くの紛争が起きるとも言われています。さらに,コロナによって最貧層が直撃された。世界の不平等さというのが非常にコロナによって広がっている。さらにSDGsのゴール2「飢餓をゼロへ」は,さらに危機的状況へということです。’30年までに飢餓をゼロへと言っているんですが,コロナによって飢餓の人口比率というのが’19年の8~9.8%に残念ながら増えてしまっています。
 だからこそ’15年から変化があって人権に対する意識をもっと高めていこう,環境問題への取り組みをもっと真剣にやる,それを包括してSDGsは出てきたということになります。多くの企業の現場では,経営の中で取り組んでいくという会社が増え,企業価値を向上させると見られています。後押しするのが投資家です。ESGというのは環境(E),社会(S),ガバナンス(G)の頭文字をとったものですが,財務内容だけではなくて,その会社の環境の取り組み,社会的な取り組み,ガバナンスの状況,これを加味した投資をするというのが増えていて,PRIというESG投資をやると宣言する投資家は5千を超えています。

ESG投資市場も拡大

 日本国内のESG投資市場も今や500兆円規模になっています。今までは企業は投資家さんにたくさん戻そうみたいな話だったのが,従業員とか,環境だとか,地域だとかにきちっと戻して,さらに利益も上げる。人権侵害して,環境破壊して利益付け替えてるだけじゃない,そんな会社長続きしないから投資しない,と投資家が言い始めている。投資家も自分たちの運用先が環境を破壊していないと言わなきゃいけないという時代になっています。
 最後に弊社の取り組みを若干お話しさせていただきます。弊社は大豆ミートですとか豆乳バターとかチョコレートとか植物性油脂を提供しているBtoBの会社です。実はそれぞれが強制労働,児童労働,農家の貧困,生物多様性の損失,森林破壊とかに結びついていると言われている業界なんですけど,弊社は,CDPという投資家の評価の中で,世界1万2,000社中のたったの14社に選ばれる取り組みもやっております。
 最後に,「来所を知る」―われわれが生きて毎日ご飯を食べられるのは,お百姓さんとか漁師さんのお陰だと,太陽のお陰だということを知って感謝して,日々の経済活動を送っていただければと思います。
(スライドとともに)