大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2022年12月9日(金)第4,859回 例会

ジェンダー平等が組織に必要ないくつもの理由

谷 口  真由美 氏

文化人・法学者
大阪芸術大学 客員准教授
谷 口  真由美 

大阪芸術大学客員准教授,佐賀女子短期大学客員教授,一般社団法人 部落解放・人権研究所 理事,一般社団法人 アザレアスポーツクラブ 理事,NPO法人 D4P理事,国際人権法学会 理事,ジェンダー法学会 理事,朝日放送テレビ 番組審議会 委員,NewsPicks+d公式コメンテーター,(株)富士ロジテック ハラスメント対策コンサルタント。過去には,大阪大学非常勤講師(2005~’21),大阪国際大学准教授(’04~’19),(公財)日本ラグビーフットボール協会理事(’19~’21)を務めた。

 「今日は言いたいことをおっしゃってください」と言われたのですが,本当に言うと嫌われそうな気がするので控え目に。大阪の都島区で生まれ,6歳から16歳まで花園ラグビー場に住んでいました。父が近鉄(ラグビーの現「花園近鉄ライナーズ」)の選手からコーチになり,母がラグビー部の寮母をしていたので,ラグビー場のメインスタンド下にある寮に住んでいたのです。男性に囲まれて育ち,実は男性の中にいても何ともありません。

「わきまえない女」は私

 近著の『おっさんの掟』(小学館刊)の副題は「『大阪のおばちゃん』が見た日本ラグビー協会『失敗の本質』」。これを暴露本と捉えると違います。私が言う「おっさん」は,「おっさんOS」,「おっさん化した組織」のような意味で,老若男女を問いません。昔は「『ありがとう』と『おめでとう』と『ごめんなさい』が言えない人です」と言っていました。
 本を執筆した背景ですが,去年,森喜朗さんから「わきまえない女」と言われました。私です,This is meです。森さんが日本オリンピック委員会の臨時評議員会で「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」とおっしゃった件です。国際基準では許されず,森さんは会長辞任に追いやられましたが,「そんなに悪いことは言っていないし,実際,女の人が入った会議は長くなる」と言う方がいらっしゃる。「倍の時間がかかる」ということ自体がウソだったので,私自身は当時,「倍はかかってません」としか言えませんでした。
 私はコンサルタントを依頼されることも多く,いろんな現場で働く方の話を聞くと,「経営陣に説明するのが一番難しい」と。外に向けてやった方がいいことがあると分かっていても,組織内でなかなか理解してもらえないと思っている様子なんです。それが「おっさんの組織」。硬直化し,ヒエラルキーの中で自由闊達な意見が出なくなっているのです。
 本日のタイトルにさせていただいた「ジェンダー平等が組織に必要な理由」の「その1」は,「(ずっと前から)世界の潮流だから」。女性活躍推進とジェンダー平等は本質的に異なります。「活躍させてあげるけど,同じ目線に来てもらっては困る」といった言い方を例示すれば,違いを認識いただけるかと思います。

人類は「男と女」で二分されない

 ジェンダーに関してよく説明されるのは,「男は男らしく,女は女らしく」という話。自分らしく生きたいと思っても,「男と女」というフィルターが入ると,一気に人の属性が世界で二分される。人類を4種類に分ける血液型占いでも疑問だというのに,男と女の二分で世の中は進まない。要は性による差別をしてはならないということで,それは自分がどんな性別を選びたいと思うかも含みます。
 ビジネスの場でジェンダー平等を理解するためのキーワードがいくつかあります。1948年に国際連合が採択した世界人権宣言は「性による差別をしてはならない」と明記し,’85年に日本は女性差別撤廃条約に入っています。この時に男女雇用機会均等法が整備されました。「国連グローバル・コンパクト」という枠組みは,差別をしないと宣言した企業が名を連ねています。2006年に採択された「責任投資原則」は,企業の分析や評価を行う上で「ESG(環境,社会,ガバナンス)」を考慮した投資行動を投資家に求めるもの。それまで「CSR(企業の社会的責任)」と言っていたものが,ESGという文脈に置き換わりました。
 ’10年の「女性のエンパワーメント原則(WEPs)」は,企業がジェンダー平等と女性のエンパワーメントを経営に取り入れるというもの。WEPsの署名企業の株価が上がっている傾向もデータとしてあります。同じ’10年に「30%クラブ」ができます。英国で創設された,役員に占める女性割合の向上を通して企業の持続的成長の実現を目的とする世界的キャンペーンです。30%は「クリティカル・マス」と言われ,これを超えないと少数者が多数者の中で認識されない割合,数字です。これらは全て投資の話なんです。金融の話だと,「ジェンダーギャップ指数」がよく使われます。その国がいかに投資に適しているかを示す数値で,日本は今年,146ヵ国中116位。去年は120位だったのですが,調べる対象が10ヵ国減ったので実質,下がっています。

ジェンダー平等は投資の基準

 理由の「その2」。企業のジェンダー平等に対する欧米の投資家の視線は厳しいのです。東証1部上場904社の分析では,女性役員の割合が多い企業には利益を出している企業が多い。衝撃的なデータが,オランダのシンクタンクが出す「ジェンダー平等グローバル企業ランキング」。ジェンダー平等に取り組む1,000社のランキングで上位10社に日本企業は1社もない。1,000社中では10社だけで,一番上が208位の武田薬品工業。何を意味するか。日本の企業はジェンダー平等をやる気がないと見られているということです。
 理由の「その3」。「D&I(Diversity and Inclusion=多様性と包摂)」は常識となってその時代は終わりつつあり,もはや(「Equity(公平/衡平)」を加えた)「DE&I」の時代なんです。「Equality」は,(塀越しに試合を見るための)台を皆に同じ数与えることを「平等」と呼ぶ。「Equity」は皆が見えるようにすることで,台が1つでいい人,2つ積み重ねる人,台が要らない人がいる。障害者の権利条約で言う「合理的配慮」と同じです。「その4」は人権問題だから必要と。意外にヒューマンライツ(人権)は理解されていません。人権は思いやりや優しさといった問題ではない。思いやりのある人,優しい人でも差別をします。
 ジェンダー平等と企業のブランディングで見ていただきたいのが,ウイスキーのJ&Bがこのクリスマスに出した映像。多くの方を勇気づけていると聞きます。DE&Iやジェンダー平等が,誰かの人生に大きく役に立つことになるのです。
(スライド・映像とともに)