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2022年11月25日(金)第4,857回 例会

関西におけるDXの現状

森 下  俊 三 君(高速道路管理)

会 員 森 下  俊 三  (高速道路管理)

1945年生まれ。’70年名古屋大学大学院工学研究科修士課程修了。同年電電公社(現NTT)入社,2002年NTT東日本代表取締役副社長,’04年NTT西日本代表取締役社長,’09~’18年大阪府公安委員会委員,’07~’11年在大阪トルコ共和国名誉総領事,’12~’20年阪神高速道路(株)取締役会長,’11年(一財)関西情報センター会長,現在に至る。’07年9月当クラブ入会。
’18~’19年度会長。米山功労者,PHF(M2)。

 コロナ禍になり,この3年でビジネスの環境が全く変わってきました。一番はリモートワークの定着。その中での大きな関心事が,サイバーセキュリティとDXです。サイバーセキュリティについては,私が預かっています関西情報センターでもエンジニアを育てる取り組みをしています。非常に関心が高く,今年度のリレー講座の受講生は600人近く。講座はリモート開催しているのですが,コロナ禍前はネットを使っておらず,地元・近畿圏の参加者のみで200~300人でした。

幅広いデータの活用で会社を変革

 もう1つの動きがDX。「デジタルトランスフォーメーション」と言わなくても,そのまま使われ,皆さんもご存じと思いますが,いろんな定義があります。経済産業省が「DX推進ガイドライン」を出しており,データとデジタル技術を活用することで自社の製品やサービス,ビジネスモデルを変革するとともに,業務や組織,プロセス,企業文化・風土を変えることで競争上の優位性を確立させる,と。幅広くデータを使って業務を改善し,会社を変えていこうという動きのことです。
 関西情報センターが関東と近畿の企業を対象にアンケート調査したデータがつい最近公開されました。「会社全体としてデジタル活用・DXに取り組んでいる」企業が関東は約5割,近畿で約4割。関東は回答企業に大企業が多く,近畿は中堅・中小が多いので,その差と考えていますが,まだ4割ぐらい。「部門,組織ごとに進めている」「必要に応じ,デジタル化を図っている」を含め,約9割が何らかの形で取り組んでいることになります。

本来の目的達成は1割未満

 結果はどうか。成果を実感しているのは16.1%で,58.9%の企業が「成果を生み出しつつある」としています。もう少し中身を見ると(複数回答)「業務のスピードアップにつながった」が約6割,「業務の効率化を実現し,経費削減につながった」が約5割。業務効率の向上は,生産性の向上も含め半分ぐらいの企業が実感しています。「ビジネスモデルの変革を通して,新ビジネス・サービスの創出につながった」は8.9%。DX本来の目的である新しいビジネスモデルの創出や新サービスの展開に至った企業は1割に達していません。
 皆さんの関心は,やはり人材の問題。人的リソースの不足が62.1%,従業員のITリテラシー不足が57.3%。約6割の企業が会社,組織の中に人材がおらず,何とかしないといけないと思っているということです。また,「具体的な推進のビジョンが描けていない」が37.9%。どんな変革を目指すかは本来,企業としてビジョンを作らないといけませんが,企業はそれ以前のところにいるのです。
 人材に求めるスキルでは,「ビジネス・デジタル技術両面への理解」。ビジネスのプロセスのどこでどういう技術が使えるのかを理解していないと,いくらAIやデータ処理の技術を知っていても使えません。求められるもう1つのスキルは,「他部門との連携・橋渡しができるコミュニケーション能力」。特に中小企業は,専門的な分野は分かるが,全体がなかなか把握できていない。どうやってこの人材を育てていくかは大きな課題です。
 自社の位置付けとして,「組織横断/全体の業務・製造プロセスのデジタル化,〝顧客起点の価値創出〟のための事業やビジネスモデルの変革」の段階にまで至ると本当に変革が可能になります。それ以前の段階として「個別の業務・製造プロセスのデジタル化」,一番の元となる「アナログ・物理データのデジタルデータ化」があります。この3段階で,自分の会社が今どのポジションにいるのかがなかなか把握できない。中小企業の場合はどうしても部門,部門の専門家が中心なので,全体を通して分析できる人がいません。また,「とにかくいいモノを造ればいい」と言う方が結構いらっしゃる。しかし,思った以上の速度で環境は変わるので,いいモノを造ればそれで大丈夫というわけではありません。

中堅・中小企業でも実践は可能

 経済産業省が実践の手引きを作っており,具体的な事例が3つ出ています。三重県伊勢市で150年続く「ゑびや」という飲食店は,天気や売り上げといったデータを7年かけて地道にパソコンに蓄積し,AIによる来客数の予測ツールを開発しました。客単価が上がり,売り上げ,利益も上がりました。地道にやれば食堂でも効果が出るという事例です。
 2つ目は,福島県喜多方市の精密機械部品加工「マツモトプレシジョン」。地域の産学官が連携して開発したシステムプラットフォームを使い,自分の業務を合わせる形で取り組んでいる。会社に積極的に人材を入れなくてもやれるという事例です。もう1つは熊本市の運送事業・機械器具設置工事の「ヒサノ」。経営者が専門家にいろいろ教えてもらい,5年後のビジョンを考えて改革に着手しています。紙媒体で管理していた配車等のプロセスをクラウドシステムでの運用に切り替え,各業務システムとデータを連携して会社全体で業務を適正化した。中小企業にとってDXは難しいとの印象がありますが決してそうではなく,取り組めば皆さんもできます。
 関西情報センターでもセミナーを開いていますし,最近増えたのが出前講座。精通している大学の先生や企業の方々にも入っていただき,セミナーや講座の計画を作るなどしてもらっています。事業の再構築ができる人材を育てるワークショップも行い,関西での取り組みを集めた事例集も作っています。
 DXは非常に幅が広く,「こういうパターンだけやればいい」とはならない。多くの企業が「やって良かった」というところまでいっていないのが実情です。何とかこの1~2年で関西でのDXの取り組みを広げていきたい。センターの調査の詳しい分析は「e-kansaiレポート2022」に出ていますので,見ていただきたいと思います。
(スライドとともに)