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2022年10月7日(金)第4,851回 例会

人工知能の課題と台湾の大学事情

陳   彦 君 氏

2022学年度米山奨学生 陳   彦 君 

2001年台湾台中市生まれ。台湾での高校を卒業後,大阪教育大学に入学。現在,大阪教育大学教育協働学科理数情報専攻数理情報コース学部生3回生。日本留学のチャンスを手にしたいま,大学院進学を目指している。
2660地区米山記念奨学生として’22年4月~’24年3月末当クラブ受入れ。

 皆さん,こんにちは。今年より米山奨学生としてお世話になっています大阪教育大学の陳 彦君です。本日は,私が大学で研究している人工知能の課題と故郷である台湾の大学の現状についてお話しさせていただきます。

「AIは万能」は誤解

 皆さんが初めて「人工知能(AI)」という言葉を聞いた時,どんなイメージを持たれましたか。ものすごいもの,人類を超えるもの,一般人には理解できないもの。それはそれでよくて,そう考えるのが普通です。
 従来のコンピューターは2つの選択肢ごとに比較しないといけませんでしたが,AIは複数の選択肢を同時に考え,評価できるのが大きなメリットです。でも,AIは本当に万能なのか。何でもできるというのは,誤解される言い方だと思います。実は1つのAIにできることはかなり制限されています。世界的に有名な囲碁のAI,「AlphaGo」。実際にプレーして置くのは人で,計算のみをAIがします。スマートフォンのアシスタントの「Siri」は言葉を話すことを専門としたAIですので,小学生の算数の問題を聞いても解けません。
 AIは人を超えられるのか。例えば,「Siri」は13年ほどの時間をかけて,ようやく少しましな会話ができるようになりました。けれど,同じ13年を過ごした人間は既に中学生。この差は大違いです。AIの開発には時間がかかりますが,成功すれば一度に量産でき,品質が保証されます。そういう点では,AIは人より優位ではないかと。しかし,量産というのは差別化ができない,進化が止まっていることになります。これは,研究者,科学者として最悪なことです。必ずまた新しいAIを開発する必要が出てきます。
 そうするとAIは進化しますが,人間にも同じ学習能力があります。AIがよりよい思考方法や戦略を考え出した時,人間がまたそれを学べばいいわけです。私個人の見解では,AIが人を超える状況が生まれるのは,人が自ら進化を諦めた時のみだと強く思います。
 AIは悪用される可能性があるのか,AIに悪い意志ができたらどうなるのか。これについては残念ながら可能性は十分にあると言えます。どうしてかというと,人がなぜ犯罪をしてしまうのかというのと同じことです。
 紹介したいのが,サッカーのAI。グーグルが行っていた計画です。初期の段階では,AIにはルールのみ,ゴールを目指してシュートし,ボールが入れば点数が増えるという設定しか教えていません。ほとんどずっとゴールキーパーに阻止されてしまいます。次に本番の試合データを学習させると,左右にフェイクをかけたり,走るスピードを変えたり,チームメートを使ってボールを回したり。そういうテクニックを学習したのです。人間のプレーヤーが入ったことで,AIはトリックやフェイントを覚えてしまう。この時,AIはまだ正しい道を歩んでいるといえるでしょうか。
 サッカーの規則ではフェイクをかけるのは全く問題ないですが,このAIはもう,相手をだますことを覚え込んでいます。子どもがやってはいけないことを覚えるのも人間社会から学んだ結果で,AIも人から学習するのです。全人類から犯罪をはじめ悪いことをなくさない限り,AIに悪い雑念を生み出させないようにするのは難しいといえます。まず人間が平和を思い,よりよき社会にしていくことを考えながら,AIに代表されるような技術の開発を進めていかねばならない。いつの時代でも「人」がテーマになると思います。

台湾で増え続ける「大卒」

 2つ目のテーマ,台湾の大学事情です。実は台湾の大学入試の合格率は2022年度のデータによると99%。大学卒業以上が総人口の約25%,4分の1の人が大学卒業の学歴を持っている計算です。台湾では’00年ごろから大学の設立を増やそうという計画があり,20年間で69校増えました。総合大学が57校から126校になり,大学院大学が11校,専門学校が12校。これは単純に大学が増えたということではなく,かなりの数の専門学校が大学に昇格したのです。その問題として,実際は大学レベルの教育プログラムがなくても名前は「大学」であるため,大学卒業といっても能力が見合っていないということがよくあるのです。大量の大学がある状況で,私は正直,台湾では大学へ行く夢はなくなりました。
 大学卒業の人口が増えたことで,学歴の価値も段々,下がっているようです。大学生のレベルが昔の高校卒業レベルぐらいという評価もあります。それゆえ,ほとんどの民間企業は上位8位までの国立大学やレベルの高い理科系の学生しか採用しない傾向になり,普通の大学を卒業しても労働条件のいい会社に就職できない状況が起きています。若者の思考も変わり,工場の仕事はしたくないとか,現場のつらい仕事はしたくないとか,そういう考えが徐々に広がったのです。留学を考える人も減っており,台湾留学生の競争力が弱くなったと判断できるかと思います。

日本留学で世界に貢献したい

 私はなぜ日本に留学したのか。望みの1つ目は世界の平和です。日本に留学して国際人になり,将来日本と台湾の懸け橋として働きたいと思います。2つ目が未来への準備。近年は子どもの数も少なくなり,労働力不足の問題もあります。AIの開発が欠かせない時代がもう近くにきていると思います。人間でなくてもできる仕事はAIに任せる,AIは人間の役に立つように生まれてくるべきです。
 AIを信用できるものにするには,開発する人間が高い知識や技術を持つだけでなく,人柄や道徳観も求められなければなりません。私もAI開発を勉強する人間として,自分の人格を振り返りながら生きているつもりです。私はたくさんの応援を受けて日本の大学で勉強できることになりました。運良く大阪RCのお世話をいただき感謝しています。優秀な次世代のIT技術者を目指し,将来世界に貢献できる人間になるように一生懸命頑張ることをお誓いします。
(スライド・動画とともに)