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2023年9月22日(金)第4,894回 例会

真のグローバル企業への歩み

森    重 樹 氏

日本板硝子株式会社
執行役会長
森    重 樹 

1958年 神戸生まれ。’81年神戸大学法学部卒業,同年日本板硝子(株)入社。2010年 同社 建築ガラス事業部門 英国・南欧製造・加工・販売部門長(英国駐在)。’12年同社 上席執行役員 高機能ガラス事業部門長,’15年 同社 取締役代表執行役員社長兼CEO,’23年 現職。

 今日のテーマ「真のグローバル企業への歩み」ですが,2006年にイギリスのガラス会社,ピルキントンを買収しました。これは「小が大を呑む」で,売上高,人員構成で倍の会社を買収したのです。それから17年がたちますが,今日は失敗談も含めて苦労話をし,少しでも参考にしていただければと思います。

「小が大を呑む」買収

 グループの概要ですが,昨年度実績で売上高約7,600億円。売上の二本柱が建築用のガラスと自動車用のガラスです。地域別売上高は40%がヨーロッパ。それから北米が22%,日本が21%。それに南米,アジアです。製造拠点は29ヵ国,販売拠点は130ヵ国に展開しています。従業員は約2万5,000人で,構成は47%がヨーロッパ,日本と北米が17%ずつ,それから南米,アジアです。
 日本板硝子の会社設立は1918年で,105年がたちました。日本経済の発展とともに拡大し,’60年代以降は海外にも出ましたが,限られた展開で,メキシコ,マレーシア,アメリカ,ベトナムぐらいでした。
 一方,ピルキントンは歴史の長い会社で,1826年にイギリスでガラス業を始めました。同社は,非常に大きな面積で,フラットで,しかも低コストのガラスができるという画期的な技術「フロートガラス製法」を発明しました。日本板硝子もすぐにピルキントンからこの製法を導入しました。
 ピルキントンはこの技術で非常にもうけて,各国のガラスメーカーを順次買収して大きくなり,グローバルな企業になって,最終的に2006年に日本板硝子の傘下に入りました。
 「小が大を呑む買収」と言いましたが,買収前のピルキントンの売上高は日本板硝子の倍。従業員数も1万2,000人に対して2万3,000人でした。業界の世界マーケットシェアでは,日本板硝子は4%でランキング6位ぐらい,ピルキントンは11%で,これが一緒になってシェア15%となり,トップ3に入りました。

グループガバナンスの構築

 当時の経営陣はなぜこの買収をしたのか。想像も入っていますが,日本国内のマーケットに頼っていたのでは成長しない,という危機感があったのだと思います。それから,やっぱりグローバルに出ていきたいという気持ちがあったのでしょう。
 一方,懸念もありました。ほとんどドメスティックでやってきた日本板硝子にグローバル経営ができるのか,ということです。人がいないじゃないかと。これが一番の大きな懸念でした。また,調達した買収費用の返済や,統合プロセスにも時間をかけられない,ということもありました。
 そうした中でスタートしましたが,最初にガバナンスの構築,大きなフレームワークを作っていきました。中身の一つは統合運営で,日本板硝子の執行組織をピルキントンの組織にそのまま当てはめました。管理システムもそうですし,人事制度もピルキントンに合わせました。言語も,外国人が1人でも入っていると会話は英語です。公用語は英語になりました。
 CEOはピルキントン側から任命しました。我々にとっては「買収したと言いながら,実際には買収されたのと一緒」という感じもありました。
 スタートしてしばらくすると,いろいろ問題が出てきました。
 一つはリーマンショックです。また,ヨーロッパではソブリンリスクという信用危機が起こりました。売上の3割ぐらいがなくなり,収益力が大幅に低下して赤字になりました。リストラで9,000人を削減し,その費用もかかりました。このため業績の立て直しを急がないといけなくなり,買収後の統合プロセスが中途半端に終わりました。
 それからトップの交代です。最初にCEO社長になったのはピルキントンの人物ですが,1年ほどで退任。その後に外国人の社長を招聘しましたが,この人も2年で退任しました。その次に,日本板硝子の生え抜きをCEO社長に,ピルキントン出身の人をCOOとCFOとして支える「トロイカ体制」としましたが,これも3年ぐらいで終了しました。

グルーバル経営に必要なこと

 その後に私が社長に就きました。もう一回やり直そうといろいろ考え,進めてきました。
 まずは長期戦略ビジョンの再定義です。買収当初はスケールメリットが主眼にありましたが,これからは付加価値重視だということで「VAガラスカンパニー」を掲げました。VAは「Value added」です。
 次にガバナンス。日本とヨーロッパで2トップとなるのはまずいな,ということでCOOは廃止。最終的にCEOのワントップの体制に持っていきました。それから「経営の見える化」を行い,経営理念も見直しました。2018年に創立100周年を迎えたので,それを契機に,1年かけて,従業員も議論に参加させ,価値の共有化を図りました。
 意識や考え方を統合しないと一体化ができないと考え,インターナルコミュニケーションも強化しました。社内報を年3回は世界共通版とし,18ヵ国語に翻訳したものを出しています。年に10~11回,1週間ずつ事業所を訪問し,ミーティングもしていきました。「CEOアワード」という表彰は,業績貢献だけではないものも表彰しようと,お金は出しませんでしたがトロフィーで表彰し,非常に喜ばれました。「Your Voice(傾聴)」は,従業員から声を集め,ちょっと弱いところはどこだ,不満はどこにあるのだ,をあぶり出し,対話をしていく活動です。社長の8年間,このあたりに相当のエネルギーを使いました。
 私の経験から,グローバル経営に必要なことは,①戦略意図の明確化と組織内の共有化②ガバナンスは目的志向で③経営の見える化(モニタリング)④従業員を大事にする⑤経営のリーダーシップ⑥経営の意識の統合,だと考えます。
 今後取り組まないといけないこともあります。一つは人材の多様化。Diversity, Equity and Inclusion,「DE&I」です。それから,新興国やこれから伸びる地域の人材登用。さらに,日本のリーダーを育てないといけない。日本のグローバル人材育成が,非常に大きなテーマだと思っています。
(スライドとともに)