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2022年9月16日(金)第4,849回 例会

コロナ対応を検証する

堀   正 二 氏

会 員 堀   正 二 

1945年生まれ。’70年大阪大学医学部卒業。医博。’96年大阪大学医学部第一内科教授。2005年臓器別編成にて,循環器内科学初代教授。’08年大阪府立成人病センター総長。現在,大阪国際がんセンター名誉総長。日本心不全学会理事長,国際心臓研究学会(ISHR)理事長,国立循環器病研究センター理事歴任。(公社)大阪ハートクラブ代表理事・会長。’04年当クラブ入会。’08年健康を守る会委員長等を歴任。
’20年会長。米山功労者(M2),PHF(M)。

 「会長の話と100年前のマスク」という小冊子を配らせていだだきました。100年ぐらい後に「コロナの時はこうだったんだな」というのを少し味わっていただけるのではと思い,印刷していただきました。最初に逃げ口上ではいけないのですが,検証など絶対にできない。それを「検証する」というタイトルでお話しすることをまず,お詫びいたします。

歴史の中での感染症

 最初にパンデミックの大きな流れを理解いただきたいと思います。(スライドの)左から,黒死病(ペスト),天然痘,第一次世界大戦,スペイン風邪,第二次大戦,エイズ,新型コロナと書いてあります。世界で一番死者が多かったのは第二次大戦で,6,000万~8,600万人が亡くなりました。今回のコロナの死者数は世界で現在,650万人。歴史の中でみると,そこまで大きいものではありません。
 疫病といわれる感染症ですが,日本で最初の大きなものは(奈良時代の)天然痘です。朝鮮半島の新羅に「遣新羅使」という使者を出しており,向こうで天然痘をもらって北九州で蔓延した。彼らは人が移動すると天然痘が広がることを知っていて,すぐに奈良に帰らず北九州にとどまっていました。2年後に遣新羅使が平城京に報告に上がって流行し,人口の30%が死亡したと推定されています。
 その後,豊臣秀頼の頃に梅毒がはやった。大名が次々と梅毒で亡くなり,これが徳川家康の大坂城攻めにつながったといわれています。1899年にはペストが日本に入っています。ペストはいまだにワクチンがない。だから今も細菌兵器として使われます。今回のコロナに一番近いのはスペイン風邪。それから100年たった今,コロナ感染症が起こっているという位置付けです。
 ペストは14~15世紀の欧州で大流行し,人口の3分の1の3,500万人が死亡したといわれれます。1899年に日本に持ち込まれた時に北里柴三郎博士が「ネズミの駆除が一番大事」と指摘して根絶に成功し,幸運にも大きな広がりはなかった。スペイン風邪は大きく3つの波が来て2年続き,3,000万~5,000万人が亡くなりました。その時の教訓が,「人の集会,移動が感染を拡大させる」。だから動くな,と。これでロックダウンが定着したのです。

誰も「正解」を言えない

 「Net Clinico-Social Benefit」。コロナによる健康被害と,実体経済を回すということが,まさに天秤にかけてどちらをどの程度優先したらいいのか,どこに正解があるのかは誰も言えないんです。感染症対策の目標は,死者を減らすのか,重症者を減らすのか,医療がひっ迫・崩壊しなければいいのか。厚労省も「これを目的にしてくれ」というのは出さない。政府も,我々も言えない。だから絶対に検証はできない。社会経済の目標の方は,GDPの下落に歯止めをかけるのか,消費活動の低下を抑制するのか,人の行動・移動制限の解除・緩和が目的なのか。社会経済の専門家は何も言ってくれない。従って,基本的に検証はできないというのが私の結論です。
 保健学的被害の推定は可能でしょうか。死者数といっても,本当にコロナで死んだかどうかは誰にも分かりません。そのため,「超過死亡数」という指標があります。パンデミック前の数年間の死者数とパンデミック後の死者数の差です。コロナの拡大で一般診療ができず他の病気で亡くなるといったコロナ関連死もカウントでき,比較がしやすいのです。日本は今,感染者が約2,000万人で,死者は4万人。米国は総人口比で日本の2.5倍,英国は日本の半分ですが,人口当たりの死者は米国が日本の10倍,英国も10倍。超過死亡数で見ても米国も欧州も大体,日本の10倍の人が亡くなられている。GDPはどうか。全体的にGDPだけで見ると,(他国と比べ)まずいことになっているように見えません。

二歩先でなく一歩先を読む

 今まで拡大防止策として何をしてきたか。最初は水際対策。「elimination(根絶)」といいますが,これに失敗し,次に被害をできるだけ抑える「mitigation(軽減)」というフェーズに入りました。感染者をピックアップし,軽症の場合にはホテルに隔離・収容,重症になれば病院に入ってもらう。国は専門家会議を立ち上げ,医療体制を整備する。公的な措置として特措法,緊急事態宣言を出し,国民の行動を変容させ,同時にワクチン,治療薬の開発を,世界を挙げて進めたのです。
 病院では感染者とそれ以外の患者を分ける「隔離」が大事になるのですが,病院内は初めから隔離病棟ではなく,週単位で数が変わる感染者に対応できませんでした。医療体制の不備については,英国は全て国立だから政府の指示ですぐに動くと皆さん言う。しかし,英国では日本の10倍の人が亡くなっており,国営だからといって全然うまくいっていません。一番困ったのは,保健所がパンクしたこと。保健所は1997年に「無駄だ」と数が大幅に削減され,そこにコロナが来ました。検査もそう。日本はPCRが可能な装備をそれほど用意しておらず,増やすまで時間がかかりました。「HER-SYS」という(感染者情報の)登録・入力システムも100項目ぐらいを入力せねばならず,入力だけで夜中までということになった。これらは全部,反省事項です。
 感染拡大のフェーズによって対策の目的は変わります。結論は予測制御。一歩先を読むことが大切で,二歩先を読むと無駄が多くなります。一歩先を読んで予兆を見つけ,クイックに反応すべしというのが基本で,一番大事です。小冊子に書いてあるのですが,私が会長を引き受ける時にパンデミックが起こると考えていなかったので,(予測としては)「×(外れ)」です。「休会の決定方法を決めておくべき」と言って臨時理事会を開いてもらったので,これは「○(当たり)」。こうして「○×」を付けると,当たったのは(「△」判定の1項目を除いた12項目のうちの)50%。予測は極めて難しいのです。
(スライドとともに)