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2022年7月22日(金)第4,842回 例会

日韓関係を見る視点

新 井    裕 君(新聞)

会 員 新 井    裕  (新聞)

1961年群馬県桐生市生。’85年早稲田大学政治経済学部 政治学科卒業。同年日本経済新聞社入社 大阪本社編集局経済部。’89年韓国延世大学留学,’90年大阪本社経済部,’91年ソウル特派員,’97年阪神支局長,2003年長崎支局 長,’06年東京本社,編集局産業部の数々の役職を経て,’16年東京本社 監査役室長,’19年常務執行役員名古屋支社代表,’21年大阪本社代表,現在に至る。当クラブ入会21年5月。

 急遽卓話をやることになりました。まず最初に,日韓関係ということになるとやはり歴史観が必要なものですから,戦後の日韓関係を振り返ってみます。1965年に日韓基本条約ができるまでは相当厳しい交渉がありました。両国間の請求権,これは今話題になっている徴用工等も含めて,請求権の完全かつ最終的な解決を訴えました。合計で民間の融資も含めて8億ドルという巨額の資金が韓国に行くことになっています。その後,韓国は経済発展を遂げるわけですが,その後1970年代に入ると金大中(キム・デジュン)事件が起きて,また日韓関係が悪化。私がいた90年代もやはり従軍慰安婦問題が出てきて,その後,1998年には小渕首相と当時の金大中大統領が日韓共同宣言を発表して,このころは非常に日韓関係,いい感じでありました。ですが,2010年代に入りますと,従軍慰安婦問題が再燃しまして,2015年には当時の安倍首相は改めて反省の気持ちを表明,きちんと謝っているということでございます。その後,2017年,文在寅(ムン・ジェイン)政権が発足すると,この日韓合意の検証を開始するということで,2018年10月には元徴用工の判決,韓国の大法院(日本の最高裁)で,当時の新日鉄住金,今の日本製鉄に1人当たり約1,000万円の賠償金を払えという判決が出ました。日本政府は1965年の日韓請求権協定で解決済みとしてきたことに反する判決です。

繰り返される「不信」

 さらに,同じ年の11月には,2015年に決めた和解・癒し財団の解散を決定しました。これが日本側には大きな不信を生んだ。さらに2018年には,韓国の海軍艦艇が,自衛隊の哨戒機に火器管制レーダーを照射するという事件が起きました。2019年の7月,日本政府としては徴用工問題に対抗する措置のように見える半導体関連資材の輸出管理を強化するという措置をとりました。日韓関係は戦後最悪と言われるような状況になりました。
 長い目で見ると,日韓関係悪化には背景があります。もともと日韓基本条約というのは冷戦期に対共産連合という意味合いがありました。日韓の経済を比べると日本が非常に有利で,日本からの支援を受けて北朝鮮に対する韓国の国力を高める,そういう狙いがありました。一方,朝鮮半島周辺を見ると,韓国に遅れて中国が急成長し,現在韓国の輸出入を見ると,輸出も輸入も国別に見ると中国がトップです。中国の成長によって,韓国にとって日本の地位は低下します。それが日韓関係が悪化するマクロ的なバックグラウンドというふうに考えています。

変化してきた「反日」感情

 日韓関係を理解するうえで,韓国の反日感情についてお話しせざるを得ません。1990年代は,植民地支配を経験していた多数の方々が生きていらっしゃって,植民地時代にひどい扱いを受けたという方々はやはり強い反日感情を持っていらっしゃいました。でも仲良くなると,「お前は別だ」と言ってくれたりする人が多かったです。反日感情といっても複雑で,ゴツゴツしたイメージを持っていました。現在も反日感情は非常に強いんですけれど,植民地支配の実体験がなくて,しかも日韓の交流が非常に進んでいる今の世代,反日感情が少し違ってきている感覚を受けました。あまりゴツゴツしてない,何か広くて薄い反日感情,それが一気に広がる。過去の強い,芯のあるゴツゴツとした反日と,今の若い方の反日というのは変化してきていると思っています。

独特の「司法の正義」と政治状況

 もう一つ,韓国を見るうえで大事なのは,正義です。韓国の裁判官の正義感というのは,最近,過去の政権時代の判例はおかしかったのではないかという感覚があるように感じます。軍事政権時代には政権の都合のいい判決を出していました。それを反省する雰囲気が非常に出ていて,保守政権の間でも,実は下級審では,この徴用工等も含めて日本に賠償を求めるというような判決が出ていました。日韓基本条約,日韓請求権協定は,当然両国の国と国の約束,合意に基づく国際条約ですので,韓国政府,韓国の司法当局もそれに従わなければならない。しかし司法も世論の動きに流されやすい。ルールがあっても,国民感情に合わなければ乗り越えればいいという考え方でしょうか。日本と少し違うという感じがします。
 韓国の政治状況を見ると,韓国の保守とリベラルは主張が大きく異なっておりまして,政権交代によって,振り子が大きく振れるというのも,これが背景にあります。新しい政権が誕生しましたが,お話ししたように前政権から転換しています。日本との関係にも意欲的です。少しずつですが関係改善の道を歩み出したというようにも見えます。

民主主義の仲間,関係の管理を

 日韓関係は,北朝鮮有事の際など安保を考えると極めて重要です。経済でも連携は極めて深くて,決して楽観はできません。中国の台頭,ロシアのウクライナ侵攻などで,民主主義と権威主義の対立が深まる中で,韓国はやはり民主主義陣営の仲間です。関係改善の重要性は高まっています。大事なのは,発想を一致,ぴったり寄り添って歩むということではなく主張の違いを理解して,日韓の関係をコントロールする。幅のある道をお互いに歩いていって,その道幅の中で歩いていけるように関係をコントロールするということだと思います。
 文化的には日韓非常に近いです。人的交流も復活すると思います。そうしたことをテコに,ぜひ日韓関係がいい方向に行っていただけたらと思っております。
(スライドとともに)