大阪ロータリークラブ

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2022年7月1日(金)第4,839回 例会

新年度を迎えて

上 山  直 英 君(医薬品工業)

会 長 上 山  直 英  (医薬品工業)

1951年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。’74年(株)三和銀行入行。’84年より大日本除虫菊(株)入社。’90年同社常務取締役。’99年代表取締役社長。2004年より在大阪セルビア・モンテネグロ共和国(現セルビア共和国)名誉総領事。1999年当クラブ入会。多数の副委員長・理事を歴任。2013年度幹事,’19年度国際奉仕委員長・理事。米山功労者。

 会社では,「君のプレゼンテーションは全然伝わらない」「5分で済む話を20分もするな」と言っているものですから,過去の言動を今,反省しております。大阪ロータリークラブの会員は現在230名で,毎年30~40名が転勤その他で入れ替わります。この2年,新しく入会された方がたくさんおられるのにもかかわらず実際にお会いできておりませんので,改めて自己紹介をさせていただきます。

若き日の映画と油絵

 私は大阪生まれの大阪育ちで,他の場所で暮らしたのは大学時代の東京での4年間だけです。中学は3年間,柔道部にいました。中・高は甲陽学院で,帰りが梅田経由だったため映画館に寄り道するようになり,そちらの方が面白くなりました。ゴダールやフェリーニなど欧州系の監督の映画をよく見ていましたが,およそ,その年齢では理解できないものを分かったつもりで見ていたと思います。1年浪人し慶應の商学部に入りましたが,1年目は学生運動で授業がほとんどありませんでした。下宿と大学の間に大学の美術部の部室があったので,一度も油絵を描いたことがなかったのに入部して,4年間,大学よりアトリエにいる時間の方が長くなりました。
 卒業後,三和銀行で10年勤めた後,今の会社に入りました。銀行では支店で行うほとんどの業務を経験し,今の会社でも工場から営業,資材,宣伝,情報システムとほとんどの部署を経験しました。いろいろと寄り道してきた気もしますが,自分に合う仕事を探すつもりではなく,知らないことは知りたいと思うし,初めての場所は一から勉強できるから,ある意味,気が楽だったのです。最初の思い込みが,実際にやってみてひっくり返される経験は好きです。
 私の会社は「大日本除虫菊」で,ブランド名「金鳥」です。除虫菊という花から蚊取線香を作って会社を始めたので,今も社名は大日本除虫菊にしております。今年で創業137年になります。

セルビアとの縁

 私は2004年からセルビア共和国の名誉総領事をしております。セルビアはユーゴスラヴィア連邦の国でした。ユーゴスラヴィアでは1991年から内戦が続いた後,最後はコソボ紛争でNATO(北大西洋条約機構)から爆撃を受け,2000年に戦争が終結しました。セルビアはどちらかと言えば連邦の分裂を阻止する側だったので,悪者扱いされていました。
 ’03年に大使館から依頼が来た時は,なぜなのか全く訳が分かりませんでした。そこで大使館に行った時「なぜ私を指名されたのですか」と大使に聞きました。すると,「あなたの会社の創業者,上山英一郎さんは明治時代,除虫菊を材料に蚊取線香を発明した。除虫菊はセルビアが原産の花で,英一郎さんは1929年~’43年,在大阪のユーゴスラヴィア王国名誉領事だった。我が国と何らかの関係がある人物を探したが,あなたしかいない。だから頼んでいるのです」と言われ,本当にびっくりしました。曾祖父が領事をしていたのは60年前の話です。その時,昔のことは済んだことではなく,昔があって今があり,私はその歴史の積み重なりの先にいる,というのがよく分かりました。
 総領事を引き受けて良かったと思ったことは,戦争に対する感覚です。最初は好奇心もあって戦争の話を聞いていたのですが,次第に話を聞くのがつらくなり,皮膚的な感覚として,戦争はグロテスクで嫌なものという感じを持つようになりました。私はどんなことも,自分の実感と,ゼロから考え始めるのが正しいと思っています。しかし,こういう人は非常に面倒で,周りにはお世話をかけますが,よろしくご指導をお願いしたいと思います。

「掘り出し棒」の緑

 国際ロータリー(RI)から示されている今期の目標は,「より大きなインパクトをもたらす」「参加者の基盤を広げる」「参加者の積極的な関わりを促す」「適応力を高める」で,それに伴って2660地区の具体的な行動目標が設定されています。ロータリーの役割や社会的貢献は,我々が思うほど認知が進んでいません。それは後で説明します。
 RIは会員の基盤を広げる行動指針として,「『DEI』を基本の方針とする」と述べています。「ダイバーシティ(Diversity)」「エクイティ(Equity)」「インクルージョン(Inclusion)」のことです。ダイバーシティとは「各人の持つ多様な文化的背景の違いを尊重する」,エクイティとは「情報,機会,リソースヘのアクセスの不均衡を是正する」,インクルージョンとは「多様性を認め,偏見なく仲間として扱うことで「,最初から偏った見方をせずに公平に判断し,仲間として迎えよう」ということだと思います。

 今期のRI会長はカナダのジェニファー・ジョーンズさん(女性)で,RIのテーマロゴは「イマジンロータリー」です。イマジンはジョン・レノンの曲から採られた言葉でロゴのデザインはオーストラリアの先住民族アボリジニのデザイナー,リキ・サラム氏によるものです。アボリジニ・アートは物語であり地図であると聞いたことがあります。白地に描かれた紫の大きな丸は互いがつながっていることを示し,それを囲む小さな丸は人を表していて,下の緑のバーは「掘り出し棒」を表しています。掘り出し棒とは,木やアリ塚などから食べ物を掘り出すための木の棒で,アボリジニの生活必需品だったそうです。紫,緑,白の色はアボリジニの文化とは関係ありませんが,ジョーンズ会長は「紫はポリオ根絶,緑は環境,白は平和を表す」と説明しておられます。私の年度のテーマカラーを決めてほしいと言われ,この掘り出し棒の緑にしました。蚊取線香の緑から決めたつもりではありません。

ポリオ根絶の意義

 ポリオに関して気になっていたのは,根絶運動がなぜ続いているのかということです。日本では,1960年には5,000人規模の発生がありましたが,’81年以降,野生のポリオの発生はありません。世界で残っているのはアフガニスタンとパキスタンの2ヵ国だけで,これは終わった話ではないのかと思っていました。ポリオは’08年にウイルスによる病気と分かり,’55年にワクチンが,’60年には経口投与できるワクチンが開発されました。『疫病の世界史』という本によると,ワクチン接種はなかなか進まなかったそうです。そこで経口ワクチンを開発したセービン博士はRIに働きかけ,’85年からRIが撲滅運動を開始しました。ロータリーには政治家にも意見を言える人が多かったため予想以上のスピードで接種が進み,患者が減り始めたと書いてあります。
 根絶がなぜインパクトになるのかというと,ウイルスによる感染症で,世界で感染者ゼロを実現できたのは天然痘だけなのです。ポリオ根絶が実現すれば人類史上2番目の快挙になり,RIはそれが広くロータリーの存在を知らせるインパクトになると考えています。
 2つの国で根絶が進まないのは宗教的な問題と知識の問題があるためだと言われています。ポリオの話には新型コロナに重なる部分があり,コロナの場合,「ワクチンを打つと不妊になる」というデマがありましたが,ポリオワクチンの場合も同じデマが流され,「特定地域の人口削減を狙った欧米諸国の陰謀では」と言われたそうです。ポリオは子どもがかかりやすく,口から感染するので,子の世話や食事を担当する機会が多い女性が知識を持つことが必要です。だから女性が教育を受けられないことは社会にとっても,危険なことになります。
 ただ,根絶が知名度を上げるインパクトになるかという点には少し不安があります。『疫病の世界史』にはロータリーの功績があげられていましたが「ロータリー(当時のビル・ゲイツ財団のようなもの)」という注釈が付いていました。ロータリーは117年の歴史を持ち,200以上の地域と国に120万人の会員がいます。これほどの歴史と規模があればクラブへの理解は浸透していると思うのですが,現実はそうではないようです。今までロータリーが何をしてきたか,メンバー自身が関心を持つことも大事だと思います。
 RIは,あと1年半で女性会員の割合を30%にする目標を設定しています。私は会員として男女に関わらず,ふさわしい人に入会してもらいたいと思っています。「ふさわしい」とは簡単に定義できませんが,今まで事業体で多くの判断や決断に関わってきた方に仲間になってほしいと思っています。昨年,国土交通省が発表したデータを紹介しておきますと,日本の管理職に占める女性の割合は13.3%。米国は39.2%です。日本の比率が低いのは働く女性が少ないからではなく,日本の女性就業率は51.8%と他の国よりも高い方です。役員に占める女性の割合は日本が10.7%,米国は28.2%。つまり約30%です。今すぐ米国並みにするのは難しいですが,まだ日本には人材(人財),が埋もれていると私は思います。

「遊び」に魂を

 ロータリーは変わった組織です。メンバーに対する奉仕部門があるのが普通の組織と違う。そして,この部分が原動力になっているのも事実だと思います。そこにいる人たちの結束を高める部署を設けている事業体は,あまり聞いたことがありません。組織の中のコミュニケーションや協力態勢の再構築をどうするかは今,さまざまな人が考え始めているテーマです。ロータリーは外から見ると社交や親睦の「遊びの会では」という見方をする人もありますが「,遊び」は自由な意思を持った人たちが一つの集団としてまとまるための重要な要素です。私は,今期の委員長さんがたに「ガキ大将を目指してください」とお願いしました。ガキ大将は,集団の総意をくみ取っているように見えて結局自分が興味を持てること,面白いと思うことをやる。遊びに魂が入っているわけですからその方向でお願いしたいという意味です。
 最後に,正直に言いますと,私は寄付が好きではありませんでした。1,000円を稼ぐにも1時間は働く必要があります。だから,寄付は安易ではないかという考え方です。しかし,困っている人や,社会で重要な役割を担うところを応援したい気持ちはあります。個人ではたいしたことはできません。ポリオの事例を考えて頂ければわかると思いますが,ロータリーは1人当たりわずかな金額であってもそれをまとめて,社会を動かすだけの力にすることができます。その点で,ロータリーは効率的な寄付組織です。ロータリーの実績は,全て自分の実績と考えて頂ければよいし,それが集団として存在する値打ちであり,皆さまがここに所属する価値なのだと思います。
 100周年記念事業としては,青少年育成に焦点を当てたプロジェクトを進めたいと思っています。「大阪公立大学向けの奨学金制度の設置」「大阪中之島美術館の子どもたちに対するワークプログラムの支援」「困っている子どもの支援」の3点を検討中ですが,アイデアがあればご提案いただきたい。何をするにも楽しめることが大事だと思いますので,仕事と違って少し肩の力を抜いて,楽しんでやりましょう。
 ところで,昨年日本に着任したセルビアの大使は女性です。私にとって今まで女性の上司は家内だけ。今も「私への忖度が足りない」と怒られ,その経験で十分かもしれませんが,私の上司は家内のほか,RI会長,宮里ガバナー,セルビア大使と女性が4人となり,気を引き締めてかからなければと思っています。
 ぜひ1年間のご協力をお願いします。
(スライドとともに)