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2022年5月27日(金)第4,834回 例会

「調和の空手」身体で受け継ぐ日本の伝統文化と氣の境地

麻 山  慎 吾 氏

真義館 館長 麻 山  慎 吾 

15歳より空手を始め,1990年に大阪に空手道場を開設。世界チャンピオンを輩出する。2011年4月自己を見つめる調和の空手「真義館」を設立。現在は,全国に7支部ある空手道真義館館長。

 私は15歳のときに空手を始めました。それは,理不尽な暴力に屈したくない,弱者や正しい人を守りたいという思いからでした。しかし,24歳で道場を任せられてからは,徐々にこの気持ちから離れ,相手に勝つことだけを考え始めたのです。それは,試合や組手で相手に負けたくないという気持ちからでした。

腰痛で立つこともできない状態に

 稽古は勝敗のみに重きを置いたものになりました。体力を重視し,相手に勝てると思うことは何でも取り組みました。サンドバッグは朝,昼,夜と打ち込み,一心不乱にやっておりました。スピードやパワーをつけるため,ウェイトトレーニングやランニング,エアロバイクなども徹底的に行いました。
 しかしながら,そのようなトレーニングを10年以上続けた結果,とうとう体を壊してしまいました。その間,幾度となく腰痛はありましたが,このときの腰痛は今まで以上にひどく,歩けないどころか,とうとう1分間立つことも,一人で着替えることもできなくなりました。体が壊れた絶望感と疲労感で,常にイライラしている自分がとても嫌でした。すべてにおいて余裕などなく,それを他人に気づかれないようにしていた自分にも疲れ果ててしまいました。腰痛で立てない状態なので,空手の指導も椅子に座りながら指導員に指示を出す,という情けないものでした。
 当時私の道場は生徒が増え,その流派の中では全国で一番の規模になっていました。しかし体がどんどん壊れていくという空手を教えることに,疑問が生じていきました。今まで疑わずに行ってきたことをすべて否定し,体の仕組みや空手の型を勉強し直しました。私は空手で生計を立てていましたので,家族を守るためにも人生をかけて命がけで鍛え直しました。
 型を中心にした稽古を続けたところ,あれだけひどかった腰の痛みが徐々に軽減されてきました。そしてある日の稽古中,突然体の奥で「バチン」という低く鋭い音がしたのです。道場の生徒が私の前で構えると,生徒の体の回りに白く光る部分や黒い部分が見え,そこに触れるだけで生徒の動きは止まり,倒れるのです。相手に勝とうとする気持ちは全くなく,ただ真っすぐに向き合っているだけで,一言で言うのならば「無」という状態でした。私が空手の「氣」を習得した瞬間でした。38歳のときでした。

命を守る手段として生まれた空手

 氣のシステムというものが体の中にあります。空手の型を稽古すれば,誰もが氣を出すことができるようになります。空手は約600年前から途絶えることなく続いてきました。時代に左右されずに受け継がれてきた理由は,空手に型という規範があったからだと思います。命を守る手段として生まれた空手は,愛そのものであり,型を整えたことで後世につながる普遍性を持ちました。
 筋肉は不随意筋と随意筋に分けられます。不随意筋とは自分の意志では動かすことができない筋肉であり,内臓や血管の壁の筋肉に当たります。主に自律神経の支配を受けます。心が作用する筋肉と思ってください。筋トレを一生懸命しても,筋肉の故障を防ぐために持てる力の70%しか出せないとされます。持てる力の70%を超えるためには,不随意筋の働きが必要不可欠になってきます。武術,武道が,心を重んじるのは,ただ単に模範的な人になるということだけではなく,自分自身の潜在能力を最大に発揮することができるようになるからです。
 真の空手を身につけ,さらに氣を習得するには,次に挙げる武術の先人の三つの教えを守らなければなりません。
 一つ目は日本の伝統文化と習慣です。食事の前の「いただきます」,食後の「ごちそうさまでした」という言葉から,感謝の心が育まれます。二つ目は,うそのない日常生活です。筋力の強弱だけではなく,日常生活の正しいあり方がとても重要です。三つ目が,礼節を重んじ,正しい型を継承することです。頭の先から足の先まで,定められた位置や使い方を学びます。感謝の心で目には見えないところにまで意識が行き届き,うそのない日常生活と正しい稽古で鍛え上げられた心身は,氣が通った統一体となり,迷いもなく,逃げもなく,真っすぐに相手と調和して前進できるようになります。

氣のエネルギーで若々しくパワーアップ

 空手以外の問題においても,頭脳だけを使った思考は衝突を生みます。調和の重要性を空手の動作で実践すれば,相手の意識に入り込むことを可能にします。さらに,武術においては,相手との空間も調和によって制することができるようになります。つまり,武術で重要な氣を自ら発することで,先(せん)を取ることができるレベルに達します。先を取ることができると,相手との衝突は一切なくなります。相手は反撃や抵抗ができなくなり,まさしく,武術の究極である「戦わずして勝つ」の境地に至ります。
 また,このようなことができる人が一人いると,その人を中心によい循環が生まれます。調和が周囲の人々に連鎖していき,調和できる人が増えれば,争いもやがてなくなっていくと思います。力で物事を解決しようとする戦争は衝突の極致ですが,反対に調和によって物事を解決できれば,そこから愛が生まれます。約600年前から受け継がれた空手の氣とは調和することであり,愛だったのです。
 空手は年齢を問わず誰もができます。私の道場でも79歳と78歳のご夫婦がいて,黒帯の二段に合格されています。空手の型を身につけるのは,最高の健康法だと思います。体の隅々まで酸素が行き渡り,血の流れがよくなるといわれています。氣のエネルギーで若々しくパワーアップすることができます。空手で自信を取り戻したこれからの人生と,今のままの人生とでは,人生の満足度が違います。自信に満ちあふれた新しい自分になり,これからの人生がより豊かになればうれしく存じます。