1991年大阪府高石市生まれ。大阪市立大学卒業。14歳でホームレス問題に出会い,ホームレス襲撃事件の根絶をめざし,炊き出しなどの活動を始める。19歳でホームドアを設立,シェアサイクル事業「HUBchari」(ハブチャリ)等で,生活困窮者ら3千人以上に就労・生活支援を提供する。日本青年会議所第31回人間力大賞グランプリ。
私たちは「ホームレス状態を生み出さない日本へ」という目標を立て,ホームレスになったとしてももう一度やり直せる,そんな社会をつくれないだろうかということで,試行錯誤しながら日々活動をしております。
私がホームレス問題に出会ったのは14歳の時でした。大阪の釜ヶ崎は日本で最もホームレスの人が多い地区です。中学校進学をきっかけに,釜ヶ崎近くの新今宮駅を電車で通るようになりました。釜ヶ崎の風景が自然と目に入り,日本は豊かな国のはずなのに何でこんなにホームレスになっちゃう人がいるのかなと思っていました。母親からは新今宮駅で下車したらいけないと言われていましたが,炊き出しのボランティアを募集していることを知り,参加してみました。
おにぎりを渡したおっちゃんに,「何でホームレスになったん?」と,ずけずけと聞いてみました。「わしの家には勉強机なんてなくてな,中学校卒業したら出稼ぎに釜ヶ崎に来たんや」と言うのです。ハッとしました。私の家には当たり前のように勉強机がありましたが,おっちゃんの場合はそもそも勉強できる環境になかったということを知りました。
日本では貧困の連鎖が非常に深刻です。ホームレスになる方は,児童養護施設出身者の10人に1人,母子家庭・父子家庭出身者の3人に1人に上ります。そして大阪市内だけで年間213人の方が路上で亡くなっていました。炊き出しに参加するまで,ホームレスの人と会ったことも話したこともないのに,怠けてるなどと決めつけていました。そんな反省から自分に何かできることはないかなと考え始めました。
学校の友達を炊き出しに連れて行ったり,釜ヶ崎で2泊3日のフィールドワークをしたりする活動を中学・高校と続けました。ただ,私が活動を始める前と後で,ホームレスの数が減ったわけでも,凍死や餓死する人が減ったわけでもありませんでした。
ホームレス状態から脱出したいと思ったら脱出できるような社会にしていきたいなと考えました。ここに駆け込みさえすれば何とかなる,ゆっくり休めて栄養のある食事が用意されている,誰もが働ける仕事がある,そんな場所がこの日本で,この大阪でたった一つでもあったら路上で亡くなる命を救えるんじゃないかなと思い,大学2年で起業したのが「Homedoor」という団体でした。
まずは仕事づくりだということで,おっちゃんたちに聞いて回ると,何と7割の人が自転車修理が得意だと答えたんです。廃品回収のマストアイテムが自転車だからです。修理の技術をいかしたビジネスをということで生まれたのが,「HUBchari」というシェアサイクルのプロジェクトです。ビルやホテルなどの軒先に自転車を置かせてもらい,おっちゃんたちが自転車の修理や接客を行います。現在,大阪市内で300拠点まで広がっています。
次に手掛けたのが,個室型宿泊施設の「アンドセンター」です。大阪市北区のビル1棟を借り上げ,無料で宿泊できる18部屋のシェルターを個室で用意しています。一昨年度は1,000人の利用がありました。実は,おっちゃん,おっちゃんと言っていますが,今Homedoorに相談に来る人の平均年齢は40.8歳。半分近くが10〜30代です。家や仕事がなくなれば,通常は実家に頼る世代ですが,頼ることができない児童養護施設出身,母子家庭・父子家庭出身,困窮家庭出身の人たちが多いという現状があります。
14歳から17年間もこのような活動を続けてきたモチベーションは何だったのかと,よく聞かれます。私自身,あんまりモチベーションに頼らずともやってきたのですが,背景には「知ったからには知ったなりの責任がある」という思いがありました。問題を知ったからこそ自分に何ができるんだろうかと,ずっと模索し続けてきた結果が今だと思っています。マザーテレサは「愛の反対は嫌いとかそういう言葉じゃない。無関心なんだ」と言っています。私はせっかくホームレス問題に出会うことができて,そこで終わりにしたくなかったのです。関心を持ち続け,自分に何ができるか,何をするべきか,問い続けていたかっただけだと思っています。
今日から皆さんもホームレス問題を知っていただいた側として,ぜひ無関心じゃなく何か私たちと一緒に活動していただけたらと思います。まず1つ目は,より多くの方に関心を持ってもらえる今回のような機会を私たちにいただけないでしょうか。東へ西へ飛んでまいります。2つ目が,HUBchariを設置できるビルをお持ちでしたら,ぜひお声掛けいただきたい。そして3つ目が,「おかえりサポーター」になっていただきたい。私たちはいつ来てもらっても温かくて栄養のある食事がいただける場所を大阪につくりたいと考え,昨年,「おかえりキッチン」というカフェをオープンさせました。しんどい時こそ最高のおもてなしをしたいなという私たちの思いがあります。おかえりキッチンの運営には,月50万円ほど必要です。運営をサポートしていただこうと,月1,000円を支援いただく500人の「おかえりサポーター」を募っています。
誰もが何度でもやり直せる社会の実現に向け,ぜひ皆さんも一緒に何ができるか考えていただけたらうれしいなと思っています。
(動画・スライドとともに)