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2022年3月4日(金)第4,824回 例会

大学から行政と官僚を考える

百 嶋    計 氏

追手門学院大学 経営学部 教授(法務・行政法)
京都大学公共政策大学院 講師
百 嶋    計 

1958年奈良県生まれ。’81年京都大学法学部卒業,大蔵省(現財務省)入省。財務省で理財局計画官・審議官など,国税庁で査察課長・人事課長・名古屋国税局長などを歴任。財務省以外では,金融監督庁で金融危機対応,内閣府・内閣官房で小泉構造改革,行政改革,公務員改革に携わる。2015年独立行政法人造幣局理事長。在任中は大阪RC会員。’18年退官,’19年から現職。
(株)大阪ソーダ・社外取締役,住友理工(株)・社外監査役も務める。

 2015年から’18年まで大阪RCの会員でしたので,皆さまには大変お世話になりました。今日は本当にお久し振りでございます。本当に懐かしく,また光栄に存じます。

公務員制度改革が仕上げの仕事に

 渡辺美智雄さんが大蔵大臣のときに大蔵省に採用されました。当時,渡辺さんは「東大以外の大学から採用する」ということをよく話されていて,京都大学出身の私が採用されやすい環境にあったのかなと思います。
 本省で本流を歩んだわけでもなく,内閣府,内閣官房,旧総理府での勤務が長かったということが,本日のテーマにつながっています。私自身いろんなことに興味があり,省庁の縦割りにとらわれない仕事がしたかったですし,いろんな役所の人たちと一緒に仕事をすることに喜びを感じていました。どちらかというと,政策をどんどん打ち出す官僚というよりも,調整向きの官僚だったと思います。その辺を見抜かれてこういう仕事に長く携わることになりました。総理大臣名でいただいた辞令が非常に多く,その仕上げの仕事が,公務員制度改革と行政改革でした。
 国家公務員最大の組織である国税庁で人事課長を務めていた頃,公務員制度改革が政府の課題となり,内閣府に発足した事務局に移りました。なぜ公務員制度改革が必要だったかというと,「官僚主導,省庁縦割り,省益本位の行政」「キャリアシステムの弊害」「天下り問題」「公務員倫理の問題」,この4つの課題があったからでした。
 国家公務員の総合職で採用されたときはどの省庁でも皆同じような顔をしているのですが,その後の各省庁での人材育成によってカラーがついてきて,縦割りに拍車がかかってきます。旧自治省の方は,地方によく出向するので,地方の立場で考えて時として国の方針と対立することがあります。経産省の方は,産業発展を考えるので,各省の規制に対していろいろと強くものを申されます。国交省の方にとっては,当然公共事業が重要ですし,私がいた財務省は,常に財政バランスのことを考えるように育っていきます。

官僚に何が求められているのか

 縦割り行政の打破ということで,橋本龍太郎総理大臣の頃に中央省庁改革が行われ,官僚主導から政治主導への道が開かれました。以前の1府22省庁から1府12省庁に統合,再編成され,独立行政法人制度もつくられました。さらに,幹部人事を一元管理する内閣人事局が創設されました。省益にとらわれない幹部登用を行うためです。
 天下り問題では,勧奨退職年齢が小泉内閣の頃から徐々に引き上げられ,第1次安倍内閣のときに現職職員による再就職の斡旋が禁止されました。官僚は自身で再就職先を探すか,直接スカウトされるしかありませんから,現職時代も研鑽につとめ,市場価値のある人材になることが求められるようになりました。
 このとき霞が関の風景が激変しました。昔は同期が事務次官になったら皆辞めると言われていましたが,今は,同期はおろか後輩が事務次官になってもなかなか辞めない,辞められないということになっています。
 官僚というのは,そもそも専門的知見によって政策の選択肢を示すというのが役回りです。政治は,民意を反映し,政策を判断・最終決定して国民に対する責任を負い,官僚は,政治によって決定された政策実施に誠実に取り組むということが大事だと思います。何事も正攻法で,プロセスを透明にということを心掛けなければなりません。国民に対する説明責任は最終的には政治が果たすべきところですが,官僚もそれは常に考えていなければいけません。また,高い倫理観,緊張感をもって仕事に臨むことも求められます。職場は風通しよく,パワハラなどはあってはなりません。
 幹部人事ではいろいろと問題が指摘されていますが,総理・官房長官と任命権者である各省大臣がより実質的な協議をすることでよりよい人事になるのではないかと,今外から見ていて思います。幹部候補の審査には,本人の倫理観やコンプライアンスにも踏み込んでいただきたいと考えます。

次世代の官僚, 公務員に期待

 公務員制度改革の理念は実現できているか,官僚はきちんとその役割を果たしているか,忖度ばかり招いてないかは,今後も検証していくことが必要です。
 私自身の公務員時代を振り返ってみて,そして今の仕事とあわせて考えてみますと,私自身,官僚に求められる本分を果たしてきたとは言い難いところではございますが,どの仕事も非常にやりがいがあったなと感じています。同僚,上司に恵まれて,困難な仕事を乗り越えてきた仲間は今も戦友,盟友だと思っています。
 公務員の仕事というのは,公務の要請に従い,適材適所で行われるというのが原則ですので,必ずしも希望する,やりたい仕事が回ってくるわけではありません。それでも何回かに一回は好きな仕事も回ってきます。コイン集めをしていた私も,最後に造幣局で好きな仕事をすることができました。
 いま追手門学院大学で,行政法の講義をしており,公務員志望の学生も指導しています。もちろん企業で活躍できる人材もしっかり育てていますので,会員の皆さま方の企業にも追手門学院大学の学生が訪問しましたら,どうぞよろしく審査をしていただければと思います。京都大学公共政策大学院には官僚志望の院生が集まっており,政策立案や予算要求・編成の模擬演習を通じて,官僚の心得も伝授しています。次世代の官僚・公務員に特に期待をしているところでございます。
(スライドとともに)