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2022年1月28日(金)第4,820回 例会

「アート」が私たちにもたらしてくれるもの

大 島  賛 都 氏

(公財)関西・大阪2 1世紀協会
チーフプロデューサー
大 島  賛 都 

1964年栃木県生まれ。英国イーストアングリア大学卒業。東京オペラシティアートギャラリーを経て,サントリーミュージアム[天保山]にて現代美術などの展覧会を企画。2010年よりサントリー大阪秘書室所属。現在,(公財)関西・大阪21世紀協会に出向し「アーツサポート関西」の運営を行う。主な展覧会に「リュック・タイマンス展」,「ジャン・ヌーベル展」,「インシデンタル・アフェアーズ展」などがある。

 「アート」とは何でしょう。アートは最近,身近な言葉になっていると思います。アートといっても,クラシック音楽や舞台,演劇,そういうものを含めた芸術一般を広く指す場合と,現代アートの作品を示す場合があります。本日は現代アートについてお話をさせていただきます。

アートをたくさん体験する

 芸術というと,何か価値があるものだろうと,これに疑いを持つ方はあまりいないと思います。ところが,現代アートはなかなか価値がわかりにくく,受け入れるのに抵抗がある方も少なからず多いのかなと感じます。特に現代アートは挑発的であったり,何か奇をてらったりして,必要以上に人を身構えさせてしまいます。万人が楽しむようなものでなく,基本的には好きな人が好きなように楽しむもの,マニアックなものと受け止められていると思います。
 「アートは必要なのか?」という問いに対して,私は非常に大切なものだと思っています。ロンドンの現代美術館で2003年に発表された,オラファー・エリアソンの作品「Weather Project」の画像をご覧ください。天井に鏡を張った部屋全体が作品となっており,ナトリウム灯の光で満たされています。部屋の中はナトリウム灯で照らされたオレンジ色と,その影の黒色に二元化されます。多くの人が床に寝転んで時間を過ごし,天井を見上げて自分の姿を眺めるという,ちょっと異様な作品です。
 私はこれを実際に見て非常に感動しました。圧倒的な超非日常的な体験でした。そのとき感じたのは,まさに「視点の転換と意識の拡張」です。作品の中に入った後の高揚感にアートの力を感じざるを得ませんでした。
 私は,アートをたくさん体験することが非常に重要だと考えています。頭でわからなくても,アート作品に触れて何かを感じる,自分の中に何かが生まれた感覚をそのまま受けとめるということが非常に大切だからです。アートを体験することで,どんどん思考や脳が鍛えられていくと思います。

多様性が新しい価値観を生み出す

 日本の産業や経済はいま,閉塞的な状況に置かれています。一方,地球の裏側ではグーグルやアップル,テスラなどが莫大な利益を上げて隆盛を極めています。日本人としては,かつて我々もあそこにいたのに,なかなかもうたどり着けないという焦りがあり,それがまた構造的な閉塞感につながって負のスパイラルが生まれている気がします。私は経済の専門家でも評論家でもありませんが,日本人のあり方として,何か価値がわからないもの,未知なもの,評価が定まってないものを恐れる,躊躇するという性向があるのではないでしょうか。
 しかしながら,未知なる不確実性の中から,いかに有効な要素を抽出できるか,そのセンスが問われています。別の言い方をすると,多様な価値を俯瞰してとらえ,それを併置して検討し,なおかつ既成概念にとらわれずにいかに新しい視点でものを考えて判断できるか。そういうセンスだと思うんです。多様性が新しい価値観を生み,さらにイノベーションを生んで,次のステップにつながっていくと考えています。
 テレビでもお馴染みの脳科学者,中野信子さんは無類の現代美術好きで,現在,東京芸術大学で現代アートを研究されています。彼女が非常におもしろいことを言っています。「無駄が許されない集団は滅びる」。どういうことでしょう。「効率のみを追求する社会は,それ以外の寄り道を無駄とする。短期的にはそれで成果を上げることができる。しかし,その適応期間は早く終わりを迎える。利得の大きさといった単一目標だけを重視するパラダイムは,たった一つの要因で社会を滅ぼしかねない」としています。つまり,無駄と思えるような,多様な選択肢を取り込んでいる集団の方が,生存する可能性が高いんだというロジックです。
 中野さんはさらに,多様性を促したり,多様なものの見方を喚起したりするアートの機能が,非常に重要な社会のツールだとおっしゃっています。

対話型鑑賞教育に注目集まる

 「対話型鑑賞教育」と呼ばれる,美術作品の鑑賞法があります。ニューヨーク近代美術館が生み出した方法で,昨年,関西経済同友会の美術品展で実施されたので,ご存じの方もいらっしゃると思います。アート作品を鑑賞する際,専門家が専門的知識を一方的に教えることは一切せず,鑑賞者が作品の前に立って,どういうふうに思ったのか,どういうふうに感じたのかということを言葉にして,周りの人たちがその言葉を聞き,コミュニケーションを行います。アートを通じて,観察力,思考力,想像力,コミュニケーション能力を高めていく方法として,いま非常に注目されています。
 同友会の企業所有美術品展でこの方法を積極的に取り入れて,これまでに大阪府下の小学生1,500人以上を集め,40回以上行われています。非常に好評で,日能研などの塾も同様の取り組みを始めています。
 アートを受容する社会では,やはり新しいものの見方が生まれ,クリエイティビティが涵養されて,イノベーションが起きやすくなります。社会としての持続可能性やレジリエンスが高まっていくと思います。レジリエンスとは,困難なことにいかに対応できるかという能力のことです。
 最後に,新型コロナがなかなか終息しない中,大阪のアーティストを支援するキャンペーンを展開しています。「アーツサポート関西寄付」とネット検索していただくと,寄付の申し込みページが出てきます。ぜひご支援をお願いしたいと思っております。
(スライドとともに)