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2021年11月12日(金)第4,811回 例会

商社マンと行政マン

西 田  淳 一 氏

大阪経済大学 客員教授 西 田  淳 一 

1955年大阪府出身。府立茨木高校を経て中央大学法学部卒業。’79年三井物産入社。’89年~’92年英国三井物産機械部兼ニューキャッスル事務所長,業務部経営企画室,三井リース(現JA三井リース),リテール本部事業開発部などを経て2008年~’10年,インド三井物産チェンナイ支店長兼バンガロール・ハイデラバード支店長兼スリランカ・コロンボ事務所長。’12年公募により大阪市西淀川区長に就任,’17年大阪府商工労働部長。’20年3月退職。豊能町政策アドバイザー,池田泉州銀行顧問,中小企業基盤整備機構中小企業支援アドバイザーなども務める。

 大阪府商工労働部長をやらせていただいたときは皆さまにいろいろなご支援をいただき,感謝申し上げます。「民から行政へ」というテーマで,特に民間と行政の何が違うんだというところについて,しっかりと話をさせていただこうと思います。商社マンとしては,三井物産で工作機械の分野を担当し,後にリテールやリースの分野もやりました。大阪支店で商売の基礎を学び,中国,インド,タイに向き合いました。大阪は,どこの商社もそうですが,やはり繊維関連のつながりがあって,アジアを見ています。府庁に入ったときも,「大阪の成長はアジアとの取り組みなくしてない」とのスローガンを掲げてやってまいりました。

公共への関心は震災の経験がきっかけ

 三井物産では経営企画室にも配属され,猛烈にしごかれて,オールラウンドなものの見方ができました。行政マンへの転身のきっかけは,東日本大震災です。乗っていた新幹線が停車し,保線車に救出されるまで長時間車内で過ごしました。この経験から,公共への関心が芽生え,東北にボランティアに行くようになり,公共的な役に立ちたいという思いが強くなってきました。
 ちょうどその頃,橋下徹氏と堺屋太一氏の著書「体制維新」が出版されました。この本を読み,何とか地元・大阪のお役に立てたらなと思い,「(橋下・大阪市長が発案した)区長公募を受けてみようと考えている」と上司に相談していました。その決心を固めかけていたその年の年末,茨木カンツリー倶楽部でホールインワンを達成します。これはもう公募を受けてこいと言われていると感じ,翌年1月に応募。橋下市長の最終面接を経て,西淀川区長を拝命しました。

橋下改革が目指したもの

 区長として,「クリーンにしてグリーンな西淀川」というスローガンを掲げました。朝,区役所の周りを,職員と一緒に私も掃除するようにしました。放置自転車でいっぱいだった塚本駅前も地元の商店街や振興会の方々の協力を得てきれいにしました。橋下行政改革をもし一言で言うとしたら,「ニュー・パブリック・マネジメント」。組織の効率化と民間でできることは徹底的に合理化するということの実践だったと思います。
 私が会長を務めた区長会議でやった仕事の一つが,「行政区割案」の作成です。この区割り案を橋下市長に上程し,「都構想」の議論に移っていきました。都構想では,大阪市を廃止して「特別区」を作り,東京都の23区と同じような仕組みにします。ただし権限は東京の区より少しだけ上げるという挑戦をされたわけですが,結果的には2度の住民投票で反対の方が多くなり,実現していません。
 課題は何かというと,国が中央集権体制を守ろうとして,地方の体制を変えるときに一番しんどい部分になっていることです。さらに,いろいろな原案を作る霞が関がやはり強いということです。副首都推進局のときに「副首都ビジョン」というものを作りました。東京一極集中を是正して,大阪・関西が西日本の首都となり,東京の機能をバックアップしようというビジョンです。これは,関西経済連合会や関西経済同友会などの提唱がきっかけになっています。大阪・関西を動かすのはここにおられる皆さん,財界の力ということで,行政にもっといろいろなアドバイスをしていただけるようご協力をよろしくお願いします。

行政と民間の違い

 行政の仕事を経験して,民間経営にはない点が見えてきました。当たり前ですが,行政には法律,政令,条例の縛りがあります。法律や条例を一度作ってしまうと,なかなか改廃できません。これが前例踏襲を生みます。それと,いったん行政に入ったお金は公金となり,「公平・公正・平等」に扱われます。西淀川区だけにこういう予算を付けたいと言っても,よほどの理屈がないと実行できません。
 議会対応も苦労しましたし,予算も原則,単年度でしか付けられません。そして一番大事なことは,行政は「課長」で動いているということです。国も地方自治体も,課長に権限が下りていきます。課長が動いてくれたら,それが上まで続いていくということを肌で感じました。
 また地方では,首長の知事や市長は選挙で選ばれますが,部長や局長は皆,行政マンです。議員がいろいろな提案をしても,その書類作りや理屈作りは行政マンが作り込んでいます。やはり強いのは,日々一番現場をわかっている行政ですから。その意味では,行政マンがもっと強気でいろいろなことを言っていくことも必要ではないでしょうか。私もとにかくメディアに発信して,行政の皆さんにももっと発信しようと言っていました。
 あと行政というのは大組織です。大阪府市とも多くの職員がいます。大組織のマネジメントができないと,皆さんとの協力体制も得にくいことになります。
 最後に,米国の国際政治学者,サミュエル・ハンチントン氏が2000年に出版してベストセラーとなった著書「文明の衝突と21世紀の日本」を紹介します。中国が台頭して日本がアジア2番手の国になるという今の状況が書かれています。京大名誉教授の中西輝政さんも「先を越された」「本来,われわれが書かなきゃいけない本」とコメントされています。今,読み返すととても勉強になります。僭越ながら私が気に入っている本を紹介させていただきました。
(スライドとともに)