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2021年10月29日(金)第4,809回 例会

今こそビジネスに求められる哲学思考

小 川  仁 志 氏

哲学者
山口大学 国際総合科学部 教授
小 川  仁 志 

京都大学法学部卒業,名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化),専門は公共哲学。商社マン(伊藤忠商事),フリーター,公務員(名古屋市役所)を経た異色の経歴。大学で新しい課題解決授業に取り組んでいる。
Eテレ出演他,日経フィナンシャル,週刊エコノミストに定期的に寄稿。『AIに勝てるのは哲学だけだ』(祥伝社),『1分間思考法』(PHP研究所)など著書多数。

 いろいろなことをやってまいりまして,哲学を人生,あるいは仕事に応用しようと提唱しています。テレビでも3年間,高田純次さん,みちょぱさんと「世界の哲学者に人生相談」という番組を続けていました。後継番組として,「ロッチと子羊」という,哲学を人生にいかす悩み相談番組も始めており,来年春からレギュラーで毎週放送しますので,ぜひご覧ください。特に最近はビジネスに哲学が求められるということで,ビジネス哲学のパイオニアとして研修を行ったり,本を書いたりしています。「哲学にビジネスを」というのはこれまであまり考えられなかったのですが,それだけ時代が変わってきているということかなと思っています。

「ピカソシュタイン」になる

 そもそも「哲学とは何か」ということですけれども,よく誤解されていますが,決して文献学とか考古学みたいな学問ではなくて,一言で言うと,常識や思い込みを超えて考える,そうすることによって物事を見直す,あるいはその結果,新しいものを創造していくという営みだと考えています。哲学そのものは,「知を愛する」という言葉が由来ですので,物事の本質を探究していく,つまり私たちの常識や思い込みを超えて考えるということになります。
 なぜ今,哲学がビジネスに求められているのでしょうか。お手本のない時代,ゼロから考える必要性がいろいろと出てきており,哲学はまさにそれを得意としているからです。AIの時代,創造的思考をしないと人間は生きられないと言われていますが,哲学とは非常に創造的な営みです。さらにパンデミックの時代ということで,常識の再定義が求められており,これもまた哲学の得意とするところで,哲学のニーズが今,ビジネスの世界を中心に非常に高まっているのです。
 哲学のプロセスを単純に言いますと,「疑う」,「視点を変える」,「再構成する」,そして言語化されて新しい言葉,概念となるということです。たったこれだけのことですが,意外と難しいのです。いろんな視点で見てみるといっても,どうしても私たちは自分の視点になってしまいます。このプロセスが誰でもできるようなフレームワークを考えており,私の研修や著書を通じてそういったものをマスターしていただきたいと思っています。
 私は「哲学をする心構え」として,「ピカソシュタインになる」という造語を提唱しています。ピカソのように「直観」「感性」で面白いことを考え,その面白さをアインシュタインのように「論理」で着地させます。感性と理性の両方で考えることで,「理にかなった創造」というのが生まれてきます。

とがった新しいアイデアを生み出す

 私がビジネス哲学の研修で行っている具体的なプロセスを紹介します。まずは「疑う」わけですが,「イチャモン・マップ」というフレームワークを用いてやっていただくことが多く,「視点を変える」ときには「異次元ポケット」というフレームワークを使っていただきます。そして「再構成する」ときのフレームワークがあり,「新しい言葉をつくる」「概念を再定義する」につなげ,それが「新たなビジネスの設計図」となります。
 最初の「イチャモン・マップ」では,エイリアンが地球にやってきたら,私たちのやっていることはどう見えるかを考えます。いろんな物事は,エイリアンのようにイチャモンをつけることができ,それをマッピングします。次は「異次元ポケット」です。物事というのは人の視点ごとに違う意味を持ちえます。例えば富士山を思い浮かべます。私は富士山に登ったことがないので,車窓から見る景色を思ってしまいますが,海外の方は絵葉書や浮世絵の絵かな,地元の方は地元の山だなと,それぞれ全く違う姿を思い浮かべます。しかし,どれも本当の富士山の姿です。視点が変われば,物事というのは全く違うものにとらえられるということです。
 次に,とらえ直したものを再構成していくわけですが,「好きなことだけdeコンストラクション」というフレームワークをつくりました。要素をバラバラにして,好きな要素だけを取り出して再構成した答えは非常に面白いものになり,とがった新しいアイデアになっていきます。

課題を発見する研修へのニーズ高まる

 哲学は,アイデアを生み出すことがとても得意で,「アイデア」という言葉自体が,古代ギリシャの哲学者プラトンが唱えた「イデア」という理想の世界です。そして今の時代で言いますと,課題解決の中で,課題を発見することが一番難しいとよく言われています。課題を見つけるためには,問いを立てないといけません。しかも面白い問いを立てないと,やるべきことが何なのかわかってきません。
 日本では,問う訓練というのを学校教育でしないものですから,苦手な方が多い。それに対して哲学というのは問う学問です。古代ギリシャのソクラテス以来,変な質問をするのが,哲学の得意な部分ですので,問いを立てるための課題発見の研修はとてもニーズが高まっています。あとビジネス倫理研修も非常にニーズがあります。若き天才哲学者のマルクス・ガブリエルに言わせると,次のGAFA(Google,Apple,Face book,Amazon)は倫理部門をいち早くつくったところです。決裁は全て倫理部門を通さないといけないということを彼は提唱しています。
 ぜひ皆さまも哲学を活用していただき,この大変な時代を一緒に乗り切っていければと思います。私の話が何かひとつでもお役に立てれば幸いです。
(スライドとともに)