1964年生まれ。’89年東北大学理学部卒業。’91年東京大学大学院修了,同年気象庁沖縄気象台。’94年予報部数値予報課,’99年外務省に出向(気候変動枠組条約担当),2001年気象庁企画課に戻り,その後,主に企画,調整部門。
’16年地震火山部管理課長,’19年企画課長,’21年1月より現職。
今日は,水の都の大阪にとって被害が大きい台風や高潮,南海トラフ地震などについてお話をします。本題に入る前に,防災を呼び掛ける時に留意している事をお伝えします。
まずは「教訓を大切に」。人間が経験できる範囲と自然界のタイムスケジュールは違います。時と空間を異にした事例からも学ばなくてはなりません。東日本大震災まで,東北の津波は三陸海岸さえ気をつけていればいいという暗黙の了解がありました。実は9世紀,貞観地震では仙台平野以南にも津波が来ていました。もっと伝えていれば,もっと多くの方が避難されたのではと反省しています。
次に「やたらとあおらない」。梅雨時だからといって,低気圧が来るたびに大雨警報を出していると聞いてもらえなくなります。逆効果にならないように,予測される真に危険な現象だけの警戒を呼び掛けていきたいと思っています。ただ,そうは言っても,やはり逃げるときには逃げていただきたい。これは津波を経験した釜石市の中学2年の女の子の言葉です。「100回逃げて,100回来なくても,101回目も必ず逃げて」。目の前で悲惨な情景を経験した方の重みだと思います。
関西で最も警戒すべき台風には条件があります。紀伊水道をやってくる。北北東のコースを取る。早い速度で進んでくる。この3拍子が揃うと,被害が大きくなります。台風は時計と反対回りの渦を巻くため,北北東に近づいてくると,大阪湾は弱い東風から強い南風に変わり,高潮の原因になるからです。
1934年の室戸台風は,前日の昼に奄美の付近にいましたが,翌朝8時には大阪に来ました。当時の中央気象台が「大阪危ない」と言ったのは夜中の2時です。当然聞いている人は少なく,朝,悲惨なことが起こりました。
3条件を満たす台風のうち,強度や高潮の程度の割に被害が少なった台風が2つあります。今年で60周年の1961年の第2室戸台風。それに2018年の台風21号。関空につながる橋に船がぶつかったあの台風です。
第2室戸台風については理由が幾つかあります。台風来襲が昼だったことや室戸台風の教訓に加え,伊勢湾台風の2年後で社会全体が警戒心を持っていました。手前味噌になりますが,当時の大阪管区気象台長は,最悪の事態になることを社会の各方面に特別に呼び掛けるとともに,平時においても近畿防災気象連絡会という官民の組織を作り,勉強会を行っていました。
台風21号は記録的な暴風と高潮に見舞われましたが,被害は港湾部分に限定され,街中はほとんどなかった。安治川,尻無川,木津川の3つの水門を閉めたからですが,それだけではありません。川の堤防が鉄橋や工場で途切れたところにある防潮鉄扉を,地元の水防団などが全部締め切ってくれたからなのです。ちょっと気を抜けば大阪は水が入ってくる土地です。技術が進んだので被害が少ないのは当たり前,とは思わないで頂きたい。
トラフは谷という意味です。よく誤解されますが,四国沖だけではなく,静岡沖からずっと沈み込みが続いている全体が南海トラフです。南海トラフ地震の特徴は100年から200年の間隔で繰り返して起こること。しかも,西側(南海)と東側(東海~東南海)が連動することが多いのです。宝永の地震(1707年)は東と西が同時に,安政の地震(1854年)は東が起こった31時間後に西側で発生しました。昭和の地震(1944年と1946年)は,東側の2年後に西側で起きました。
次の南海トラフ地震は2035年前後とみられています。誤差はあり,前回の昭和の地震の規模が小さかったため,次まで短くなるとも言われています。そういう意味では,非常に警戒したほうがよい段階に来ております。
直下型地震についても申し上げたいことがあります。熊本地震の教訓です。これが起こるまでは,大きい地震の後はそれより小さい余震が続き,だんだん減っていくということでしたが,見事に裏切られました。1度目の地震で弱っていた建物を2回目でとどめを刺して,片付けに入っていた方々が圧死して,たくさん亡くなりました。この教訓でわれわれの情報の出し方も全部変えました。
大阪の街中を散歩すると,古い建物が残っていることに気が付きます。上町断層が動いて震度7が2回起こったら多分もたないだろうな,というような建物も見られます。
政府の地震本部も,上町断層は全国でも地震の可能性が高いとみています。家を建て替えるのは大変だと思うのですが,耐震が一番大事でして,もしできないのであっても,例えば倒れてくるタンスのような場所の側では寝ないとか,1つでも対策をとっていただきたいと非常に思うところでございます。
なお,地震の被害というのは,震度だけでなく,揺れの周波数で決まります。ガッタン,ガッタンと1~2秒の揺れの成分が多い「キラーパルス」が起きると建物が壊れますので,どうか宜しくお願いしたいと思います。
最後に,気象庁が首都直下地震に備えてどのような体制を組んでいるかを紹介します。地震の被災に備えた業務継続の取り組みとして,東京と大阪の2中枢化をしています。最初は,東京がやられたときのサブシステムという考え方でしたが,それじゃダメだということで,途中から全く同じシステムを大阪に置くようにしました。気象庁の中では,大阪というのは単に西日本のセンターではございません。日本全体に対して責任を持っているセンターとして機能しているところでございます。そういう意識で私も仕事をさせていただいているということでございます。本日はどうもありがとうございました。
(スライドとともに)