大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2021年7月9日(金)第4,796回 例会

大阪の文化力

玉 岡  かおる 氏

作 家 玉 岡  かおる 

兵庫県三木市生まれ。神戸女学院大学卒業。1989年,15万部のベストセラーとなった神戸文学賞受賞作「夢食い魚のブルー・グッドバイ」(新潮社)で文壇にデビュー。舞台化,TVドラマ化された「お家さん」で第25回織田作之助賞受賞。兵庫県教育委員,大阪市博物館機構理事などを歴任。大阪芸術大学教授,関西大学客員教授。

 私は歴史小説家です。なぜ古いことを発掘して光を当てるのか。結局,過去のことを知りたいのではなく,その中に私たちと同じように危機に直面し,困難や様々な艱難に立ち向かっていった先人の生き様を知ることができるから,ということにたどり着きました。様々な時代を作品に書いてきましたけれども,今日と同じように疫病で多くの方が亡くなったり,南海で地震が起きたときには堂島川にも津波が押し寄せてたくさんの溺死者が出たりといった災害もありました。あるいは戦で,戦争で,本当に様々な苦難を生きてきた関西人ですが,それでも大阪は今日こうやって繁栄しています。それは一体なぜなのかということを考えたとき,きょうのテーマ,「文化力」ということが真っ先に浮かびます。2000年を超える歴史,文化を築いて,私たちがその上に未来を築くことができるのは,まさにこの文化力があったからにほかなりません。関西に生まれ,関西で育ち,今なお関西で生きているという中で,関西人の不屈の魂というものに常々頭が下がる思いで作品を書いてきました。

平和のシンボル・姫路城

 最近,歴史小説「姫君の賦 千姫流流」を出版しました。その中で伝えたかったのは,大阪がまさに中心となって日本の歴史にウェーブを起こし,波及したものがあるという事実です。千姫は徳川家康の孫娘で,秀忠の娘です。たった2歳で豊臣秀吉の子,秀頼の婚約者に決められ,7歳で大坂に嫁ぎ,18歳になるまで大坂城に住みました。千姫は伏見の徳川屋敷で生まれた根っからの関西人,関西女でした。彼女が大坂にいた11年間,戦が起きていない。平和の懸け橋になっていたという事実を考えると,歴史の見方が変わってきます。
 この小説が原作となったクラシックオペラ「千姫」が,今年12月11,12日に上演されます。何の日かと言いますと,姫路城が世界遺産に指定された日です。姫路城は第2次世界大戦で空爆を受けましたが,今に残ります。2発落ちた爆弾が2発とも不発弾でした。見えざる何かの力が働いたとしか言いようがないのですが,私は千姫の力ではないかと思っています。18歳で夫を亡くした千姫の再婚先が,姫路に移封された本多家でした。彼女が行くところには,もう戦はしないという平和の願いが刻まれています。陸軍第10師団が拠点を置いた姫路は徹底的に焼かれましたが,焼け跡にぽつんと残った姫路城はまさに平和のシンボル。その城づくりには,千姫の美的感覚が織り込まれたということは疑いがない気がしています。

国を生むエネルギーに満ち溢れた大阪

 江戸時代からさらに昔を見ていきます。私自身もそうですが,大阪の文化力を一番関西人が忘れている。もっとプライドを持たなあかんと思うのは,大阪の歴史は100年,200年じゃないということ。一気に2000年,縄文時代に飛んでもらうと,当時の地形図では大阪は海でした。ところが,琵琶湖から土を運んでくる淀川がここに土を積もらせ,島ができる。これは古代の人にとっては,ものすごく不思議でしょうがなかった。ここには国を生むエネルギーがあるんです。この間来たときには海だったのに,国になっている。人間の力では土地をつくる,島をつくるなんてことはできなかったけれども,それが自然にできていたのが,難波津でした。
 古代には道路も整備され,歴代のうち何人かの天皇がここに都を置きました。国を生むエネルギーに満ち溢れた大阪はいま,見渡す限り陸になっています。ところが,ここでの経済活動の力は,どんどん東アジアの国に追いつかれているという悩ましい問題が起きています。西へ,かなたへ,そして海外へと行く力を何とかいかさないといけないのではないかということで,京都の観世流シテ方の片山九郎右衛門さんが私に難題を吹きかけられたんです。

難波津から挑戦する新作能

 新型コロナで能の公演がすべて中止となり,お稽古もできない状態です。こんな時代だからこそ,国を生むという関西の力で海外ともつながれる何かをしようということで,新しい能を私に書いてくれとおっしゃるわけです。そのテーマが「媽祖(まそ)」という,中華系の神様でした。媽祖は,海の神様としてたたえられ,世界中の華僑の家では必ず祀られています。私は大胆にも舞台を中国から大阪に置き換えて,難波津から出航する海の女神様という設定で書き上げました。
 媽祖は「千里眼」,「順風耳」という,千里先が見える神様と,万里の向こうの物音を聞き分ける神様を引き連れています。難儀をしている国や苦労をしている人間のために何かできることはないか。媽祖は人々を救うため,ふたりの神を従え,海の女神として,難波津から大海原を渡ります。コロナ禍という困難を前に,人間の可能性に挑戦するという意味も込めています。
 来年4月の上演予定です。リモートで同時中継もできますが,ご興味を持たれたらぜひ能楽堂にお越しいただきたい。できれば,大阪万博でも世界に発信したいと思っています。
 西に向かうとたくさんの島々があり,大陸があり,人々が住んでいます。その人たち全てが健康で,幸せで,豊かであることを祈っています。そうであれば,出発点であり,全ての地球のエネルギーが沸きだす大阪が何もしないわけにはいきません。大阪の文化力を,ぜひ皆様,もう一度誇りに思うことから立て直し,新たな文化で大阪の力を押し上げ,そして新しい国の力をつくっていただければと願っています。
(スライド・映像とともに)