大阪ロータリークラブ

MENU

会員専用ページ

卓 話Speech

  1. Top
  2. 卓話

卓話一覧

2021年6月4日(金)第4,792回 例会

スーパーシティ/スマートシティへの期待と課題

福 島  隆 則 氏

(株)三井住友トラスト基礎研究所
PPP・インフラ投資調査部長
福 島  隆 則 

1967年堺市生まれ。’90年同志社大学工学部卒業,2007年早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了(MBA)。国内証券会社や外資系投資銀行での勤務を経て,現在はPPP(官民連携)・インフラ投資に係るコンサルティング,リサーチ業務に従事。
内閣府「民間資金等活用事業推進委員会」専門委員。早稲田大学国際不動産研究所招聘研究員。
日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。

 「スマートシティ」とは何か。国の定義は非常にわかりにくいですよね。要は言葉から連想される通りで,「未来志向のまちづくり」ということになります。より具体的には,電気は屋根につけた太陽光パネルでつくる,必要な日用品はスマホで注文すればドローンや無人で動く車で配送される,どこかに出かけたいと思えば目的地をスマホに入力するだけで自動運転のタクシーやバスが家の前まで来る,体の調子が悪いなと感じたら遠隔治療が受けられる―などを実現した街ということになるかと思います。

未来志向のまちづくり

 個人情報を含めた多くのデータ「ビッグデータ」がやり取りされることも重要なポイントの一つとなっています。電気や水道のメーターをスマートメーターにすれば,誰がいつ,どれだけの電気や水道を使ったかがわかります。町中にカメラやセンサーを設置することで,いつ,誰が,どこを通ったかというようなことも追跡できるようになります。こうしたビッグデータがあると,便利な機能が提供される反面,行き過ぎると監視社会になってしまうという懸念もある。そのことも申し添えておく必要があるかと思っております。
 「スーパーシティ」という言葉もご紹介しておきます。少々荒っぽい言い方をしますが,このスーパーシティというのも,スマートシティと目指しているところはほぼ同じものと思っていただいて全く結構かと思います。ちなみにスーパーシティというのは,実は日本での造語です。従前のスマートシティを目指す政策が,国土交通省なら自動運転,総務省だと5G,経済産業省はエネルギーなど,それぞれ得意分野に特化しています。スーパーシティを管轄する内閣府は,横断的に取りまとめをする際に,これまでと違う表現が必要だったんだろうと考えます。
 スーパーシティのもう一つの特徴は,国家戦略特区の認定による規制改革にあります。自動運転とかドローンとか,既存のサービスにないようなことをしようとすると,どうしても規制の壁が立ちはだかります。規制緩和の手続きを簡素化しているのがスーパーシティの特徴ということも言えるかと思います。
 各省庁などがそれぞれ推進する事業から,スマートシティというものを2025年までに100地域で実証するという目標があります。その頂点にスーパーシティがあります。国はスーパーシティ型国家戦略特区を指定するために,地方公共団体に提案を募集しました。応募した団体は31で,およそ5地域ほどが今夏ごろに選定されると言われています。大阪からは2地域,大阪府・大阪市共同というグループと,河内長野市の2つが応募しています。

特区,今夏ごろに5地域ほど選定

 大阪府・市の提案は,「夢洲」と「うめきた2期」で,「データで拡げる“健康といのち”をテーマにまちづくりを行う」ということです。特にうめきた2期のところでは,IoTとビッグデータを活用して創薬,医療機器開発などの健康分野を目指すというふうなことが提案されていると思います。大阪府・市の提案は「グリーンフィールド」というのが一つの特徴だと考えています。一種の専門用語ですけども,新しくつくるまちづくり,更地から行うまちづくりということです。これに対する言葉が「ブラウンフィールド」です。すでに人が住んでいる既存の街ということです。
 最後にこうしたスマートシティとどう向き合っていくべきかというところについてお話しさせていただきます。
 まずは,スマートシティを舞台にビジネスをしようと考えた場合です。実は,世界的にもスマートシティのビジネスモデルというのはほとんど確立されていません。つまり,どうやって永続的に利益を上げていくかという明確なものがないということです。大抵,実証実験,すなわち研究開発投資の域を出てないものがほとんどになります。
 日本都市計画学会で素案として整理されていたビジネスモデルを紹介させていただきます。1つが不動産開発モデルです。スマートシティですよということによって,より高い家賃が取れるであるとか,少し高めに住宅が売れる。パナソニックが神奈川県藤沢市の工場跡地で展開している「Fujisawa SST」はこれに近いモデルで運営していらっしゃるんじゃないかと考えます。それから自治体サービスモデル。公共側からサービス対価をもらっていくようなモデルです。最後にデータ流通モデル。スマートシティで集めたデータを匿名化はするけれども,それを必要とする事業者へ売却していくモデルです。

住民の主体的な関わりが成否決める

 一方,スマートシティの住人になる,あるいは今住んでいる地域が急にスマートシティを目指すぞといった場合,そこに住む人がいかに主体的に関われるかに成否がかかっていると考えます。一種の実証実験の場なので,住民自身が実証事業に参画して,その体験を発表することによって,ビジネス化をするというサイクルが回って初めて,持続的に発展するためです。
 住民,住民自身がデータ提供者になるということをよく理解する必要もあります。グーグルの兄弟会社がカナダのトロントで行っていた事業は頓挫しました。理由の一つは,プライバシー問題だったと言われています。既存の街,つまりブラウンフィールドで行ったがために,急にカメラが付いたり,センサーが付いたりということで,住みにくい,息苦しいということで,いくつかの訴訟が実際に起こされていました。
 今後,スーパーシティ,スマートシティという言葉を聞く機会は非常に増えてくると思います。そのときに,今日の話を思い出していただいて,ぜひ上手なつき合い方をしていっていただければ幸いでございます。
(Zoom参加で卓話,スライドとともに)