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2021年5月7日(金)第4,788回 例会

大阪・関西万博への取り組み(テーマ:いのちを拡げる)

石 黒   浩 氏

大阪大学 教授(栄誉教授) 工学博士
大阪・関西万博 テーマ事業プロデューサー
石 黒   浩 

1963年生まれ。’91年大阪大学基礎工学研究科博士課程修了・工学博士・2009年より大阪大学大学院基礎工学研究科システム創成専攻教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長(ATRフェロー)・’17年から大阪大学栄誉教授。
’11年大阪文化賞受賞,’15年文部科学大臣表彰受賞およびシェイク・ムハンマド・ビンラシード・アール・マクトゥーム知識賞受賞,’20年立石賞受賞。
’20年大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー就任(担当テーマ:いのちを拡げる)。

 50年前の万博以上に盛り上がる万博にしないといけないという強い使命感でもって,今回の万博に取り組ませていただいています。私,もう一つ去年から大きなプロジェクトのマネジャーをやっております。それが「ムーンショット」という内閣府のプロジェクトです。2050年にアバターというか自分の分身ですね。誰もがそういったアバターを使って,コロナ禍のような状況でも活力を落とすことなく働ける,そういう未来を作るんだと。まず,その作るべき未来についてゴールを定めて,それを実現するためにどうすればいいかというのを考えて取り組んでいく,そういうプロジェクトです。

アバターの技術, より重要に

 これから研究開発に取り組んでいって,ちょうど中間評価の5年後に万博がやってきます。今回の万博は,再びコロナ禍のような状況が起こっても確実に開催できる万博にしていく必要があると思います。それにはアバターの技術が非常に大事になってくると思っています。私自身もロボットの一番大きな国際会議で1999年,テレビ会議システムと移動する台車を組み合わせたアバターを提案しました。当時は,こういう提案をすれば,世の中どんどんこういうものを受け入れて世の中は変わっていくだろうと期待していたわけです。
 ただ,やっぱり本格的に働き方を変えることが当時できなかったんです。徐々にこういったロボットが廃れていって,ほとんどの会社がこういったタイプのロボットの開発をやめた頃にこのコロナがやってきて,もう一回,こういうロボットでちゃんと働き方を変えていかないといけないと,そういう状況になっております。
 私のほうは,最初のアバターを提案した後もずっと研究を続けて,人間の存在とは何かとかサイエンスの研究もできる一方で,ロボットを代わりに講演会場に送って講演させるというような使い方もできたりします。特に海外なんかで出かけていくのが大変なところでは,よくこのロボットを使っていました。操作はすごく簡単で,モニターを見ながらしゃべるだけでいいんです。モニターを見ながらしゃべると,その声を解析して,私らしく口とか頭とか体全部を動かしてくれるので,簡単です。このアバターは,使っていると自分の体のように感じるということなんです。単に操作しているロボットじゃなくて,このアバターを使って人としゃべるのですけど,しばらくしゃべっていると,まるでこれが自分の体のように思えることがわかっています。

バーチャルとリアル,両空間に会場

 こういった技術を使って,ぜひ大阪・関西万博を成功させたいと思っております。この万博を成功させるには3つ大きなポイントがあるかなと思うのです。最初に重要なのは,アバターの技術も使って,世界中のあらゆる人,貧しい人も,豊かな人も,コロナのような状況であっても参加できるような「物理会場」と,それからもっと自由にいろんな人が参加できる「仮想会場」というバーチャルリアリティーの会場,両方を準備する必要があります。その上で,「いのち」について忘れがたい感動をもたらす展示をして,多様な人間の未来と多様ないのちのあり方について議論していくということが大事かなと考えています。
 仮想会場と物理会場,何をするかというと,それぞれにこういったアバターをたくさん置いておくということになろうかと思います。ロボットのアバターは物理会場にたくさん配置しておいて,アバターに乗り移って万博を楽しむというのもあれば,万博の中で働いている人がアバターで働くということもできる必要があるかなと思います。
 いずれにしろ,アバターの技術があれば,こういったコロナにも強い万博の開催が期待できますし,コロナにならなくても,世界中の人がもっと自由に集まれるような新しい万博の形を,このコロナ禍後の一番大きなイベントの中で世界に発信できるかなと思っています。
 50年前,経済発展を目指した日本社会があったわけです。その50年前の大阪万博では,未来に実現すべきものや技術を展示して,皆で高度に発展した技術社会の実現を目指したわけです。一方で,十分に科学技術が発展してきた今は,いのち,人間や人間社会のあり方を模索する日本社会があるのではないかなと思っています。新しい大阪・関西万博では,多様な価値観と幸福感で発展する社会を,皆でそのイメージを共有することが重要になると考えています。

未来社会のシーン, 展示へ

 「いのちを拡げる」というテーマのもとで考えてみますと,人間はその遺伝子工学や人工臓器の科学技術で,そのいのちの可能性を拡げてきています。一方でAIやロボット技術で,人工物もより人間らしくなっています。
 特に私のパビリオンの中では,30年から50年先にはどういう生活になるのか,社会になるのかというのを先端的な医療の技術の展示を通して,実際のリアルなシーンでお見せできればと思っています。未来の病院はこうなるんだとか,未来の会社はこうなるんだとか,未来の家の中の生活はこうなるんだとか,ここに参加されている企業さんも含めて一緒に考えて実現して展示することができればと思っております。
 最後に,この万博の中で多様な人間の未来といのちのあり方についていろんな議論をして,それを「大阪inochi宣言」として未来に残していく。そういうことができれば,50年前の万博に匹敵するような新しい万博ができるんじゃないかなと思っています。
(スライドとともに)