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2021年4月9日(金)第4,785回 例会

デジタル時代を生き抜く作法 ~移動革命が示唆するこれからの生き残り方策~

井 上  岳 一 氏

(株)日本総合研究所 創発戦略センター
シニアスペシャリスト
井 上  岳 一 

1994年東京大学農学部林学科,2000年米国Yale大学大学院修了(経済学修士)。農林水産省林野庁,Cassina IXCを経て,’03年に日本総合研究所に入社。’10年より創発戦略センターに所属し,人口減少社会を生き抜く地域社会のデザインをミッションに,官民双方の水先案内人としてThink & Doに取り組む。

 地方に人が住み続けられるような分散した社会を作っていきたいと思っていまして,そのときモビリティ,移動というのがとてもキーになるわけです。今「CASE」と「MaaS」という言葉がモビリティ業界を揺るがしています。CASEというのはConnectedのC,常時とにかくインターネットと車がつながっている。AはAutonomousで自動運転,SはShared,シェア,サービスということで,所有から利用へ,EはElectricで電動化。内燃機関に頼ってきた日本の自動車業界の強みが出せなくなるということで非常に焦っているわけです。

移動を一つのアプリで

 そのCASE以上に注目されているのがMaaSということでございまして,これは「Mobility as a Service」というものです。今皆さん,アプリでスマホでレンタカー予約したり,鉄道予約したりできるようになっています。それを個別にやるのではなくて,一つのアプリで全部ができるようになるというようなことになっています。予約だけじゃなくて,決済もできてというようなものになっているのです。
 MaaSが出てきて何が変わってくるのかというと,今までバスはバス,タクシーはタクシー,鉄道は鉄道だったのですけど,個々のユーザー側のニーズに即した提供ができるようになる。その時に,当然縦割りに横串を通していく。シームレスになっていくということです。そういうことができるようになると,今度ユーザー側と供給者側の情報の両方を持っていますので,それをうまくデマンドコントロールをしながら,効率化,最適化ができるようになる。
 関西の鉄道7社が万博に向けてMaaSアプリを作ろうということで,今一生懸命やっています。そこのお手伝いをわれわれの会社でもやっているのですけれども,やっぱりいろいろ難しいことがあります。業界の壁というのが一つあります。鉄道とバスとタクシーは違うのです。法律がまず違うわけです。当然同じ業界同士で戦い合っているという企業の壁がある。企業の壁は何かといったら,やっぱり私利私欲の壁です。なかなか簡単につながれない。

小さな移動にデジタル技術

 20世紀後半以降はニーズはどんどん多様化している。例えば移動に関して,郊外から都心への大きな移動の大きな矢印の流れが今まではあった。でもコロナ期間中,そこがストップしたわけです。そうなるとどうなるかというと,例えば郊外のお宅の中で,隣の郊外の街に行くとか,小さな無数の移動になっていくわけです。今までのように雑なやり方ではなくて,やっぱりデータを取りながら,それぞれ瞬時にマッチングしていかなきゃいけないということで,AIが機能したり,デジタルの技術が使えるということになっていく。
 わきまえておかなきゃいけないのは,昭和世代というのは,デジタルの本質がどこまでいっても多分理解できないだろうと思ったほうがいい。世代的に私も50を過ぎてしまったので,どうしても何か上から教えるという目線でやってしまうのですけれども,若い子たちは,何かテーマがあって,それの答えを自分で言うというよりも,横から同じ目線で,同じ高さで,共に語り合いながら,共に考え,共に学ぶみたいな,そんな姿勢です。
 ダグラス・アダムスという「銀河ヒッチハイク・ガイド」という本を書いた人がいて,この人のダグラス・アダムスの法則というのがあって,「人は,自分が生まれた時に既に存在したテクノロジーを,自然な世界の一部と感じる」,「15歳から35歳の間に発明されたテクノロジーは,新しくエキサイティングなものと感じられる」,「35歳以降になって発明されたテクノロジーは,自然に反するものと感じられる」。
 今の35歳以下の子たちは,もう生まれた時からブロードバンドみたいな常時接続の時代です。インターネットの本質みたいなのがわかっている子たちがこれからデジタルを牽引していくのだろうなと思っているわけです。
 インターネット的な世代の特徴というのは,全部がインターネットでつながっていて,切り離して考えないというわけですね。作り手と使い手の二項対立というのはありません,全部つながっているから,お互いに共にやるという世界です。
 豊田章男さんが,100年に一度の大変革の時代と言っていますけれど,ここで起きている大変革,デジタルに変わるからとか,ものづくり業界的にはそういうことなのでしょうけれども,もっと本質的な課題に直面しています。一つは昭和層と若年層との分断です。結局,何で過疎が起きるかといったら,今とにかく若い子たちはどんどん離れていっているわけです,そういうのは嫌だと。車離れ,家電離れも一緒で,皆若い層がものから離れていっている。

経済優先から生命や文化へ

 これはやっぱり昭和世代がやっていることに対して,ノーを突きつけているということだと思う。そういう中で,昭和の世代が経済というレガシーに寄りかかって,一生懸命経済成長をさせようとして経済優先で物事をやるから,何か生命的なものとか,文化的なものがどんどん破壊されていく。それがまた若者たちを失望させていく。そういう中で,逆にこれからそういうものを乗り越えていかなきゃいけない。この世代の分断とか,これからキーワードになる世代の分断をどう乗り越えていくか。主体性,当事者性をどう皆が取り戻していくか。経済優先じゃなくて,やっぱり生命とか文化とか,そういうものをどう大事にしていくかみたいなことが,これから重要になってくると思います。
(Zoom参加で卓話、スライドとともに)