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2021年3月26日(金)第4,783回 例会

不合理だらけの日本スポーツ界

河 田   剛 氏

スタンフォード大学
アメリカンフットボール部 コーチ
河 田   剛 

1991年城西大学でアメリカンフットボールを始め,’95年より現オービック・シーガルズでプレー。選手として4回,コーチとして1回,日本一に輝く。2007年アメリカに活動の拠点を移し,強豪スタンフォード大学フットボール部のボランティアコーチに就任。’11年より正式に採用され,Offensive Assistantに就任。数少ないNCAA一部リーグの日本人コーチとして活動。’18年 大阪経済大学人間科学部客員教授に就任。’20年より母校の城西大学で特任教授を務める。

 今からお話しすることは,私が身を置いているアメリカのカレッジスポーツ界で起きていることです。日本人として日本のことを批判しないといけないこともあると思いますが,私のこれから言うことは,いつも言っていますが「システム憎んで人を憎まず」ということでご理解いただきたいと思います。
 日本ではコロナでもそうなんですが,「緊急事態宣言を延長する意向を表明する方向で調整を図る」とニュースで言っていました。一体,何人の方にお伺いを立てないと事が進まないのかと思いました。

周りをみて考えてから行動

 何が言いたいかと言うと,アメリカ人はまずやってしまうんですね,やってから考えるんですね。日本人はいろんなことを,周りを見ながら考えて,それからこれやっていいのかな,ということを考えてから行動に移す。これは日本人のいいところですけれど。このために,比較論ですが,コロナの被害がほかの国に比べてそう悪くもないというところがあると思います。先に周りを見ながらいろいろ考えてから行動するというのが,日本がコロナで被害が少ないという意味では功を奏しているという感じです。
 これがスポーツの話にどうつながるかというと,スポーツビジネス,もしくはビジネス全体の話では,この日本人のいいところというべきことが,いろんなことを邪魔しているなという感じがあります。
 アメリカのスポーツはすべて「レベニューシェアモデル」です。スポーツのビジネスなどを外から見ていると,いろんな情報を仕入れて,本当に最先端なことをやっています。でも,そのビジネスの構造を近くで見ると,いわゆる参入障壁は高いですけれど,そこに入ってみたらもうけがありますよという話になっています。だから,放映権にしてもスポンサーシップにしても,一たん集めて,それをシェアしていくという形になります。
 カレッジアスレチックビジネスの特徴としまして,莫大なお金が動く中で,勉強が本分である大学生とビジネスを切り分けなきゃいけないというために,NCAAという団体が存在し,ここがすごく厳しいルールを設けています。

米国は仕組みで対応

 例えば,われわれは今オフシーズンです。オンシーズンは8月の1ヵ月のキャンプと11月末まで毎週土曜日が試合。これだけです。それ以外は基本,練習することは許されません。チームの活動はウェイトトレーニングだけです。その4ヵ月の間も,週に活動できるのは20時間。試合で3,4時間取られてしまうので,実質16時間。そんなレベルです。
 日本人は今まで,いろんなところで個人の努力に頼ってきたと思います。アメリカ人はこれを組織とか仕組みで対応していきます。NCAAはどんな仕組みかというと,カレッジの後にプロに行って,例えばドラフトされたお金をもらった選手が破産しているという話があるんですけど,それをこのNCAAは「僕たちは,ちゃんとルールをつくってやっています。週に20時間しか練習させていません。なので,勉強はちゃんとしているはずです。何か文句ある?」というような言い方をしています。でも,それが正しいと思います。水飲み場までは連れて行けるけど,水を飲むのはあなたですという話です。
 日本人の指導者に,「どうやって強いチームをつくるんですか」と言うと,指導とか,技術とか,マネジメントとか,いろんなことを語ってくれます。アメリカ人の特にトップレベルのコーチに同じ質問をすると,99%,「それはいいリクルーティングをすることだ」ということを話してくれます。ネブラスカ大学というアメリカの真ん中にある大学は,その地の不利を克服するために,プライベートジェットをリクルーティングのために購入しています。それだけリクルーティングが大事なんです。
 厳しいNCAAルールにしばられるので,リクルーティングも同じようなビジネスです。コンタクトしていい時,コンタクトしてはいけない時,いろんなことが決まっています。

個人の努力に頼る日本

 「むだに厳しいのに穴だらけのルール運用をして,学生の清さを時代錯誤な形で演出し,ビジネスチャンスを逃す」というのが,僕から見た日本のビジネスです。アメリカでは,「厳しいルールを作り,厳しい運用をするが,ビジネスチャンスは逃さない!」。国民性なのかもしれませんね。
 日本は個人の努力に頼ります。アメリカは,いろんなダークサイドの話はありますが,ポジティブに見るならばうまく「仕組みで対応」していると思います。
 私の「不合理だらけの日本スポーツ界」という本は,出版社の人に聞いたら,日本と海外でのビジネスをしている人に売れているそうです。日本のスポーツ界で起きている不合理性ってビジネス界と一緒だよねということらしいです。
 日本は一つのことだけをやる人がスポーツ界に集まっていてスポーツを終えたら,ビジネスの経験がない人がメダルを取ったからと競技団体の会長になったりします。ビジネスをやってきていないので,運営の仕方もわからなくて,いろんな問題が起きてきます。今はそんなことを言っていますが,とはいえ「未成熟だからこそチャンスがある」とも思います。
(スライドとともに)