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2021年2月26日(金)第4,779回 例会

気候変動問題を巡る世界の潮流

大 代  修 司 氏

住友商事グローバルリサーチ(株)
戦略調査部長
大 代  修 司 

1980年京都大学工学部原子核工学科卒業後,住友商事入社。原子燃料部配属後,動力炉・核燃料開発事業団出向,トロント,ニューヨーク駐在を経て,サミットAEA社長,原子力部担当部長などを歴任。現職に至る。

 きょうは気候変動問題について多少角度を変えてお話出来ればと思います。
 まず,「気候変動による損害」です。注目すべきは,温暖化という高温による被害だけでなく,様々な現象が起きています。米国,欧州で寒冷化による被害が拡大しているという話があります。1981年からの30年間で3割ぐらい北極海の氷床が小さくなっています。北極海の氷が溶けると,北米や欧州への寒冷化が発生します。
 毎年のように豪州やカリフォルニアで大規模な山火事が発生しています。雨が降らなくなって,乾燥状態が続いて火災が発生しやすくなっている,鎮火もしにくくなっているということです。

経済損失2.5倍に

 国連によると1998年~2017年までの20年間で,気候変動が原因とされる経済損失が2兆2,500億ドルに上ったといわれます。その前の20年間の2.5倍ぐらいに拡大しているということです。
 世界をカーボンニュートラルにもっていかないと将来危ういということで,2050年にカーボンニュートラルを達成しようという国が非常に増えています。EUが先陣を切り,ほぼすべての先進国が宣言しています。日本も昨年,菅首相が表明しています。中国は,2060年のカーボンニュートラルを宣言しています。現状を見ますと,かなり野心的な目標になります。
 気候変動対応で先頭を走るEUの政策を見ておきます。グリーンディール政策を打ち出し,今後10年間で1兆ユーロを気候変動対応に充てるとしています。並行して,民間の資金の導入が不可欠だとして,「EUタクソノミー」を制定しています。これは投資のための分類で,投資対象の経済活動が環境的にサスティナブルかを判定する基準です。当面EUのグリーンボンドのようなサスティナブルなプロジェクト向けの金融商品の発行基準に使われるということですが,注意しておかなければいけないのが,EUが将来,BIS規制やISOのような標準化にも使おうという意図があることです。
 EUと中国との間で,タクソノミーで協力しましょうというタスクフォースも立ち上がっています。つまりEUと中国で共同のタクソノミーを立ち上げようという動きです。こうした動きは,先々世界の経済活動に大きな影響力を持ってくる可能性があります。
 発電と自動車について,タクソノミーの内容を見ておきたいと思います。発電ではCO2の排出基準を100gCO2/kWhとしています。現在最高水準の石炭火力はもちろん,世界最高水準のガスタービンのコンバインドサイクルでもダメ,つまり,火力発電は実質上すべて排除されているということになります。

透けて見えるEUの意図

 自動車は2025年以前と以降で分けてあります。2025年までは50gCO2/㎞という燃費の基準で,現在世界各国で導入予定の燃費基準のいずれよりも厳しいものです。世界最高水準のハイブリッド車でもクリアできません。PHV(プラグインハイブリッド),EV(電気自動車),FCV(燃料電池車)だけがクリアできる。
 2026年以降はゼロです,0gCO2/㎞。クリアできるのはEVとFCVだけとなります。ここまで厳しい基準を,短期間でできるのかという疑問もありますが,EUは自動車に対しては徹底的に電動化を進めるという政策があらわれています。注意点は,EVの生産量が,米国のテスラを除くと,上位のほとんどが欧州か中国の自動車メーカーで占められています。この辺にEUの意図が透けて見えるかなと思います。
 次は米国の政策です。トランプ政権でパリ協定から離脱しましたが,バイデン大統領が就任し,復帰しています。バイデン大統領はグリーンレボリューション(緑の革命)を掲げ,4年間で2兆ドルのクリーンエネルギー投資も政策に盛り込んでいます。バイデン政権は,他国の気候変動対応も促進すると言っており,日本も少なからず影響が出てくるのではとみられます。

気候変動をチャンスに

 企業の取り組みも見ておきます。「RE100」を聞いたことがある方もいらっしゃると思います。自らの事業で使用する電力を100%再エネで賄うというもので,ネスレ,イケア,NIKE,日本ではパナソニックなどが参画しています。「Climate Action 100+」は機関投資家のイニシアチブです。温室効果ガス排出量の大きな161社に対して,その削減を要求しています。
 英BPは2050年のCO2ネット・ゼロを発表しています。2030年までに石油ガス生産量を4割削減するとしています。自らの主たる事業を4割削減しますということです。
 新たなビジネスとしては,カーボンリサイクルがあります。CO2を材料として炭素化合物として再利用しようというものです。典型的なものは,二酸化炭素と水素でメタンを合成するメタネーションです。
 量的に期待できるのはコンクリートに二酸化炭素を吸収させるといったものがあります。CO2を有用な化合物とするのに必要なのが水素です。水素はそのまま燃料になりますが,化合物にも非常に有用な存在となります。コストが問題で,簡単に商品化できるものではないが、炭素価格等が入ってくると、一気にビジネスとして成立する可能性もあります。気候変動の緩和策をビジネスとしてとらえようという動きは,今後ますます大きくなるのではないかと思われます。
 気候変動は現実の問題で,直ちに対応していかなければなりません。ビジネス上は厳しい状況も出てきますが,チャンスも出てくると思われます。世界では,したたかに取り組む企業や国が既に出てきています。
(Zoom参加で卓話,スライドとともに)