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2021年2月12日(金)第4,777回 例会

伝統を守り未来へつなぐ御食つ国みえの食材を新しい一皿に~伊勢志摩ガストロノミー~

樋 口  宏 江 氏

志摩観光ホテル 総料理長 樋 口  宏 江 

2008年ベイスイート開業とともにフレンチレストラン「ラ・メール」シェフとなる。’14年総料理長に就任。’16年5月に開催された伊勢志摩サミットでワーキングディナーを担当。’17年農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ」にて女性初,三重県初の「ブロンズ賞」を受賞。

 私どものホテルがある志摩の国は「御食つ国(みけつくに)」と昔から呼ばれ,海産物がたくさんとれる,食材が豊かな土地です。そんな土地で先々代の総料理長 高橋忠之シェフが「海の幸フランス料理」と名づけ,地元でとれる素材を使って,フランス料理の技法を使い,お客様におもてなしをするという料理を発信しました。その考えを先代で,今の名誉料理長の宮崎英男シェフとともに,引き継ぎながら料理を提供しています。
 5代目高橋忠之さんが掲げていた志摩観光ホテルの調理師に向けての10訓(司厨士10訓)があります。その中でも「周囲の変化に挑戦せよ」と特によくおっしゃられていました。自分の仕事とか目先のことだけに注力しがちですが,周りの変化に気づきなさいということです。

「伸びない3要素」

 高橋さんは「バカ・ケチ・汚い」が「伸びない3要素」とよく挙げていらっしゃいました。バカというのは,勉強をしようとしない人。ケチというのは,そのものの価値がわからない人。汚いというのは,美しさを理解する尺度を持っていない,要は美意識のない人で,それに当てはまらないように勉強していきなさいと教わりました。
 6代目の宮崎シェフは料理に対する姿勢がとても真摯で,おっしゃっていたのが「料理八心」です。美味しいものを目指す「志」。良いものを作るために努力を惜しまない「真心」。1日の中の小さな積み重ねが結果をもたらすというところで「恒」。そして「健」,肉体も精神も健やかに。自分の体も心も健康でなければ,美味しい料理は作れないということを常におっしゃっていました。清潔の「清」。人や書物から知識を吸収する「識」。「美」,美しいものを知る。そして「技」,素材を活かしきる。いただいたものを活かしきる技術をつけなければ美味しい料理は作れないという意味です。

伊勢志摩サミット

 2016年5月,「伊勢志摩サミット」が当ホテルで開催されました。お昼の食事が2回とディナーが1回の提供でした。お昼はいずれも和食でした。
 いずれもワーキングディナー,ワーキングランチで,会議をしながらですので,お食事はその邪魔にならないようにということで,外務省の方からいろいろご依頼がありました。中でも,一口で食べられるようなサイズ感にしてくださいと。そして,飲み込みにくいもの,パサパサするとか,かみ切りにくいとか,そういうものは避けてくださいといわれました。海外の方は,食文化が違いますので,何かわからないものにはなかなか手をつけられないということで,一目見て何かわかるもの,そして一口食べて美味しいと思ってもらえるような,そんなお料理をつくってくださいということでした。いろいろなご依頼があったのですが,三重県の素材,そして日本の食文化ですとか,食材のすばらしさを知っていただきたいという思いで献立を立てました。
 前菜は,地元,三重県でつくられるトマトをベースにした海の幸と合わせた前菜,そして当ホテルの長くお客様に愛されております伊勢海老のクリームスープとしました。こちらも熱くしてしまいますと飲みにくいので,泡を浮かべたカプチーノの仕立てでご用意させていただきました。
 鮑と伊勢海老も,一口で食べやすいということがありましたので,伊勢海老も殻から外しまして身だけとし,鮑も1個丸ごとではなく,スライスして食べやすい状態にしました。メインは松阪の牛のヒレ肉を使い,地元で採れるワサビを添えて日本らしさも演出させていただきました。デザートはチョコレートと柑橘という,世界的にも組み合わせがご理解いただけるデザートをご用意させていただきました。

食文化も一緒に発信

 私が日ごろホテルで取り組んでいるお料理の姿勢を「伊勢志摩ガストロノミー」と名付けています。地元でとれたすばらしい食材を使い,食文化も一緒に発信し,たくさんのお客様にお越しいただけるような取り組みです。生産者をお招きし,生産されるものへのこだわりをお話しいただき,お客様はそのお話に耳を傾け,その後,食事を召し上がっていただくというイベントも開いています。
 私が料理をしながら思っているのが,「昨日より今日 今日より明日 自分らしく進め 覚悟を持って挑戦し続けること」。少しでも前に進めるように,1日を反省して,次の1日に活かせるように。そして,自分が今まで生きてきた生き方はなかなか変えられません。そうでありながらも時代は変わってまいりますので,いろんな考え,いろんな人の意見を伺いながら,「自分らしく自分の考えを進めて」。そしてこの道に進もうと思った最初の気持ちをもう一度思い起こすというか,前に進む気持ちを振り返りながら「覚悟を持って挑戦し続ける」。
 挑戦し続けるということが,フランス料理の考え方でもあるというふうに高橋シェフから習いましたので,歩みを止めることなく,挑戦し続けてまいりたいと思っております。
(Zoom参加で卓話,スライド・映像とともに)